過酷な運命
さぁ今日も私は頑張ってますよ。……え?いつも寝てるヤツが調子乗んなって?ふっ、バカですねぇ。こう見えて実は私、いつも時間を見計らって寝てるんですよ。よく考えてください。私がいつも寝てるのは真昼のぽかぽかした時が多いですね?それを見て皆さんは「ただ昼寝をしてる怠慢野郎」だと思うでしょう。しかし、それは一般的な考えであって私達上級者ともなるとこれを利用して愛しい人をおびき寄せるんです。お嬢様方はいつも夜に活動しますね?昼は就寝タイムです。しかし咲夜さんは違う!多少の仮眠はあってもやはり人間!活動時間は昼の方が多いはず!そこで私はこの真昼にお昼寝をし、咲夜さんをおびき寄せて独り占めしようという作戦なのですよ。……いっつも怒られてるじゃないかって?何言ってんですか。ご褒美じゃないですか。意味わかんないこと……
「何昼間っから気持ち悪いこと呟いてんのよ」
「咲夜さん!」
「珍しく起きてると思ったら独り言?寂しいわね」
「咲夜さんの顔を見れば3日は持ちますよ」
「はいはい。ところであとで妖夢とうどんげがここに来るから食事の準備を手伝ってくれない?」
「わ、私がですか?どうして私が……」
「食事担当はいつも通りみんなの食事作りで忙しいし、他の妖精は料理下手なのが多いからね。そこそこできるあなたに頼んでみたわけ。嫌ならいいわ」
「いやもう嬉しすぎていろんなとこから鼻血出そうです!」
「鼻からしか出ねぇよ」
「でも私がいない間は門番は……」
「あぁ、それなら……」
ゴソゴソ……
ガタガタ……
「!?」
【本日休館】
「えー……」
「実際あんたより効果あるし」
「そんなぁ……」
「ほら来て、さっそく取り掛かるわ」
「……まぁでも咲夜さんと料理できるからいっか!」
ヒュー……
ストッ
「んー?休館?こんなこと今まであったか?」
チラチラ
「……んだよーレミリアが風邪でも引いたのかぁ?美鈴もいねぇし。どうすっかなー…」
ザッザッザ……
「…んまぁ用があるのは図書館だし、入らせてもらうか!」
「あの」
「ん?」
「……」
「………ど…どちら様で……」
「いえ、ここらで洋風な館はここだけですか?」
「あー……そうだな、ここら辺では目立つのはここくらいだろう。誰かに何か?」
「恐らくここのお方に先日この子を助けてもらってお礼に来たんですが……」
ススッ……
「(……美鈴か?咲夜が外に出ることはなんて買い物くらいしかないし……)……よし!じゃあ一緒に入ろう!」
「え?でも本日休館って……」
「恐らく咲夜だろう。ちょいと美鈴とイチャイチャしたいが為にこういう小細工で呼び出してんだろうな。実際美鈴本人より仕事してるし」
「はぁ……」
「羨ましいやつらだ。行こうか!」
「は、はい」
「…….キャベツ取って」
「はい」
カチャカチャ……
ちょんちょん
盛り付け上手いなぁ。千切りキャベツの欠片が一つもはみ出ることなくキレイに収まってる……。
「さっき作ったソース取ってくんない?」
「あ、はい」
あれ?ハンバーグ4っ……
「今日は3人で話すのでは……」
「あなたの分よ」
「…….え?」
「たまにはいいでしょ、こういうのも」
「……は、はぅあ」
「反応がキモイわ」
「本当に私の分ですか!?」
「そうよ。少しくらい休憩したってかまわないでしょ。優秀な門番もいるし」
「う……」
「さて、そろそろ来るはずだけど……」
コンコンッ
「?」
「来たかな」
タッタッタ…
ガチャ
「こんにちわぁ」
「こんにちわぁ」
「いらっしゃい」
「窓からて……」
「あ、美鈴さん」
「みんな久しぶりだなぁ」
「この子も混ぜていいかしら?」
「あ、全然いいですよ。咲夜さんもその方が楽しいでしょうし」
「え?」
「ちょっとうどんげ……」
うふふ
「え?え?」
「美鈴さん」
「ん?」
「幸せ者ですね」
「??」
「もう妖夢まで……早く席について、さぁ食べましょ」
「咲夜さん顔真っ赤ですよ?」
「うるさい!」
ガチャリ
「?」
バタン!!
