☆ ☆ 第34話 自転車
僕のご主人さまは乱暴だ。
急カーブや急ブレーキは当たり前。未舗装の砂利道や、雨上がりのぬかるみだってなんのその。
僕がキイキイ悲鳴を上げれば、ビックリするぐらいに強く蹴り飛ばされた。
耐え切れなくなったタイヤが弾けた時も、不規則に弾むタイヤのままでスピードを出し続けた。やっと修理に出してもらった時には、自転車屋のおじさんが哀れむくらいに酷いありさまだった。
それでも彼が僕を使い続けるのは、どうしてなんだろう?
僕の修理にかけたお金を全部合わせれば、新品だって買えたのに。
何にしろ、使ってもらえるのは嬉しいことなんだけどね。
でも、人と同じように物にだって寿命がある。最近は物の寿命が短くなってきていると聞くし……。
僕が寿命を迎えるもの、そう遠くないことかもしれないな。
だからさ、そうやって無理に段差を飛び降りるのはやめてよ。僕だって痛いんだ。
僕の悲鳴は届かない。
プツリ。僕の中で何かが切れる音がした。
全力で坂道を駆け下りる僕。気持ち良さそうに口笛を吹きながら、尚もペダルをこぐ彼。
二人の息はぴったりだ。
坂道を降りれば、そこは大通り。この町一番の交通量を誇る、主要道路だ。
信号は赤だから、いつものように彼はブレーキを握った。でも、残念ながら僕のブレーキはさっきブチ切れちゃったんだ。
「あああぁぁぁぁぁぁ……」
大丈夫。逝く時は僕も一緒だから。
今までアリガトウ。
……ぐしゃり。




