☆ ☆ ☆第24話 台所
残酷な描写があります。苦手な方はご注意ください。
トントントントントントントン……。
包丁がまな板をリズムよく叩いている。
――お母さんが朝食の準備をしている頃かな?
私は寒さに身を縮めながら階段を下り、台所へ向かった。
「お母さん、てつだ……」
手伝おうか? 言いながらひょいと母の手元を覗き込んで、言葉を失う。
まな板は赤く染まり、生臭い血の臭いがそこに漂っていた。まな板から零れ落ちたものを飼い猫がくわえていく。
トントントントントントントン……。
母は自分が置かれている状況が分かっていないのか、黙々とそれをきざみ続ける。
私は吐き気を押さえ切れず、シンクに胃の中のものをぶちまけた。
「お母さん、手……!」
「あら、いけない」
母はミンチ状になった自分の左手を見て、さして驚いた様子も見せずに声をあげた。それでも、包丁を動かす右手は止まらない。
トントントントントントントン……。
飛び散る肉片を浴びながら、私は悲鳴をあげて床に倒れこんだ。
気がつくと、私はベッドの中にいた。
――……はぁ。悪い夢だったんだ。
安堵に胸を撫で下ろすと、いつもの心地よいリズムが聞こえてきた。
トントントントントントントン……。
――さ、早く着替えてお母さんの手伝いをしなくちゃ。