「パ、パチュリー様!どうなさったんですか?」
「……来客よ。うちの門番は何してんの」
「……ねずみですか?」
「それとあと2人」
「え?」
もしや……
「うーい咲夜。うまそうなもん作ってんじゃん。私には無いのか?」
「招かれざる客に何でおもてなししなきゃいけないのよ」
「あ、あなたはこの前の……」
「あ、やはりあなた方でしたか」
「え?知り合いの方?」
「先日話した方々ですよ」
「あー、あの話本当だったの……」
「信じてなかったんですか……」
「私も話は聞かせてもらったよ。やるじゃねぇか美鈴。ただ、カラス相手に苦戦するのはどうかと思うぜ」
「ちょっと例外だったんです。それにカラスって速いんですよ。魔理沙さんだったらあっという間にパンツ一丁ですよ」
「言うじゃねぇか。なんなら今度一発やるか?」
「私の3分の1の力に苦戦しといてよく言いますね」
ジジジジジジ……
「あんたらねぇ……」
「あの……」
「あ、すいませんほったらかしにしてしまって」
「いえいえ。先日はどうも」
「いえ、そんな私に言うことじゃありませんよ。後で彼女に言ってあげてください」
「はい」
「お時間とか大丈夫ですか?」
「そう…ですね。特に急いではいませんけど……」
「でしたらゆっくりしていってください。下手ですが、ちょうど料理も用意してありますので」
「え、でもこれはあなた方が……」
「いいんですよ。あのバカにあげるのもったいないですし」
「いえいえそんな……」
「一緒に食べましょう。その女の子も食べたそうですし」
ハッ!
「紅葉……」
「カエデさん……ダメ?」
「……わかりました。お言葉に甘えさせていただきます。ほら紅葉、お礼言いな」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ」
「……では自己紹介から…」
「私の名前は魂魄 妖夢。半人半妖です」
「腰の刀はあなたの?」
「はい」
「侍ガールですか……かっこいいですね」
「いやぁそれほどでも」
「妖夢……」
「私は鈴仙・優曇華院・イナバです」
「うどんげさん……でいいですか?」
「あ、別にうどんげって呼び捨てでもいいですよ。敬語もいいですし」
「いえ、そんな……」
「もしかしたらこれからご一緒する機会が多くなるかもしれませんし……ウチはここで唯一と言っていいほどの病院(みたいなところ)なので」
「あ、そうだったんですか」
「はい。ですので、気軽に足を運んでくれたらと」
「はい、今度寄ってみようと思います」
「私はここのメイド長である十六夜咲夜と申します。もし何か聞きたいことがあれば私にお申し付けを」
「はい」
「そしてこちらはパチュリー・ノーレッジ様。ここの図書館の館長(?)です」
「よろしくお願いします」
「よろしく」
「そしてこのテープでぐるぐる巻きにされてる2人は……」
「咲夜」
「ん?」
「悪かった。非常に反省してるからテープはがして。もう手が変な形のまま固定されそう」
「反省してるならパチュリー様の本でも返しに来なさい」
づかづか……
「ちょ、ゆっくり……」
べリィ!!
「ひぎぃ!」
バタッ
「さ、咲夜さん……」
「次はあんたよ美鈴」
「ひぃ!」
「あの、美鈴さんは優しくでいいんじゃないですか?今回の主役っぽい部分もありますし……」
ナイス妖夢!
「……」
べリィ!!
