表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

第2話 はぐれ者たち

登場人物


マーク・シュレディンガー

‥‥闘技大会の選手。大気を振動させる謎の超能力を手にする。

ビル・シュレディンガー

‥‥アニリン王立シーラン大学大学院社会学研究科博士課程後期二年。マークの弟。

セシリー・ハンセン

‥‥闘技大会の選手。チーム『カミシグレ』。

ルシア・グレイン

‥‥闘技大会の選手。チーム『カミシグレ』。

ニードル・サンダー

‥‥闘技大会の選手。チーム『キング鋼鉄』。

ジョー・グラン

‥‥闘技大会の選手。チーム『キング鋼鉄』。

 闘技大会の一日目が終了し、マークとビルは付近の選手専用寮へと入った。今日出会った選手たちが彼らを迎えてくれた。

「すごかったね、さっきの超能力!!闘技大会で見ても攻撃力なら一番なんじゃない??」

 セシリーが尻尾をブンブン振るイヌかの如くマークへ駆け寄ってきた。

「あ、ありがとう...。でも、それはさすがに言い過ぎなんじゃないかな...?」

 マークがぎこちなく謙遜すると、さえぎるような形でニードルが口を開いた。先ほどの試合で喰らった衝撃はウェアが吸収してくれたらしく、怪我はほとんど負っていないようだった。

「いや、あながち間違っていないぜ。お前の超能力は闘技大会でみてもかなり強い部類に入るはずだ。もしかしたら今回でベスト4くらいはいけるかもしれないぞ」

 ニードルは闘技大会でもかなり古参のメンバーとのことだったが、その彼からこれほどの賞賛を受けるとは思ってもいなかったため、遠くに感じていた夢が一気に現実に近づいたような感覚になった。その横で、ジョーに一発KOをかましたビルに向かってルシアが肘で小突いた。

「あんたもなかなかにやるじゃん」

 ルシアがそう言うと、すかさずジョーが小言を発した。

「この俺を一発KOとは中々の腕前よぉ」

 半ばあきれ顔でルシアがジョーを諭していた。どうやらこれがお決まりらしい。

「そういえば、二人はどうして闘技大会に参加しに来たの?」

 ふいにセシリーが質問してきたため、マークがそれに答えようとすると、寮の入り口のほうから一人の男が現れた。それに気づいたルシアが、「ダニエル」と名前を呼ぶのが聞こえた。ダニエルは左目に古傷を負っており、一目見ただけで歴戦の猛者であることが分かった。


「お前が今回入ってきた超能力者の一人か」

 ダニエルはマークのほうを数秒にわたり見つめた。「はいそうです...」と言って会話を続けようとしたところ、ダニエルに引き連れられて外の広場に行くことになった。何か嫌な予感がする...マークの本能がそう告げた。予感は的中した。


 マークはダニエルに、軽くスパーリングさせてみろ、と要求された。どうやら中堅のニードルを一発で場外に吹き飛ばしたマークを見て、どの程度の実力か推し量ろうとしていたらしい。

 結果、マークはボコボコにされた。見るも無残であり、マークはダニエルに傷一つ付けられなかった。

「お前ふざけるなよ。本当にそれで一回戦を突破したというのか?」

 「やりすぎだよ...」とルシアが溢した。それもそのはずで、ダニエルも闘技大会では古株の人間であり、常に上位ベスト4に食い込む実力を有していたことから今回の闘技大会でも優勝候補として周囲から期待されていたのだ。

「格闘術もてんで素人。さっきの試合を見たら、まともに超能力も操れてねぇじゃないかよ。 それで優勝も狙えるだと?笑わせるなよ」

 ダニエルに言いたい放題言われているが、その指摘はごもっともだ。マークはそう受け入れつつ、再び立ち上がってダニエルにタックルを仕掛けた。


「技術なんてなんもねぇよ!!」


 これまで大工として体を使ってきたマークにとって、闘技大会は全く次元の違う世界だった。その世界で昔から戦い抜いてきた選手らと対等に戦うことなんてできないと初めから分かっていた。だから自分は、今まで鍛えてきた筋肉と根性で強敵を吹き飛ばしてやるんだと、ダニエルの猛攻を受けつつ前進した。

 マークの進撃にうろたえたダニエルは、顔をこわばらせてマークに向かって手をかざした。ダニエルを中心に、まばゆい閃光が発せられたように感じた。そこに彼らを制止させるためにセシリーが現れた。


「だめだよダニエル、超能力をつかっちゃ」


 そう言われて我に返ったダニエルは、マークに向けて構えていた手を下げた。ようやくダニエルによる地獄のスパルタ指導が終了したのだった。

「ごめんねマーク。ダニエルは新人をいじめたいワケじゃないんだよ。ダニエルはね、負けず嫌いなんだよね」

 まるで弟をあやすかのようにルシアが謝罪した。図星だったのか、ダニエルは赤面して必死に否定した。

「能力の使い方は私が教えるよ。なんとなくタイプも似てるし」

 こうしてセシリーから超能力の使い方について教えてもらう機会を得られたため、ある意味この地獄のスパーリングもやる意味があったんだろうと無理やり思いこませたのだった。


