☆ 第28話 祖父の好物
おはぎを作ったから食べにおいで、とお彼岸の朝におばあちゃんから電話が来た。
おばあちゃんはお彼岸になるとたくさんのおはぎを作ってくれる。あんこをもち米で包んで、それをさらにあんこでくるむ特製のおはぎだ。私が生まれる前に死んだおじいちゃんも、このおはぎが大好きな人だったらしい。
私もお彼岸が待ち遠しくなるほどおばあちゃんの作るおはぎが大好きだ。
お彼岸の日は、最初におじいちゃんのお墓参りをする。写真で見たおじいちゃんは怖そうな人だった。おじいちゃんに怒られないように心をこめてお墓を掃除して、しっかりと手を合わせる。
その一連の行事を終えてようやくおばあちゃんの家に向かうのだ。
おばあちゃんの家についたらすぐに仏壇に手を合わせる。お線香の匂いは苦手だけど、お供えしてある三つのおはぎを見た瞬間にワクワクが勝った。
お土産のおはぎをタッパに詰めてもらって、それとは別にお茶と皿に乗せたおはぎももらう。満面の笑みでかぶりつく私を、おばあちゃんは嬉しそうに見ていた。
「お仏壇のも持ってきて食べていいよ」
私の食べっぷりを見たおばあちゃんがお供えしてあったおはぎを持ってきてくれた。ラップを掛けてあるから乾いているということはない。
さっそく箸で半分に割って、不満の声を漏らした。
「おばあちゃん、これ中身ないよ」
私が見せたおはぎは、中のあんこだけがなかった。真ん中が空洞になっているのだ。
他のおはぎも割ってみると、どれも中身が消えて空洞になっていた。
「じいちゃん、あんこが好きだったから……。あんこだけつまみ食いしたのかねぇ」
遠くを眺めて呟いたおばあちゃんの声が、妙に印象に残った。
お彼岸を題材にしたものを、というリクエストをいただき、書いてみました。
お彼岸と聞いておはぎが浮かぶ辺りに隠しきれない食い気が…(笑)




