59.犬猿の騒乱
俺は、突然階段の上から落ちてきた、果てしなく不運なその人……あるいは幸運なのかも知れない彼女の下敷きになって、一言げふ、と息を吐いた。
「うわぁ……」
「少しは心配しろよっ!」
落ちてきて、俺の上に乗ったままの彼女は、清花姉だ。我が家の権力ある『専業主婦一号』たる彼女は、俺の上で、
「だってほら、武司ってこういうの昔から好きだし」
と、誰かの誤解を招きそうな言葉を言い放った。
「それ、完全に誤解だからな」
「二人とも、そろそろご飯が……お楽しみ中ですか?」
とことことこ、と台所から歩んできた女の子は、桜川である。両親とのわだかまりも解けたと聞いたのだが、桜川は『学生主婦一号』として我が家の一員に加わっていた。実家が遠く、便利な所に住もうと思うと、どこかこの辺りで独り住まいをしなければならない事になるから、ここに居続けた方が何かと良いだろうとの判断だったらしい。
「正解! じゃ、詩帆ちゃんも乗っかる?」
「はい、ぜひ」
「ちょ、ちょっと待っ……ぐふっ」
更なる重圧が、俺の背中を押した。重たい。胸が圧迫されて、呼吸が少し不安定になる。
「ほら、武司の息遣いが荒くなった。これ、興奮してるんだよ」
「変態ですね……」
俺の上で、勝手な議論を繰り広げている二人に突っ込む力も起きず、俺はぐったりとして目を閉じた。
「今、ごまかしてる」
「無駄な抵抗ですね……」
心ない二人の言葉が胸を襲った時、、俺のポケットの携帯電話からぶぶぶ、ぶぶぶ、と震える音が聞こえた。清花姉が、携帯電話を取り出して、開く。勝手に開くな、という俺の心の声は、どうやら聞こえないようだった。
「わ。……ね、詩帆ちゃん、見て見て」
「何ですか? ……わぁ、凄いです!」
上で、何やら盛り上がっている。少しして、俺の目の高さにも、携帯電話の画面が下りてきた。
『ありがとうございました。あなたと巡り会う季節が来るよう、祈っています。』
差出人を見なくても、誰からのものか分かった。俺の胸は、圧されながらも、温かく膨らんだ。
*
お疲れ様でした。以上で完了です。
ここまで読んで下さった方に、まずは厚く御礼申し上げます。途中から、予定を大きく超えて話が展開し、私自身先の見えない書き物でした。読みにくかったかも知れません。それでもお読み下さった方へ、感謝の言葉を見つけられません。本当に、ありがとうございました。
書いた物に言及するのは避け、この場を借りて次回作の宣伝をさせて頂こうと思います。
再来週日曜日までこの作品の手直しを行い、再来週日曜日から新規作品を連載し始めようと思っています。また、懲りずに学校ものです。今度は断念のないよう頑張りますので、ぜひぜひまたよろしくお願い致します。
繰り返しとなりますが、お読み下さった方に深く御礼申し上げます。
では。




