第9話 闘技大会の謎
マーク・シュレディンガー
‥‥闘技大会の選手。大気を振動させる謎の超能力を手にする。
ビル・シュレディンガー
‥‥アニリン王立シーラン大学大学院社会学研究科博士課程後期二年。マークの弟。
セシリー・ハンセン
‥‥闘技大会の選手。水の超能力者。チーム『カミシグレ』。
ルシア・グレイン
‥‥闘技大会の選手。透明化の超能力者。チーム『カミシグレ』。
ローラ・フィールズ
‥‥闘技大会の選手。刃の超能力者。
マーフィ・ダニトリー
‥‥闘技大会の選手。怪力族。
ダニエル・バール
‥‥闘技大会の選手。火の超能力者。チーム『ネオキシス』。アニリン王立ムーア大学大学院理学研究科博士課程前期一年。
ラルフ・バーノン
‥‥闘技大会の選手。重力の超能力者。チーム『ネオキシス』。
コンテ・グライス
‥‥闘技大会の選手。
ルーク・デファルコ
‥‥闘技大会の選手。
トラビー・リップマン
‥‥闘技大会の職員。フィールド外に落下した選手の救助や治療を行う。
オベイ
‥‥闘技大会の職員。フィールド外に落下した選手の救助や治療を行う。
先ほどまで行われていた『カミシグレ』チームと『ビニル・アンナ』チームの試合を見ていたコンテとルークは、この闘技大会に明確に違和感を抱いていた。
「どう思う、コンテ」
「ああ、やはり、なにかがおかしいな。この闘技大会は」
そういって、コンテは広告用に配られた闘技大会のビラを眺めて眉をひそめていた。
初日の工程が終了すると、闘技大会の選手は寮の食堂へと集まっていた。
「さっきの試合見てたか?二人とも」
マークはコンテとルークに初戦の感想を求めていた。
「ああ、しっかり見てたよ。随分と手練れているようだな。セシリー」
「あ...へ...へへ...どうも...」
セシリーは、唯一の苦手なタイプの人間から素直に褒められ、なんとも言えない表情になっていた。
「ここまでレベルが高いとは思ってなかったんじゃないの?」ルシアが質問した。
「ああ...まさか単なる一般人がここまで超能力を上手く扱っているとは思いもしなかった...」
「そりゃあそうだろ。闘技大会には昔空軍にいた奴だっているからなぁ。影響くらい受けるもんだろ」
コンテが述べる所見に対し、傍で会話を聞いていたオーウェンが冷笑気味にコメントした。
「ほぉ...」なにやらコンテは、それ以上に違和感を覚える部分があるようだった。
「というよりむしろ...なぜこの国ではここまで超能力者が優遇されているんだ?」
コンテの何気ない質問に、場の空気が凍ったのを感じた。
「ど...どういう意味!? コンテ...?」
日中見せていた陽気な笑顔とは裏腹の、切羽詰まった表情でセシリーがコンテを問い詰めていた。対するコンテは、若干困惑しつつも自身の見解を淡々と語り始めた。
「どうって...そのままの意味だが? ほかの国の例を見たことがないのか?東洋の一部の国では、超能力者を完全に拘束して実験材料として利用していることだってある。あるいは、隣国のミル帝国みたいに超能力者は漏れなく軍人として利用することもあるし、いずれにしても超能力者となった人間っていうのは、他国じゃ確実に自由が制限されることになっているんだよ。にも拘わらずこの国だと、人権保護の観点だとか言って超能力者の自由は完全に保証されているし、あまつさえ闘技大会なんてものを開いてスポンサーから大金をもらっているらしいじゃねぇか。これを優遇されていると言わずしてなんと言う?」
コンテの抱いた疑問は、まさしくダニエルがうっすら抱えていた違和感を完全に言語化したものであった。だが、それは超能力者に対する非難などは一切含んでおらず、アニリン王国における超能力者の扱いが特異だということに対する疑問を率直に示したものであった。
しかしセシリーにとって、それは闘技大会そのものを否定しているように感じられたのである。セシリーはこれまで見たこともない表情で、コンテに対して怒号をあげた。
「ふざけないで!! 私たち超能力者が...どれだけ酷い目にあってきたのか...知りもしないくせに!! 今までの頑張りだって否定された人だっていたのよ!! 冷やかしに来たのなら出てけよ!!」
陽気なセシリーから出てきた発言とは思えないような内容であった。その異様な光景に、海軍本部が視察に来ていたことに違和感を覚えていたディアナも驚いた様子を示していた。セシリーは我を忘れて怒り狂ったため、ルシアに声をかけられたときにはもう取り返しのつかない状況となっていた。
