☆ ☆ ☆第15話 ロングヘアー
残酷な描写があります。苦手な方はご注意ください。
腰まであるストレートの黒髪は、唯一自慢できるものだった。
気難しい彼も、髪のことだけは褒めてくれた。
おかげで、髪の手入れに手間を惜しまなくなった。
シャンプーは高級なものを使うようになったし、枝毛一本だって許さない。容姿も勉強も人並みな私を、唯一引き立ててくれるのがこの髪だから。
今日も鏡の前に立って髪を梳かしていると、彼がやって来て私の後ろに立った。
彼は私の髪に手を差し込んで、サラサラと滑らせる。そのまま髪を掻き分けると、首筋にキスをした。
そして――。
「さよなら」
軽く囁いて、彼はライターの火をつけた。私の視界からライターが消える。
咄嗟に振り向くと、髪がふわりと波打った。視界の端に赤い何かが踊る。異臭が鼻を突く。
遠くに、彼が逃げていく音が聞こえた。
私はただひたすらに髪を蝕む炎を消そうとした。
その度に、綺麗だった髪は崩れ落ちていく。
「ああ、……あぁ、あぁっ!」
なぜ? どうして? 熱い、熱い! 熱い!!
私の意識は身体と共に炎に飲まれて消えた。




