☆ 第4話 ゴポゴポ
ゴポッ、ゴポゴポ……。
水の中に空気を送り込んだような、あるいは地の底からガスが湧きだしてくるような様子を連想させる音で目が覚めた。
水道管の不調だろうと思っていたが、そうではないらしい。音は家の外、どこか遠くからこちらへ近付いて来ているようなのだ。
仕方なく、眠い目をこすりながら布団から出た。
窓へと歩み寄ると、熱帯夜の風がねっとりと絡みつく。その異様な臭気に思わずのけぞった。
窓の外には、何かドロドロとした大きなものがいた。遅々とした速度で、這うように進んでいく。巨大なヘドロの塊のような体には、宝玉のような双眸が輝きを添えていた。
窓を閉めて目を凝らすと、体の表面に泡が浮いては弾けている。さっきから聞こえていたゴポゴポという音は、こいつの体内から湧きだすガスの音だったようだ。鼻を突く臭気もこれが原因だろう。
辺りを見回せば、そこかしこの家々から住人が顔をのぞかせていた。皆がその謎の生命体を見つめている。しかし、謎の生命体はそんな人々の様子などお構いなしで道路を進んでいった。
結局それが何なのかわからぬまま、その姿が見えなくなるまで窓の外を見続けた。
翌朝、何とも言えぬ異臭で目が覚めた。昨日のことは夢じゃなかったのか、とうんざりしながらも外を見る。
道路の真ん中には、ナメクジの這ったようなヌメヌメとしたヘドロがくっきりと筋になってついている。異臭はそこから来ているようだ。
「……掃除しよ」
観念した私は、鼻を摘まみ庭へ出た。ホースで水を撒いて片づける算段だ。だが、ホースから出てきたのは道路にあるのと同じヘドロだった。
水道局に連絡すると、近隣から同様の苦情が相次いで調査中とのことだった。