第7話 理想郷
マーク・シュレディンガー
‥‥闘技大会の選手。大気を振動させる謎の超能力を手にする。
ビル・シュレディンガー
‥‥アニリン王立シーラン大学大学院社会学研究科博士課程後期二年。マークの弟。
セシリー・ハンセン
‥‥闘技大会の選手。水の超能力者。チーム『カミシグレ』。
ルシア・グレイン
‥‥闘技大会の選手。透明化の超能力者。チーム『カミシグレ』。
ローラ・フィールズ
‥‥闘技大会の選手。刃の超能力者。
マーフィ・ダニトリー
‥‥闘技大会の選手。怪力族。
ダニエル・バール
‥‥闘技大会の選手。火の超能力者。チーム『ネオキシス』。アニリン王立ムーア大学大学院理学研究科博士課程前期一年。
ラルフ・バーノン
‥‥闘技大会の選手。重力の超能力者。チーム『ネオキシス』。
オーウェン・グルーバー
‥‥闘技大会の選手。氷結の超能力者。
ジン・フクザワ
‥‥闘技大会の選手。溶岩の超能力者。
ニードル・サンダー
‥‥闘技大会の選手。
ジョー・グラン
‥‥闘技大会の選手。
ディアナ・フレーゲ
‥‥闘技大会の選手。
アガーテ・ギレス
‥‥闘技大会の選手。
マックス・ゴン
‥‥闘技大会の選手。
テイラー・ゴン
‥‥闘技大会の選手。
マークとダニエルは、互いが持つ力全てを出し切った。圧倒的火力を持つ火の超能力と経験に裏打ちされた確かな実力を持つダニエルと、荒削りだがセンスが所々で光る振動の超能力と結晶表出の力を持つマーク。もはやどちらが負けてもおかしくはない状況であった。
双方の撃ち合いは、数十秒にわたって続いた。たった数十秒といえばそれまでだが、それは今までに見てきた試合のどれよりも長く感じる戦いであった。炎と砂ぼこりが晴れると、決着の行方が明らかとなった。最後までフィールドに立ち続けていたのは、ダニエルのほうであった。マークは着ていた服が炎に焼かれてボロボロとなっており、炎による高温と長い間フィールドを走り回っていたことによる疲労から、立っているだけでも精いっぱいな状態であった。
「ありがとう。楽しかったよ」
終わってみれば、ダニエルとマークは互いを労っていた。初めて会ったときは、相いれない存在としていがみ合っていた(ほとんどダニエルによるものだが)が、拳を交わせばすべてが解決するということだろうか。闘技大会に来た人間はみな等しく異常。それが、社会からつまみ出された者たちにとっての理想郷になっていたのだった。
フィールド外に落とされていたビルは、オベイに引き上げられてプールサイドに設置されていたモニターで試合の一部始終を見つめていた。
「優勝は結局いつもの二人か。あのままマークが押し切るかと思ったんだがな」
トラビーは、今回マークが勝つのではないかと予想していたようだった。ビルは、マークが負けてしまったことに対してか、なんとも神妙な顔を浮かべていた。
闘技大会のすべての行程が終了したため、試合に参加した全てのメンバーで打ち上げが行われた。もはやあとに控える用事がなくなったことで、セシリーやローラは酒を浴びるように飲んでバカ騒ぎしていた。マーフィは彼女らの蛮行を傍から見守ることしかできなかったが、以前と比べて自然に笑えるようになっていていた。
「マーフィ、あんただいぶ自然に笑えるようになってきたね。ずっと暗かったから心配してたのよ~」
マーフィに話しかけてきたのは、酒に酔って顔が紅潮しつつあったアガーテであった。
「なんか吹っ切れるきっかけとかあったのかしら~?」
アガーテも、マーフィが闘技大会に参加直後に暗い表情をしていたことを憂慮していたようだった。
「うん..。私には...仲間がたくさんいたんだなって...」
「へっへ~、そうか~」
マーフィからの返答に、アガーテは深堀するでもなく軽く反応を示すだけであった。
「おい、あんなマーフィにダル絡みしてやんなよ」
マーフィとアガーテの絡みを見ていたディアナは、明らかに気まずい顔をしているマーフィに助け舟を出すつもりで、アガーテに軽く注意をした。
「この子は単純にスキンシップに慣れてないだけよ~。ディアナは堅すぎんの~!」
アガーテはディアナからの指摘を軽くスルーした。とそのとき、酒で完全に出来上がったジョーが、ディアナ目掛けてダル絡みを仕掛けてきた。
「おいディアナ!!お前海兵に絡まれて詰められたんだってぇ!??」
ジョーはどこから聞きつけたのか、ディアナが海軍少将のイシイに敵国のスパイと勘違いされて尋問されかけたことをからかってきたのだ。
「はっ!? ど...どこでそれ聞いたんだよ...!」
ディアナは当時の恐怖を思い出したのか、背中に冷や汗が浮かんでいた。
「それがなあ~現場をたまたま見ちまったんだよ~。いや~ちゃんと間近で見たかったな~。ディアナが海兵に詰められてビビってるところ~」
「うるせぇ!おめえも海兵に詰められたらビビッてションベンちびってんだろ!!」
ディアナとジョーは、以前からこんな調子で互いを罵りあうことが恒例となっており、周囲からも逆に仲がいいと言われるほどであった。
マークはルシアやマックスなど、対ダニエル戦で作戦会議に協力してくれた人たちと談笑をしていた。
「マーク、次回の大会は半年後になるけど、出る予定あるの?」
ルシアから投げかけられた問いについては、全く考えていなかった。もともと今回闘技大会に参加したのは、工務店をクビにされて学費と生活費を稼ぐ手段を失ったからであったため、次の大会に参加するかどうかなどは考える余裕がなかったのである。ただ、今回準優勝したことでそれを心配する必要は当面なくなった。では、これからの闘技大会は一体何のために参加するのであろうか。
数秒考えた末に、マークは次回の闘技大会にも参加しようと考えるに至った。だがこれは、どうせ社会復帰したところで超能力に理解を示してくれる会社など見つかるはずもないから、というような消極的な選択ではない。あくまで、自身の超能力の扱い方を教えてくれたセシリーや、ダニエルという強大な相手に対する対抗策を一緒に練ってくれたルシアやマーフィやマックス、ひいては闘技大会という場所に導いてくれたビルに報いるために参加するのである。
「ああ、次も参加するよ。目標はもちろん、大会優勝だな」
マークの大々的な宣言に、周囲は沸いていた。それは、新しい仲間が加わったことに対する歓喜も含まれていた。
この闘技大会は、超能力者をはじめとした、常識を逸脱した力によって日常を奪われてしまった者たちを救ってきた理想郷である。だが、これはいつまでも続くものではなかった。今から半年後に開かれる第8回闘技大会は、アニリン王国で開かれる最後の闘技大会となるのであった。