 闘技大会は二日目に突入した。今回は参加チームが12チームであり、マーク&ビルはあと2回勝利すれば晴れて優勝金を手にすることができるようになる。マークたちの次の試合相手は、これから行われる試合の勝者となる。セシリー曰く、これから行われる試合にもマークたちと同じように今回から加入してきた新チームがいるらしい。

 マークたちが試合のトーナメント表を眺めていたところ、ちょうど話題に上がっていた新チームの二人組が尋ねてきた。

「ごめんなさい、フィールドってどうやって入場すれば良いんでしたっけ」

 新チームの二人は両方とも女子だった。見た目は20代手前で、マークたちに話しかけてきたボーイッシュな女子は「ローラ」という名前らしい。一方でローラの後ろに隠れている金髪の、若干の陰気を放つ女子は「マーフィ」という名前とのことだった。

「あ~!君たちが新入りの二人だ! やった~女の子だ!よろしくね~」

 セシリーは誰彼構わずこんな風に接するらしい。高校を中退してから今に至るまで女子に全く縁がなかったマークはセシリーに謎の期待をしていたため、人を選ばずスキンシップをとる彼女に対して勝手にしょんぼりしていた。

「マーフィもよろしくね~」

 そういってセシリーが彼女の手を取ろうとすると、マーフィはとっさに両手を引っ込めてしまった。予想外の行動にセシリーは呆気に取られていた。

「フィールドへの入場なら奥のゲートから入れるよ」

 空気が若干冷え込みかけたところで、ルシアがフォローを入れてその場をつないだ。

「あ、ああ。ありがとうね。じゃあ行こうか、マーフィ」

 超能力を手に入れて一般社会から隔絶された経験をしたマークにとって、マーフィの取った行動はどこか親近感を覚えていた。おそらく彼女も超能力者であり、周囲の人間から疎まれた結果このような反応をしてしまったんじゃないかと邪推していた。

「ああ...やばい...、また距離感近づけすぎちゃってたのかな...?」

 セシリーは思っていた反応をされなくて一人反省会を開いていた。ルシアに以前から初対面の人とのスキンシップは控えたほうがいいとアドバイスされていたらしいが、なかなか強制することはできなかったようだ。だがルシアも、マーフィがさっきのような反応をした理由はそれとはべつにあるのではないかと考えていた。

「にしても彼女たちにはこの対戦カードは可哀そうかもなぁ」

 ルシアがそう溢し、マークがその理由を問おうとしたところで後ろから並々ならぬ気配が漂った。


「俺たちが相手だからに決まってんだろぉ?」

二人の大男が放つ威圧感は凄まじかった。男二人は「アリゲーター」チームと言い、これからローラとマーフィが戦う対戦相手であった。

「あんたは言うほどめちゃくちゃ強いわけではないでしょうに」

 ルシアが話しかけた男 —オーウェン— は、彼女の煽りには反応せず、所謂強者の余裕?のようなものを感じさせていた。

「まぁせいぜい観客席でピーピーとボヤいてな。俺たちでさっきの子猫ちゃんたちを倒してくるからよ」

 軽口を叩くオーウェンに、短髪で筋肉質な男 —ジン— が「ほら、さっさと行くぞ」と声をかけて、入場ゲートへと向かっていった。


「あ、あの男たちは一体...!?」

 マークが聞くと、セシリーが答えてくれた。

「あの二人はダニエル達のチームに次ぐ実力者だよ。二人とも強力な超能力を持っててね。多分、新人の彼女たちにはかなり大変な相手なんじゃないかな~」

 マークはこの数日間で、これまでの人生で見ることのなかった超能力者に何人も出会い、全く別次元に来てしまったんじゃないかと軽くめまいを起こしそうになっていた。


そして、実況のアナウンスとともに、「マーフィ&ローラ」と「アリゲーター」の試合が始まろうとしていた。マーフィは、自身を見つめる約8万人の観客に気おされ、過呼吸気味となっていた。

 ローラがマーフィのことを案じ、声を掛けようとしたところで、ローラの足が突然凍りついてしまった。途端にローラは身動きが取れず、必死に氷を振りほどこうとしている。

「驚いた? オーウェンはね、氷結の超能力者なんだよ」

 マークの隣に座っていたセシリーが、眼前で起こっている事象を解説してくれた。その強力な超能力を武器に、オーウェンは闘技大会でも指折りの実力を有しているとのことだった。

「案外ちょろそうだな」

 オーウェンはローラの体を抱き寄せ、彼女を全身氷漬けにしてダウンさせようとしてきた。オーウェンの手がローラの首に巻き付き、一気に戦闘不能にさせようとしたところで、ローラはオーウェンの拘束を全力で振りほどいた。

