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☆ 第20話 窓枠
彼女はいつもそうするように、窓を開けた。
爽やかな秋の風が室内に吹き込む。ピンクの花柄のカーテンがふわりと膨らみ、彼女の長い髪が風を受けて舞い踊る。
目を細めて窓の外を見る愛らしい彼女の姿に、僕は今日も足を止めた。
――今日こそ、僕の存在に気付いてもらおう。
自分の背丈より少し高い窓枠に手を伸ばす。
窓枠を掴む手に気合を込めると、少しずつ僕の指先に色が増していく。
――まだ半分くらい透明だけど、まあ、大丈夫でしょ。
コンコン
窓の下の所を、空いている方の手で軽くノックする。
すると、彼女は顔をあげて僕の方を見た。僕の身長は窓には届かないから、窓枠に掛けた五本の指だけが彼女から見える形となる。
彼女は僕の手を見て、小さな悲鳴をあげた。
――僕だよ。いつも君のことを見ていたんだ。
僕の声は届かない。
彼女は窓際に近付いてきた。僕の体が見えないことを確認すると、勢いよく窓を閉めた。窓枠は僕の指をすり抜けて定位置に収まる。鍵の閉まる音は拒絶の合図だった。
――また失恋だ。
僕は挟まれた手よりも痛む胸を押さえて、彼女の家を去った。