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怪奇短編集 ―Mysterious Worlds―  作者: 牧田紗矢乃


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 ☆ ☆ 第18話 空き缶

 僕らの遊びは、いつでも唐突に始まった。

 じゃれ合ううちに鬼ごっこを、雪が積もれば雪合戦を。いつも笑顔が絶えなかった。

 その遊びが原因で大人に怒られることも少なくはなかったけれど。――そんな僕らの笑顔を、凍りつかせた出来事があった。




 いつものように公園で遊んでいた時だった。空き缶を見つけた僕らは、缶蹴りをすることにした。


「俺が鬼な。いーち、にー、さーん……」


 いつも通り、仲間の一人が鬼になった。僕は缶が見える木陰に身を潜めた。十のカウントを終えて鬼が動き出すのを、木陰から息を潜めて窺う。

 鬼と缶の距離を目測し、今だ、と飛び出そうとした時。足音が聞こえた。

 僕が慌てて身を隠すと、砂を踏む音が背後を通り過ぎる。


 見つからずに済んだようだ。しばらく様子を見て、もう一度飛び出そうと姿勢を整える。……と、足音が背後から聞こえる。


 動こうとするたびに足音が聞こえるので、迂闊に動けずにいた。

 鬼が缶を蹴りに現われないところを見るに、誰も見つかっていないようだ。


 ――おかしい。


 同じように思った仲間たちがぞろぞろと缶の周りに集まってきた。僕もそちらへ向かう。

 誰が鬼だったろう、と確認を始めた矢先だった。


「みんな、見ぃつけた!」


 どこからともなく声が聞こえ、空き缶が宙を舞った。

 でも、そこには誰もいない。

 一瞬の空白の後、僕らは悲鳴をあげて逃げ帰った。




 ――あの日から僕らは缶蹴りをしていない。

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