「なんだよ、まだ抵抗できたのか」

 オーウェンがそう溢したところで自身の体に違和感を覚え、下方に目線を向けるとオーウェンの衣服が綺麗に裂かれていた。まるで、刃物で対角線上に一気に切り付けられたかのような跡であった。視線をローラのほうへと戻すと、彼女のつま先から膝にかけて、まるで大きな剣のような見た目へと変貌していた。

「今後はこっちの番よ...!」

 ローラは全身を鋭利な刃物にすることができる「刃の超能力者」であった。彼女は先ほど、とっさに体を刃物に変化させて、オーウェンの拘束を解いていたのだった。

「お...おまっ...、お前も超能力者なのかよっ」

 自分の相手が格下でないことに気づいたオーウェンは、慌てて自身の周りの地面を氷結の能力で凍らせて、ローラがこちらへ近づけないようにした。しかし全身を刃物に変えることのできるローラにとって、この行動は全く意味をなさなかった。ローラは両足を刃物に変え、まるで凍った地面をスケートコートのように優雅に滑り、光の如き速さでオーウェンに接近した。

「あっ、あっ、ああっ!!」

 予想外の行動をとられたオーウェンはパニックに陥り、有効な対策を思いつくことができずローラに蹴り飛ばされ、呆気なく場外へ落されてしまった。


「あの子凄いね!オーウェンに考える隙も与えず一気に勝負決めた感じだったな~」

 セシリーが冷静に試合の分析をしている横で、ルシアは先ほどのオーウェンのリアクションをリプレイしていた。ルシアがものまねするオーウェンのリアクションは、明らかに誇張されていた。セシリーは誇張しすぎたオーウェンのものまねを見て笑いのツボに入っていた。この光景にマークは引いていた。常識人側だと思っていたルシアのほうが、むしろ狂人だったということに気づき、受け入れられない現実があったようだった。だが一方で、超能力者であろうとそうでなかろうと、この闘技大会では皆が対等に接していることは確かであり、居場所を失っていたマークにとってこの空間はとても心地が良かった。きっとセシリーやルシアも超能力を得て苦しい思いをした末に闘技大会にたどり着き、今はのびのびと生きている。ここはそんなはぐれ者たちのための場所なんだと、ようやく気付くことができた。


 「アリゲーター」チームはオーウェンがあっさり退場してしまったことで、ジン一人でローラとマーフィの相手をすることになった。しかしセシリー曰く、ジンに複数人で挑んだとしても勝つことは相当難しいとのことだった。ローラたちが一歩ずつ前へ進みだしたところで、ジンの全身から高温の溶岩があふれ出すのが見えた。そこからはまさに一瞬の出来事であった。ジンの体から閃光が発せられ、フィールド全体を覆いつくさんとする大量の溶岩が出現した。突如出現した大量の溶岩は質量爆弾と化し、そのエネルギーによって大爆発を引き起こした。その熱気は、フィールドから10メートル以上離れたマークたちにまで簡単に届くほどであった。

「あ、あれはなんなんだよ...」

 あまりに規格外の能力に、マークは驚きを隠せなかった。ジンは無から溶岩を作り出すことのできる「溶岩の超能力者」だったのだ。溶岩はフィールドをきれいに二つに分断し、ローラはマーフィとジンとは反対側のフィールドへと追いやられてしまっていた。

「熱い思いをしたくなければおとなしく場外の水に飛び込むことだな」

 ジンがマーフィを警告したものの、彼女は応じることはなかった。答えはノーであると捉えたジンは、溶岩の溢れ出す手を大きく振りかぶり、その爆発力をもってマーフィを場外に突き落とそうとした。再び会場は閃光に包まれた。誰もがマーフィの敗北を確信していたが、煙が晴れると想像もしていなかった光景が広がっていた。マーフィは場外に突き落とされていなかった。それどころか、彼女は巨大な結晶体に包まれており、ジンから受けた溶岩攻撃の一切を防ぎきっていたのだ。

「すご!!なにあれ!?」

「彼女も超能力者なのかなぁ」

 セシリーやルシアも、マーフィの能力が一体どういったものなのかは分かっていないようだった。

「なんだその体積と純度は...」

 ジン一人はマーフィの作り出した結晶体の理屈をわかっているようだった。しかしその規模は明らかに規格外であり、彼女がどうやってここまでに至ったのか理解しかねていた。しかしすぐに合点がいった。


「そうか...。お前、あの種族か...」


 ジンが一人言葉を漏らすと、マーフィは慌ててその言葉を遮るように再び巨大な結晶体を表出し、ジンを場外へと突き落とした。結果として、意外にもこの試合の勝者は新人チームの「マーフィ&ローラ」チームに決定したのだった。

 フィールドから溶岩が消えうせ、ローラは一気に駆け寄りマーフィを褒め称えた。それに対してマーフィの浮かべる笑顔は、あまりにもぎこちないものだった。マーフィにとって先ほどの攻撃は、試合に勝利するためではなく、自身との関わりを断つための拒絶に近かったからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