第1話 残り50ヶ月 「種を蒔く者」 (最終調整版)
あなたは目を覚ました瞬間、理解した。
ここは異世界。
頭の中に冷たいカウントダウンが浮かぶ。
【終末の厄災 発動まで 残り50ヶ月】
あなた自身も転生者だ。
前世はただの30歳サラリーマン。休日はソシャゲに課金しすぎて貯金ゼロの廃人だった。
なのに今は「世界召喚占い師」という、誰もが頼る立場にされている。
王宮の大広間。
大陸中の王族、族長、賢者が疲れた顔であなたを見ている。
「占い師様……次はどんな異世界人を?」
あなたはスキル『召喚占い』を発動させた。
星の声が、曖昧に降ってくる。
「……まずは土と緑に縁のある魂。
世界を支える根を張る者。」
あなたは静かに告げた。
「農業の専門家です。
現代の知識と技術を持った、農業のチート持ちを呼びます。
食糧がなければ、どんな戦士も魔法使いも戦えません。」
そして精度を上げるためのタスクを提示した。
• 各国が自慢の土を一袋ずつ持ち寄ること
• 召喚陣の周りに50種類の種を埋めること
• 儀式前夜に、全員で「明日を信じる歌」を歌うこと
最初は嘲笑されたが、あなたは自ら奔走した。
荒野を歩き、隠された良土を探し、部族を説得し、種を集めた。
体力は削れ、前世の記憶が少しずつ薄れていく。
それでも、あなたは思っていた。
(俺だって、突然引きずり込まれたんだ。
厄災で死ぬのは嫌だ。
だから……誰かを巻き込むことになるけど、ごめん。)
召喚日。
光が収まり、現れたのは──
作業服に長靴、日焼けした健康的な肌の47歳男性。
彼は辺りを見回し、突然叫んだ。
「え、待て待て待て!?
俺、今ちょうど新品種の田植え終わったところで……
嫁さんと今夜は久々に焼き肉行く約束だったのに!?
ここどこだよ!? マジで異世界!?」
あなたは苦笑いしながら近づき、小声で日本語で話しかけた。
「……すみません。
俺も日本人で、最近こっちに転生してきたんです。
あなたを召喚したのは俺です。」
高倉翔は目を丸くした。
「マジかよ……お前もか。
で、状況は?」
あなたは深く頭を下げた。
「本当に、ごめんなさい。
突然引きずり込んで。
現代で幸せそうだったのに……トラクターに乗って、家族と焼き肉の約束してたのに。
でも、この世界は50ヶ月後に巨大な厄災で滅びるんです。
俺も死にたくない。みんな死にたくない。
だから、あなたの力が必要だったんです。」
高倉は少し黙って、あなたを見た。
そして、ため息をついて笑った。
「……まあ、しょうがねえな。
俺、農業やってる人間だからさ。
土が死ぬのは、見てられないよ。
人が飢えるのも嫌いだし。
……それに、焼き肉の約束はまた今度ってことにしとくよ。
嫁さんには、ちゃんと生きて帰るって伝えてくれよな。」
あなたは顔を上げた。
「ありがとうございます……!
で、あなたのチートって……?」
高倉はニヤリと笑った。
「チートねえ。
俺の前世との合成スキルは『植物成長促進』と『土壌瞬間解析』だそうだ。
種植えたら1ヶ月で収穫できるし、
この土が何を欲してるか一目でわかる。
……現代の科学と経験全部乗っけてるから、
ここじゃ完全にチートだろ?」
あなたは思わずガッツポーズした。
「最高です!
じゃあ早速、土壌改良から──」
「待て待て、まずは休憩だ。
異世界に来てすぐ働くとかブラックすぎるだろ。
……せめてコーヒーくらい出してくれよ。
インスタントでいいから。」
あなたは笑った。
「わかりました。
俺、記憶にある範囲で再現します。
……高倉さん、よろしくお願いします。」
「翔でいいよ。
お前も、名前で呼んでくれ。」
広間では王族たちがポカンとしているが、
二人の現代日本語の会話が、静かに響いていた。
残り49ヶ月。
世界は、確実に動き始めた。
(第1話 終わり)




