☆ ☆ 第3話 準備室
準備室。子供たちは立ち入ることが許されない、秘密と魔法の空間だ。その部屋からは様々な道具や薬品が現われる。
覗き込めば饐えた匂いのする異空間に興味と畏怖の念を抱きながら、子供たちは育っていくのだ……。
深夜の学校に、小さな影が二つ忍び込む。夕方に開けておいた窓の鍵は幸い開いたままになっていた。
「おい、本当にでるんだろうな」
一人が押し殺した声で聞いた。
隣にいるもう一つの影が、勢いよく頷く。
「うん。美術準備室に出るって兄ちゃんが言ってた」
暗闇の中、靴を脱いだ二人は目を凝らしながら進んだ。
“真夜中の美術準備室には、子供を食べちゃうこわーいおばけがでるんだって!”
兄の言葉を胸で反芻すると、床の冷たさが背骨を伝って這い上がる。
「……ここだ。開けるよ?」
二人は顔を見合わせると、慎重にノブを回した。扉は悲鳴のような音を立てながら、ゆっくりと開いた。
「どう? 何かいる……? ……うわっ!」
「どうした? あっ……」
後ろからの強い衝撃に、二人は床に臥せる。大きな影が二つの軽い体を容易くかついで、部屋の中に消えた。
翌日の美術準備室には、真新しい二人の子供の石膏像があった。二人の子供が戯れるような形のその像は、今にも動き出しそうなほど精巧である。
しかし、なぜかその表情は硬い。恐怖に見開かれた目と、こわばる口元にはどのような意図があるのだろう。
新たな仲間の名を、呼んでいるのだろうか。