それは、セシリーが高校生のときに体験した状況に大変よく似ていた。あのときも、超能力を発現した自分に対して、周囲の人間は異物を見るような、冷ややかな目をしていた。それに気づいたとき、闘技大会にはもはや自分の居場所などなくなってしまったんだと悟っていた。マークはこの凍りついた場を何とかするために、セシリーとコンテの間に場をもたせた。
「セ、セシリー、ちょっと言い過ぎちまったな。確かにここは俺たちにとって大切な場所だ。だけどよ、落ち着けばもっと冷静に話せるだろ? いったん外で頭冷やしに行こうぜ」
「う...うん...」
そういって、マークとセシリーは食堂から退出した。セシリーの人間性は、周囲が思っていたより脆かったのである。
「コンテ...ごめん...。せっかく来てくれたのに...」
一方のルシアは、突然怒号を浴びせられたコンテに対して謝罪していた。
「いや...俺も悪い...。あいつらの事情とかなんも考えていなかった」
コンテとルークは、これまで超能力によって困ったことも、逆に周りの人間で超能力を得て困っていた者を見たことがなかったため、思っていた以上に敏感な話題を断りも入れず話してしまったことを反省していた。
「セシリーは...高校生の時にあの水の超能力を手に入れちゃって...同級生から酷いいじめにあったの...。だから、ありのままの姿でいられるこの場所を否定されているように感じてあんなふうに思ってもいないことを言っちゃったんだと思う...」
セシリーの、普段見せる陽気な態度は、彼女の根底にある暗い人間性を覆い隠すために身に着けたベールなのかもしれない。セシリーが受けてきたすべて悪意を見てきたルシアは、これまでずっと彼女のことを見守ってきたのであった。
「そうか...なら後で謝らないとな...」
コンテが良識のある人間で、ルシアも安心しているようだった。
しかし、この状況で先ほどの話題を掘り返そうとしている人間がいたのである。
「私もやっぱり...この国で超能力者が放置されているのは気になってたなぁ」
そう口にしたのは、アガーテであった。相方のディアナは、空気を読まずにずけずけと発言するディアナを諫めようとしたが、その制止を振り切ってこの話題の核心に触れた。
「でもそうじゃない? 半年前に海軍本部のお偉方がやってきたのも、本当は超能力者が欲しかったからじゃないの?」
それは、ダニエルが言うに言うことができなかった、いわばタブーに近い話題であった。半年前に初めて参加したマークやマーフィを除いて、ダニエルのように海軍が闘技大会に接触してきたことに対して違和感を抱いていた人間はいたはずだが、多くの人間は見て見ぬふりをしてきたのであった。
「...国があえて超能力者を野放しにしているっていうのに、国の組織の一つである海軍が超能力者を狙っていると? それは国が許すわけがないだろう」
コンテはアガーテの意見に対して反論したが、それでもアガーテは自身の意見を揺るがさなかった。
「ん~、普通に考えたら、そう思うけどなぁ~。そうは思わない? オーウェン」
「...え?」ルシアは、アガーテがなぜオーウェンに同意を求めたのか不思議に思っていた。だが、その曖昧だった疑問は、オーウェンの顔を見た瞬間により明確な疑義へと変わったのである。
オーウェンは、アガーテから投げかけられた質問に答えることもなく、ただただ不敵な笑みを浮かべるだけだったのだ。
マークは我を忘れて怒号を放ってしまったセシリーを外につれて夜風にあたっていた。セシリーのほうを見てみると、先ほど自分が犯してしまった行為を悔いてうつむいたままであった。
「...大丈夫か?セシリー...」そういってマークが声をかけると、セシリーは涙を浮かべて抱えていた不安を吐露した。
「どうしよう...マーク...。このまま、みんなが私のせいで険悪な感じになっちゃったら...」マークは、今まで見てこなかったセシリーの脆い内面を目の当たりにし、驚いた様子を見せていた。セシリーも、マークと同じように自身がコミュニティの外に弾き飛ばされることを心底恐れていたのだ。しかし、闘技大会にいる仲間たちが、この程度のことでセシリーを腫れもの扱いするはずがないことは、半年共に過ごして身に染みて分かったことである。
「大丈夫だ、セシリー。セシリーがみんなのためを思って怒ってくれたことはわかってるよ」
「...ほんとに...?」
「ああ。みんなセシリーの明るさに救われてきたし、俺もその一人さ。さっきのこともみんなにちゃんと伝えれば、絶対理解してくれるよ」
マークの言葉を聞いたセシリーは、ようやく安心したのか笑みがこぼれていた。
