プロローグ
この作品は1本の作品を2“過去編”、“現在編”の2つに分けて掲載しています。
そろそろ秋も終わりに近づき冬が本格的に訪れそうな気配を感じる日曜の午後。
自分に降り注ぐ控えめな暖かい日差しが心地良く、
少し緊張気味だった私の心を自然とほぐしてくれている。
2日前に田舎から都会へ越して来て、
無表情ではあるが心の中では物珍しさと、好奇心でドキドキしながら私は街を歩いていた。
でも少し前から私は今まで経験した事のない、
異様な状況に陥っていた。
先ほどから男女関係なくすれ違う人々から驚きと、
軽く怒りが入り混じったような目で見られているような気がしてならない。
この状況に気づき始めた時はなぜなのかわからず、
被害妄想なのかと困惑していたが、
今だんだんとその原因がわかってきた。
それは私の隣に寄り添って歩く男のせいだ。
男の名前は雅人。
一週間前に結婚した私の夫だ。
なぜ彼が原因なのかというと、
彼がカッコイイからだ。
180cmを超える長身に、
万人受けするだろうと思われる端正な顔立ちの夫。
それに比べて160cmの身長で、
お世辞にもカワイイとは言えない顔の私。
こんな私たちの組み合わせにすれ違う若いキレイな女性たちは、
夫と私の顔を見比べ、両方の左手薬指に光る物を確認した途端、
ありえないという表情や不満げな表情を見せるのだ。
どうやらその事に夫も気づいていたらしく、
「みんなお前が俺と一緒にいるのが気に入らないみたいだな。」
と、ニコニコしながら小声で私に言った。
なので私は、
「うるさい!黙って歩け!」
と無表情で前を向いたまま小声で言い返した。
この発言でわかるように、夫は自分の容姿がいかに恵まれているかを熟知している。
今私はこのムカつく夫と、私に失礼な態度をとるすれ違う女性たちにイラつき、
歩きながら何気なく空を見上げ、
こいつと結婚してしまった事を少し後悔した。