☆ ☆ 第13話 花子さん
「はーなこさん、遊びましょー」
子供たちが呼びかけてくる。無邪気で楽しそうな、幸せな声。
「はぁい」
私は嬉しくて、返事をした。けれど――。
「キャーッ」
子供たちは、悲鳴をあげて逃げ帰ってしまった。
半分は私のせい。普段喋らないから上手く声が出せなくて、地の底から響くような、低くて掠れた恐ろしげな声になってしまう。
でも、もう半分は――あの子たちのせい。
トイレの花子さんは子供をさらうとか殺すとか、勝手に物騒な怪談話ばかり作ってくれる。そして、勝手に恐れて声をかけてきた子供たちの方から逃げ出してしまうのだから。
だったら呼び出さないで欲しいってのが本音。
よくも考えてみて。名前を呼ばれたら、普通は返事をするでしょ? 私もその通りにしているだけ。なのに……みんなして悲鳴をあげたりして。
いじめじゃない。そんなの。
だから私は、返事をしないことに決めたの。
子供たちがドアを何度叩こうと、どんなに大きな声で名前を呼ぼうと、私は返事をしない。
そんな日がしばらく続いたら、子供たちが皆で集まってきたの。
「花子さん、ごめんなさい。もう意地悪しないから。遊ぼう?」ですって。
あんまりにもしおらしいから、思わず「いいよ。遊ぼう」って返事をしちゃった。そうしたらね……。
「キャーッ! まだいたぁぁぁぁー!!」
悲鳴をあげて逃げちゃった。
これって、『鬼ごっこ』ってやつよね? わかったわ。相手してあげる。
私の走りは口裂け女仕込みよ。逃げ切れるかしら……?