「...ありがとう マーク」セシリーは自身の体をマークの胸に預けていた。それに対してマークは内心、鼓動が外中に響き渡るほどに緊張していた。
不安の夜が明けると、闘技大会二日目に突入した。この日の対戦カードは、闘技大会で最強の超能力を持つタッグ『ネオキシス』チームと、これまで堅実な結果を出し続けてきた『アリゲーター』チームであった。この試合を観戦していたマーフィとローラは、どちらが勝つのか予想していたが、どうせダニエルとラルフの組む『ネオキシス』チームであろうと高を括っていた。だが、彼女らの横に座っていたルシアは、昨夜のオーウェンとアガーテのやり取りから、『アリゲーター』チームが何か重大なことを隠しているんじゃないかと懸念していた。特に、ジンは元々同盟国であるアヅチ帝国の空軍に所属していることから、彼らが何かしらアニリン王国の海軍本部とつながりがあるんじゃないかと考えていた。しかし、いかに海軍本部の関係者であろうと、闘技大会でトップの実力をもつダニエルとラルフが危険な目に遭うとは考えられなかったのである。
しかし、懸念していた出来事は起きてしまったのであった。試合は開始とともに一瞬にして勝負がついてしまったのである。オーウェンが、闘技場を覆いつくすほどの氷塊を生み出し、ダニエルとラルフを氷の中に封じ込めてしまったのである。あまりの寒さに、観客席に座る人間の吐息は白くなっていた。
「バカな...こんな質量を...」観客席にいた彼女ら以上に、オーウェンと対峙していたダニエルは愕然としていた。
一方のオーウェンは、巨大な氷塊を作り出したにも関わらず、その表情は変わらず涼しげであった。氷塊によって拘束されたダニエルのほうへと近づくと、拘束を解くために自ら氷を溶かし始めたのであった。
「悪いな...————」氷を溶かす最中に、オーウェンはダニエルに向かってなにか耳打ちをしていた。
ダニエルの表情から、闘技大会の裏でなにかよからぬことが起きていることが見て取れていた。
アリーナへと戻ってきたオーウェンに向かって、先ほどの試合を見ていたローラは聞きたいことがあっていてもたってもいられないようであった。
「ちょっとオーウェン、なんなのよさっきのは」
「...はっ...。悪かったなぁお前らぁ。あれが俺の真の実力だったってわけよぉ」対するオーウェンは、いつもと変わらない軽口で対応していた。
「はぁ~~?なろう系主人公かよ」
「やれやれ...」
彼らの会話内容だけを聞けば、普段と何一つ変わらない光景であるが、ルシアの頭の中には起きてほしくない憶測がひっきりなしに湧き出ていた。
『ジンは空軍にトラウマがあって辞めたらしいですよぉ』
『海軍がここに来たのも、本当は超能力が欲しかったからなんじゃないの? そう思わない?』
これまでの断片的な記憶が一つの線となってつながっていくのが感じられた。ルシアの考えはこうである。オーウェンは海軍本部の関係者であり、闘技大会に来た超能力者の人数と特徴を把握するために派遣された。ジンのこれまでの経歴や事情に詳しかったのは、自分も同業者だったから。よって半年前に訪ねてきた本部のガウス大将やカンバー中将もオーウェンとグルの可能性が高い。もしかすると、ジンすらもオーウェンと協力して超能力者の確保に動いている恐れすらあった。
そう考えると、先ほど氷漬けにされたダニエルの身が不安で仕方がなかったのである。ひょっとすると、二人はもう攫われてしまったかもしれない、と。もはやルシアの思考は完全にフリーズしていた。次に取るべき行動はなにかなど考えつくはずもなく、ただただ呆然とするほかがなかった。
すると、後ろから誰かが声をかけてきているのに気づいた。ダニエルであった。ルシアが気づくまでに相当時間がかかっていたようであり、その切羽詰まった様子にダニエルも心配しているようだった。
「よかった...ダニエル...無事だったのね...」張りつめていた糸が切れて、ルシアは思わず涙をこぼしてダニエルに抱きついていた。突然のハグに、ダニエルは顔を赤面して困惑していた。
「!? ど...どうしたんだよ、い...一体...」
「だって...ダニエル...オーウェンに狙われてると思って...」
ルシアの涙ながらの訴えをダニエルは即座に理解した。
「あ、ああ...そういうことか...。」ダニエルは周囲を見渡したのちに、部屋を変えて先ほど起きた出来事についてルシアに説明することにした。
「ダニエル...。一体なんなの...?」誰もいない空室に二人で入室したのちに、ようやく意を決して打ち明けることにしたのであった。
