☆ ☆ ☆第31話 雨雲
残酷な描写があります。苦手な方はご注意ください。
ぼんやりと空を見上げると、小さな雲の子供があった。雲はあっという間に成長して、巨大な入道雲になる。
ゴロゴロと雷鳴が轟き、大粒の雫が地面を叩いた。
私はカバンの中の折り畳み傘を開いて雨を凌ぎながら、彼の訪れを待ち続けた。
「約束。今日の夕方、丘の上の木の下で」
彼の屈託のない笑顔を心の支えに、いつ来るとも分からない彼を待つ。本当に来てくれるのかさえ分からない。けれど、今ここで家に帰ればもう二度と彼に会えない気がした。
明日、彼は遠い町の人になる。
だから町の出口にあるこの丘でお別れをするの。
雷は、まだ鳴り止まない。
傘を叩く雨粒の強さも、弱まらない。
雨雲のように私の心が重くなる。
あと十分。あと十分待って彼が来なかったら、諦めよう。
稲光の後にすぐ轟音。
近くに雷が落ちたようだ。腰かけていた木の根が揺れていた。
――お願い、早く来て。
震える私の祈りが届いたのか、彼の車のライトが近づいてきた。
雨に濡れるのも構わず、傘を投げ捨てた。惹きつけられるように、車へ向かって走り出す。
目の前が閃光に包まれた。
遅れて、全身を激しい衝撃が駆け抜ける。身体が、服が、焦げ臭い。
動けなくなった私の元へ駆け寄ってくる彼を見つめながら、闇に堕ちた。