「ひぎぃ!」
バタッ
「ナイス妖夢!みたいな顔してたから腹立ったわ」
(鬼だ………)
「……で、今倒れた2人なんですけど」
「はい……」
「この背が低くて黒っぽい格好をしてるのが霧雨 魔理沙。ウチにちょくちょく顔出しては本を盗んで帰る悪党です」
「だ、誰がロリ泥棒じゃ……」
「言ってねぇよ。そしてこちらが先日女の子を救ってくれた紅 美鈴」
「美鈴さんですか」
「そ、そうです……」
「先日はどうもありがとうございます」
「いえいえ……」
「いつも門の前で寝てるので殴ってもらっても構いません」
「ちょ、咲夜さん」
「……では私達も自己紹介をさせていただきます」
「どうぞ」
「私の名前は風堂 楓。この子の名前は旋 紅葉と言います。親子ではありませんが、訳あってコーカサス村というところからここまで旅を続けてきました」
「……あなたグリフォン?」
「あ、はい」
「え!?グリフォンってあの……」
「はい」
「パ、パチュリー様は何故お分かりに……」
「コーカサス村ってのを聞いてね。昔本で読んだことあるなと思って」
ほんと物知りだなこの人……
「訳あってっていうのは……聞いちゃいけないかしら?」
「……いえ、大丈夫ですよ」
「じゃあ……お願い」
「では……」
コーカサス村。恐らく紅魔館からかなり離れたところにある大きな山脈の一部に存在する小さくもなければ大きくもない村だ。分かりやすく距離で言うと日本からアルメニアと言ったところか。地図で見てみるといい。そこから考えるに、この2人はかなり遠いところからやってきたということになる。
2人が言うには、2人はその村から逃げてきたという。コーカサス村はグリフォンが住む村であり、住む者がグリフォンというだけで村の形態は人間となんら変わりはない。そのコーカサス村には、およそ1000体に1体、「鷹の眼」を持つ子が生まれてくるらしい。実はコーカサス村のグリフォンは、誰しもが「鷹の眼」を持っているわけではなく、遺伝子の突然変異によって「鷹の眼」を持つ子が生まれてくるという。そして生まれた「鷹の眼」を持つ子は、村からも大事にされ、しっかりと育てられるそうだ。そしてさらに、生まれた「鷹の眼」を持つ子が10歳になる年の始め、ある儀式が行われる。それを「覚醒の儀」という。「鷹の眼」を持つ子の中に、ごく稀に「千里眼」を持つ子がいるらしい。その「千里眼」は、ある儀式によって開花するのだ。ほとんどの子は失敗、というより最初から「千里眼」までは持ってないという子が多い。過去の例でも数件しか生まれてきたことはないらしい。そして「千里眼」が開花した子はどうなるか。村の掟によって、漆黒のグリフォンが祀られている祭壇へ生贄として捧げられるのだ。
この2人、風堂 楓は「鷹の眼」の持ち主、そして旋 紅葉は「千里眼」の持ち主なのである。「鷹の眼」を持つ子が生まれた場合、その教育係として「鷹の眼」を持つ者が選ばれる。もしその時代に「鷹の眼」を持つ者が存在しなければ、その時の村長が面倒を見るのである。紅葉の教育係は楓だった。楓は想い人がおらず、当然子供もいなかったので、紅葉を我が子のように育てた。紅葉も楓を母のように慕った。そして同時に楓はずっと願っていた。
「紅葉が……『千里眼』じゃありませんように……」
運命は残酷だった。楓の願いは届かず、「覚醒の儀」で紅葉には「千里眼」の力があると判明してしまったのだ。
「ま、待ってください!!この子は『千里眼』ではありません!!もう一度、もう一度だけ『覚醒の儀』を!!」
「楓!気持ちはわかる!だがこれは村の掟なのだ!」
「違います!!紅葉は『千里眼』ではありません!!違うんです!!」
「楓!しつこいぞ!もう決まったことなんだ!諦めてくれ!」
「嫌です!!私の……私のたった1人の娘を……手放すわけにはいきません!!」
「お前ら、押さえておけ!……村長、生贄の準備を」
「うむ」
「楓さん!楓さぁん!!」
「紅葉ぁ!!」
ザワザワ……
く……
見てられん……
いくら掟とは言えこれは……
「ぐ……紅葉……」
コーカサス村ではほとんどの者が風を操ることができる。強弱はあるが、一応風を操れるということに変わりはない。楓は今複数の者に風で押さえつけられている為、そう簡単には動けなかった。しかし……
「う……うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「!?なんだ!?」
「……!楓さん……!」
ズバババババババ!!