「...実はさっき...。オーウェンに氷漬けにされたときに少し話を聞かされたんだ」
「は...話って...?」
「ああ...あいつ...オーウェンは海軍本部の人間らしい。どうやら訳あって闘技大会に潜入しているらしいんだ。しかも、個人的にではなくガウス大将らも一枚嚙んでる可能性がある」
「え...!?」ルシアの考えは完全に的中していたのである。
「それで、オーウェンから聞いたんだが、海軍としての見解では、この闘技大会はアニリン王国中の一般人に潜む超能力者を引き寄せる意図があると見ているらしい。しかもその超能力の中には、俺の火の超能力やラルフの重力の超能力みたいに、使い方によっては国家を揺るがしうる力を持つ者すら含まれている。そう考えると、この闘技大会にはアニリン王国の超能力者を軍事兵器として利用したい組織や敵対国家の軍人が紛れ込んでいる可能性があるってオーウェンが言っていたんだ」
あまりに現実離れした話を聞き、ルシアは腰を抜かして床に座り込んでしまった。
「う...嘘だ...。だって...今までずっと一緒に過ごしてきたんだよ...? なのに、そんなことが起きるわけ...」ルシアはこの海軍が出した見解を、現実として受け入れられないようだった。
「俺も...正直信じたくはない...けど、大学の研究室でも闘技大会の違和感については似たような話をしたことがあったんだ。こんな超能力者が集まる場所が、単なる大衆向けの娯楽施設に留まるほうが不自然だって...」ダニエルが情報を補完するたびに、信じがたい話に現実味が帯びてくるのである。かくいうルシアも、一度は抱いたことのある疑問であったが、あえて見て見ぬふりを続けてきたのであった。
「...だけどまだオーウェンも探りを入れている段階で、本当に闘技大会に敵対する組織の人間が紛れていると決まったわけじゃない.。でも、いたとしてもおかしくはない状況だってことは分かってほしい」
「じゃ、じゃあ、なんで私なんかに...?」ルシアは情報がいまだ不確定な段階で、なぜダニエルが自分にだけこのことを教えたのかが不思議だったのである。それに対するダニエルは、何やらバツが悪そうな顔を浮かべていたが、顔を赤らめてようやく打ち明けたのだった。
「ルシアが一番大事だから...。お前には無事でいてほしいんだ...」ダニエルは、ルシアのことが好きだったのである。だから、誰よりも先にこのことを教えようと決心したのであった。
それに対するルシアは、ダニエルの思いを理解し同じく顔を赤らめて「ありがとう」と感謝したのであった。
ダニエルとルシアの間には、何とも言えない間が生まれていた。だが、それに堪えきれなくなったダニエルが、それを埋める形で言葉を紡いだ。
「ちょ...超能力っていうのは各個人に対して固有のものだから、それを軍事利用するってなったら拉致することが可能性として考えられる...だから、これから行動するときは少なくとも二人以上で固まった方が良い...。セシリーとか...俺とか...?」ダニエルは控えめに自分の名前を引き合いに出してルシアと共に行動するよう促した。だが、これ以上の関係に踏む込む勇気は、今のダニエルにはなかったのであった。
「うん。そうする」
「とりあえず、今は混乱させないほうが良いから、このことは俺とルシアの秘密にしよう。敵対組織の特定については、オーウェンが何とかしてくれるらしい」
「わかった」一つ返事で答えたルシアであったが、再び昨夜の会話の内容を振り返ると、ダニエルが話してくれた内容に違和感を覚えたのであった。
『私もやっぱり、超能力者が放置されてるのは気になってたなぁ。』
『そう思わない? オーウェン』
あれは、アガーテが敵対組織の人間であるってこと...? いや、そもそも、オーウェンは本当に海軍の人間なの...? 実はアガーテが私たちのことを守ろうとしていて、超能力者を狙っているオーウェンをけん制する目的であんなことを言ったんじゃ...? やはりルシアの中で不安は消えることなく、むしろ誰が敵で誰が味方なのかがわからず、疑心暗鬼に陥っていた。
ダニエルとルシアが部屋から出ると、そこにはマークとセシリーが廊下を歩いている様子が見えた。二人はコンテに昨夜の無礼を謝罪するために向かっていたのである。
「ちょっと俺もついて行っていいか」
ダニエルがそう言うと、セシリーは「えっ」と聞いたこともない声を放った。謝罪する姿を見られるのがよほど嫌だったのだろう。だがそれに構わず、ルシアもついていきたいと懇願してきたため、セシリーはもうすでに泣きそうになっていたのである。
