☆ ☆ 第29話 みつあみ
夏になるとあの子のことを思い出す。確か、名前はりっちゃん。腰まである髪をみつあみにして、麦藁帽子を被っていた。
りっちゃんは、しょっちゅううちの近所の公園に来て一人で遊んでいた。見かねた僕が誘ったのがきっかけで仲良くなったのだ。
りっちゃんは夏休みの間だけこっちに来ているらしく、友達がいないのだと言っていた。だから、僕たちはりっちゃんを仲間に加え、束の間の夏休みを目一杯に遊びつくした。
彼女と一緒にいたのはほんの一ヶ月だった。けれども、いつまでもそのことを鮮明に覚えているほどに楽しい時間だった。
あれから二十年、三十歳になった僕たちは同窓会で久々の再会を果たした。
思い出話に花が咲き、皆が口々にあんなことをした、こんなことがあったと子供に戻ったみたいな顔で語り合った。
どういう流れでそうなったかは忘れたが、僕はりっちゃんの話題を切り出した。
すると、友人たちは一様に訝しげな顔をして「そんな子は知らない」と返してきた。
「ほら、麦藁帽子にみつあみのりっちゃんだよ。本当に覚えてないのか?」
必死で訴え続けると、友人の一人が「ああ」と小さく漏らした。
「思い出したよ。あの遊びな。またあれの続きやんのか?」
彼が一体何を言わんとしているのか、ちっともわからなかった。
「お前って、いきなり見えない誰かと話し始めるんだよな。あれだろ、幽霊ごっこ」
アルコールの入って赤くなった顔をさらに赤くして笑う友人に、私は呆然とした。