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  ☆  第38話 最強の男

 俺の同級生には、最強の男がいた。「いた」と過去形を使うのは、そいつはもうこの世にいないからだ。


 彼は本当に強かった。ヤンチャしていた俺たちは、彼を囲んでタコ殴りにしたことがあった。その時も、彼は悲鳴一つ上げなかった。殴られてよろけることはあっても、顔色一つ変えずに俺を見つめてくる。そんな不気味な奴でもあった。


 それが気に食わなかった俺たちは、上履きに画鋲を忍ばせるいたずらを画策した。これなら流石のあいつだって、声を上げずにはいられないはずだ。俺たちは無様に泣き叫ぶあいつの様子を想像して笑いが止まらなかった。

 しかし。俺たちの予想に反してあいつは泣きもしなかったし、声も出さなかった。靴に小石が入っている時のようにかかとを床に打ち付けただけで、そのまま教室へ向けて歩き出そうとしていた。


 面食らってしまった俺たちが、逆に小さな悲鳴を上げてしまったくらいだ。仲間の一人が慌てて飛び出していって、事情を説明して彼に靴を脱がせた。

 足の裏には、おぞましい数の画鋲が深く突き刺さっていた。仕掛けた俺が言うのもなんだが、吐き気が込み上げるような惨たらしさだった。


 最強の男は、何のためらいもなく画鋲を一つずつ引き抜いていく。白かった靴下に赤い水玉模様ができるのも気にせず、眉ひとつ動かさない徹底ぶりだった。そして、全ての画鋲を抜き終えると傷を確かめることもなく平然と教室へ向かってしまった。その時には俺たちの中でのあいつの位置づけは興味の対象から畏れの対象へと変わっていた。


 俺たちに深いトラウマを植え付けたあいつは、いたずらの三日後に入院しそれから間もなく亡くなってしまった。死因は感染症だったとか。のちに聞いた話によると、彼は無痛症だったらしい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 無痛症についてはよく存じませんが、いじめられていた(?)彼にはそれを打ち明ける友人や怪我に意識を向ける同居人などがいなかったのかと気にかかりました。 自身の怪我に無頓着なところを見ると、無痛…
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