「ぐぁぁぁぁぁ!!」
「うわあぁぁぁぁ!!」
「な、なんだ!?誰が……まさか!!」
ヒュォォオォ……
「楓、まさかお前が……」
「……万が一の為……この『覚醒の儀』による万が一に備えて……私は訓練を怠らなかった……。……もし……もしも紅葉が……『千里眼』だとしたら……紅葉は絶対に……私が守る……」
「な、なんだと……楓!眼を覚ませ!村の掟だぞ!破ったらどうなるか……」
「村の掟が何だって言うんですか!!村の……村の掟というだけで、こんな簡単に家族を残酷な目に合わせるんですか!!だったら!こんな村から出て行ってやる!私達の間が裂かれるくらいなら!村全体を敵に回してでも、私は紅葉を守る!!」
フワッ
ヒュン!!
「ぐ……だ、誰か!!誰が楓を止めろ!!」
シーン……
「な、お前ら……」
ヒュン!
「ぐお!」
ヒュォォオォ……
「な!紅葉は…………!?」
「……私はこの村から出ます。紅葉を立派に育てて……私も立派な母親になります。………では」
バサッ!
バサバサ!
「な……く……お、追いかけろ!!早く!!村の掟に背いては……」
ゾロゾロ……
「な……なんで……」
「ここから先は俺らが絶対に通しませんよ。こんなん見せられて黙ってられるほど、楓に悪いことされた覚えはないんでね。ここで恩返しさせてもらう」
「な……村の掟を破ったら……どうなるか……」
「……『天地の怒り来りて、無と化す』だったな。ならばそれまで。俺達が信じたものを天地が許さないのであれば、俺達も天地を許さない。それくらいの覚悟はある。家族ってのはそれだけ深いんだ」
「な………知らんぞ………何が起きても………!」
「何でも乗り越えてやるさ。それが楓が我が子と共にすることを選択したことの代償なら、村全員で乗り越えて見せる。もちろんあんたも含めてな」
「………」
バサッ バサッ
「楓さん……」
「みんな…………ありがどう………グス」
「………なんつー泣けるエピソードだ。実際泣いてるのも私とパチュリー以外全員だし」
「で、今に至るわけね」
「そうです。ですからこの子だけは……何があっても守らなきゃならないんです」
「へぇー。でも行くアテとかあるのか?さすがに丸腰で……まぁ風使えるっぽいけど、無一文でやってくのは厳しいだろう」
「はい。ですから今は村を回っては退治屋をしております」
「へぇ。殺し屋みたいなもんか?」
「まぁ悪い言い方をすればそうですね。でも殺すことは絶対にしません。殺生は好みませんから」
「ふむ」
「……少し気になったんだけど、さっきの話で生贄をかなり催促してたのは?」
「あぁ、村の次期村長です。私達の村は村長になった時に副村長みたいなのを指名します。その副村長がいわゆる次期村長でして、主な仕事は村の宝を守るというものです」
「ほぉ!宝か!」
「すごく古くからあるみたいで、実は私も見たことはありません」
「いいね、秘宝って感じ」
「変なこと考えてんじゃないでしょうね」
「んーん、何も」
「ったく、気をつけてね。こいつは何しでかすかわかんないから」
「は、はい……」
「まぁ、他に聞きたいことあるでしょうけどそれはまたの機会にして、咲夜」
「は、はい?」
「とりあえず涙吹きなさい。元々はあなた達の集まりでしょう?第三者が主役みたいになってるわよ」
「いやもうそれでいいです……」
「もう……」
「楓さん」
「ん?」
「これ食べていい?」
「あ、ごめんね。もう冷めちゃったかも……」
「……温めてあげるわ」
「え?」
ボワァ
ジジジ……
「手から炎……もしや……」
「そうよ。私は魔法使い。これから困ったことがあったら図書館に来るといいわ。何か力になれるかも」
「……はい、ありがとうございます」
「さて、今からは楽しむわよ。そこの泣いてるバカ4人、早く涙吹きなさい」
「は、はい……」
「……ったく、ごめんなさいね」
「いえいえ、辛気臭い話をしてしまってすいません」
「いいのよ。非常に興味深い話だったわ」
「ありがとうございます。もし何かあったらこれからここへ立ち寄らせていただきます」
「遠慮なくどうぞ」
その頃、レミリア。
「うるさくて寝れんわ!!」
END
とりあえず2話目です!
なかなか時間がなくて長い間書けませんでしたが……ようやく完成です(´Д` )
第1話を読んでくださってた方、遅くなってすいません(´Д` )