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☆ ☆ 第47話 稲荷
「あそこの神社、キツネが出るらしいよ」
友人の声に里奈は顔を上げた。通い慣れた通学路にある、古びた鳥居。何年もこの道を通り、この寂れた神社を見てきた。けれども、そんな話は一度も聞いたことがなかった。
「……ま、キツネくらいはいそうだよね」
ちょっとした山の入口にある鳥居を眺めて漏らす。
動物うんぬんという話も理解できなくはない。
里奈の曖昧な返事が気に食わないのか、友人は語気を荒くした。
「ただのキツネじゃなくて! 九尾!」
「え……?」
一瞬呆気にとられたが、里奈はすぐに笑い出した。
「やだぁ、変なコト言わないでよ」
目のふちに溜まった涙を拭うと、悲しげな表情の友人が目に入る。
「里奈なら信じてくれると思ったんだけどな」
友人の姿は次第に透明になり、空気に溶けるように消えてしまった。
翌日、学校には友人の姿がなかった。他のクラスメイトに彼女のことを問おうとして、友人の名を思いだせないことに気が付いた。