☆ 第19話 長靴
真っ赤な傘に、お揃いの長靴。得意げに傘を回して、本人も回る。
ここは室内だし、外は雨粒一つ落ちていない。むしろ、快晴と言ってもいい位の天気だ。
どうやら新しい傘と長靴は彼女のお気に召したらしい。
今すぐにでも家を飛び出さんばかりの彼女に、雨が降るまで待つように言って傘を畳み、長靴を脱がせた。彼女はそれが気に食わなかったのか、大声で泣き叫び始めた。
「ママが泣き虫さんが嫌いなのを知ってて泣いてるのかな? 泣き虫さんには傘も長靴も当たらないのよ?」
私が悪戯っぽく言うと、彼女はぴたりと泣き止んだ。
「あたち、なきむちじゃないもん!」
彼女は舌っ足らずに言うと、慌てて涙を拭い、笑顔を見せた。
待ちに待った雨の日、彼女は私の前をどんどん走って行った。車が来たら危ないよ、と注意したのに、彼女は車道に飛び出してしまった。
クラクションとしばしの沈黙。
私はどうすることもできなかった。
泣き虫は嫌いだと言ったはずの私は、彼女よりも泣き虫になっていた。
ちょっとしたことで彼女――愛しい娘のことを思い出してしまう。
あの忌まわしい事故が起きた交差点には、雨の日になると赤い傘と赤い長靴の女の子の幽霊が出るという噂が囁かれはじめた。
それから、雨の日は娘を探して交差点に通うようになった。
しかし、霊感のない私に、娘はまだ姿を見せてくれない……――。