「あ...あの時は...酷いこと言ってごめん...」そうセシリーが謝罪すると、コンテは遠慮がちになぜセシリーが誤る必要があるのか質問した。
「あ..いやだって...外から来た人がああいう風に疑問に思うのは別におかしくないことだったのに...一方的に怒鳴って傷つけて、最低なことをしてしまったから...」セシリーは、マークとの打ち合わせ通りに謝罪を進めていった。しかし対するコンテがどうやって出てくるのかだけは予測不可能であったため、神に祈るほかなかったのである。
「そうか...。いや、俺も悪かったよ。さすがにデリカシーのない発言だったな」コンテは落ち着いた対応を見せ、問題がひと段落ついたようで後ろから見守っていたルシアも一安心した様子であった。
「...コンテの言うことは正しいよ...。私、たぶんずっと受け入れたくなかったんだと思う...。闘技大会がただの夢だったんじゃないかって...。だから、教えてほしいの。どうしてコンテが、闘技大会に違和感を抱いたのかを...」セシリーは現実を受け入れる覚悟をして、意を決してコンテに質問をした。
「わかった...」そう言うとコンテは、控室の椅子に深く腰を掛けて、闘技大会の謎について話し始めた。
「このアニリン王国は、人口で見ると3億人と世界一位の大国で、産業や経済においても他国と群を抜いて発展していると言える。そりゃあその中に潜伏している超能力者の数も当然比例して増えるはずで、超能力者の少ない他国としては何としてでも軍事力として確保したいと考えるはずだ。しかしアニリン王国では、いかなる組織も超能力者を超能力を利用する目的で囲い込んではいけないと法律で厳しく制限している。別にこれだけなら、超能力者の人権を保護している稀有な国家なんだと納得できるが、俺が疑問で仕方がないのは、そこに対して『闘技大会』という異物が紛れ込んできたということだ。この闘技大会は、参加条件が自由で超能力者だろうとそうでなかろうと、だれでも参加ができる大会だ。しかし社会に迎合しにくい傾向にある超能力者がここにたどり着くのはある意味必然であり、それに対して政府が全く規制を設けていないところが明らかにおかしいんだ。しかも立地が、ここしばらく渡航禁止令が出されている敵国ミル帝国に近い。近すぎるんだ。確かに闘技大会が生む経済効果は計り知れないものがあるが、それにしてもあらゆるリスクを放置しているようにすら感じる」
コンテは次の試合で着る専用の防護ウェアを手に取ってマークたちに見せた。
「これを見ろ。このウェアをよく見ると、超能力の副産物である『結晶』が砕かれてコーティングがされている。結晶が放つ特有の光がこのウェアからも発せられている。これはアニリン王国軍ですら知らない技術のはずだ。これまでの闘技大会で人間をあらゆる超能力の攻撃から守ってきたという実績からも、このウェアに使われている素材に結晶以外は考えられない。」
「け...結晶だと!? あんな硬い物質がコーティングに使われているっていうのか!? だ、だが、もし結晶だったとしても、しばらくしたら昇華して勝手に消えちまうはずだろ...?」あまりの事実にダニエルは驚愕していた。
「ああそうだ。結晶というのは頑丈で超能力に強い耐性を持つ一方で、不安定な物質だ。お前らが使っている超能力と同じように、作り出された結晶は、その作成者が結晶から意識を遠ざけた途端に昇華して消える性質を持っている。だが現にこのウェアにコーティングされた結晶は今も残り続けている。一体だれがこれを作ったんだ?」
コンテの話す内容は極めて理論的であり、超能力を研究するダニエルも頷かざるを得なかった。皆が唖然として部屋の空気が静まり返っている中、控室に入ってきたルークが次の試合が始まることを知らせに来ていた。
「まあ、つまりはそういうことだ。この闘技大会は単なる娯楽施設以上の意味を持っている。少なくとも、何かよからぬ組織がこの闘技大会に関わっていると見ていい。長居はすべきじゃない。命が惜しかったら今すぐ逃げるべきだ」コンテとルークはマークたちに警告するために闘技大会に参加したのである。
「な、なら...お前らは何でこんなところに来たんだ!?」ダニエルがそう言うと、一瞬間をおいてコンテが答えた。
「俺たちにも目的があってな。それでここに来たんだ」
フィールド入り口に行くと、コンテとルークの対戦相手が待っているのが見えた。
「待たせたな」
「本当にな。あんまり俺たちをイライラさせねぇ方がいいぜぇ?」
対戦相手も、今回から初めて闘技大会に参加してきたクセ者だったのである。




