第2話 残り49ヶ月 「病を癒す者」
召喚から1ヶ月。
高倉翔の到着は、予想以上の衝撃を与えていた。
彼の合成スキル『前世との合成スキル:超加速農耕』は、
種を植えた土に触れるだけで、通常の3〜5倍の成長速度を叩き出す。
さらに『土壌瞬間解析』で、土の栄養バランスを一瞬で見抜き、
即座に「ここに堆肥を足せ」「この畑はリン酸過多だから休ませろ」と指示を出せる。
わずか1ヶ月で、
王都近郊の荒れ地が緑の絨毯に変わり始めた。
各国からの使者が次々と訪れ、
「これが本当の収穫量なのか……?」と目を疑う。
高倉は毎朝畑を回りながら、
あなたにぼやくのが日課になっていた。
「なぁ、若者。
この世界の太陽、ちょっと紫外線強すぎねぇか?
日焼け止め持ってきてないから、顔が真っ黒だぞ。
あと、ビールがないのも辛いわ……」
あなたは笑いながら返す。
「ビールはいつか再現しますよ。
今は麦の品種改良からですね。
高倉さんのおかげで、食糧危機はもう遠のきました。
ありがとうございます。」
高倉は照れくさそうに手を振った。
「礼なんかいいよ。
俺はただ、土が好きだっただけだ。
……それより、次は誰呼ぶんだ?
そろそろ次の召喚の準備だろ?」
あなたは頷いた。
星のカウントダウンは容赦なく進んでいる。
残り49ヶ月。
王宮の会議室。
各国代表が再び集まった。
前回の成功で、あなたへの信頼は急上昇していた。
国王の一人が真剣な顔で尋ねる。
「占い師殿。
次は……戦士か? 魔法の使い手か?」
あなたはスキルを発動させた。
星の流れが、静かに語り始める。
「……病と傷を癒す魂。
体が折れては、どんな作物も守れない。
医療のチート持ちを呼ぶべきです。」
ざわめきが広がる。
「医療……? 薬師のことか?」
「戦場で傷を癒せれば、確かに……」
あなたは深く息を吸って、タスクを提示した。
• 大陸中の薬草師が持つ「最も珍しい薬草」を1つずつ集めよ
• 召喚陣の周りに、清浄な水を張った桶を12個置け(12ヶ月を象徴)
• 儀式前夜に、全員で「命の灯を消さない」と誓いの言葉を唱えよ
「これをこなせば、精度が上がります。
でも……今回は、かなり強い合成スキルを持った人が来るはずです。」
準備期間は再び29日。
あなたは王宮を離れ、薬草の森へ、
山奥の隠れ薬師の村へ、
時には危険な魔物の巣窟近くまで足を運んだ。
高倉も同行してくれた。
「俺は土の専門だが、薬草の土壌は見分けられる。
お前一人じゃ危ないだろ」と。
奔走の末、疲労はピークに達していた。
前世の記憶が、また少し剥がれ落ちる感覚。
でも、あなたは歯を食いしばった。
(俺が死にたくないから、みんなを巻き込んでる。
だから……せめて、謝らなきゃ。)
召喚日。
光が静かに広がり、
現れたのは──
白衣を着た、眼鏡をかけた女性。
年齢は30代後半くらい。
疲れた表情で、辺りを見回した。
「……ここは……?
手術室の途中だったはず……
患者さんが、心停止寸前で……」
彼女は慌てて周りを見た。
あなたはすぐに近づき、深く頭を下げた。
「本当に、ごめんなさい。
俺が召喚しました。
あなたは今、手術中だったんですよね?
患者さんを救おうとしてたのに……
突然引きずり込んでしまって。」
女性──佐藤美咲は、ゆっくりと息を吐いた。
「……そう。
私は外科医で、総合病院の副部長やってた。
今日の予定は、緊急開胸手術。
患者さんは……まだ助かる可能性があったのに。」
彼女の声が少し震えた。
あなたはさらに頭を下げた。
「申し訳ありません。
この世界は、50ヶ月後に巨大な厄災で滅びるんです。
俺も転生者で、死にたくない。
みんなが死にたくない。
だから、あなたの力が必要でした。
……許してください。」
佐藤はしばらく沈黙した。
そして、静かに言った。
「……許すも何も、
患者を置いてきてしまった罪悪感は消えないわ。
でも……もしこの世界が本当に滅びるなら、
ここでできることをやるしかない。
私の合成スキル、確認してみる?」
あなたは頷いた。
彼女は自分の手をじっと見つめ、呟いた。
「前世との合成スキル:『触診即断+任意薬剤即生成』……
触れただけで病気の原因と進行度が全てわかる。
さらに、必要な薬を頭に浮かんだ通りに即座に生成できる。
抗生物質、麻酔薬、抗がん剤……何でも。」
広間が息を飲んだ。
佐藤は苦笑した。
「便利すぎて、ちょっと怖いわね。
……まあ、いいわ。
まずは、この世界の医療状況を全部教えて。
手術室がないなら、手術室を作るところから始める。」
あなたは胸の奥で安堵した。
高倉が隣で肩を叩いてくる。
「よし、次も来たぜ。
これで食糧と医療が揃ったな。」
佐藤はあなたを見て、静かに言った。
「あなたも、苦しんでるのね。
……一緒に、生き延びましょう。」
残り48ヶ月。
世界の鼓動が、少しだけ強くなった。
(第2話 終わり)




