育て方を間違えたかもしれない
天使でありながら罰として起こりうる最悪の事態を避けるために地上にしがない男爵家の赤子として落とされ、原因となる可能性の高いリリアを淑女として育てることを命じられ25年、心血を注ぎ性格の矯正を行なったはずなのに蓋を開けてみればどこぞの物語から現れた様のひょっこりと現れた伯爵令嬢を迫害していたことを知らされたセレナは頭を抱えずにはいられなかった。
いつか見た日のようにリリアは人目を気にすることなく地面に座り込み顔を両手で多い泣いていた、セレナは泣きたい気持ちを抑え刺激しないように視線を合わせるために膝を着き優しく肩に手を添え言葉をかける。
「どうしてこのような事をなさったのですか、リリア様」
セレナの記憶では幼い時は手が付けられないほど我儘なクソガキだったが今や誰もが敬愛する素晴らしい淑女となっていた、だからこそこの様な事をする理由が分からなかった。
天界で聞かされた様な事態に陥ることもなかったし、原因の一つである婚約者の第一王子とも良好な関係を保っていた。どれだけ考えてもセレナには伯爵令嬢を迫害する原因が思い当たらなかった。
「・・・じゃない」
「え?」
「貴方がその女ばかり構っているからじゃない」
想像してもいなかった理由に呆然としてしまう。少なくともセリアの認識の範囲では一番時間を割いているのはリリアであるし伯爵令嬢と関わったのだって経った半年のうち数時間程度でしかない。
確かに人間としての人生の中でリリアを除けば長い分類に当たるかもしれないがあくまでも家庭講師としての腕を買われ仕事をしに行っていたに過ぎなかった。
「私とのお茶会も買い物も伯爵家に行くからと何度も断ったわ」
「一応仕事ですのでそう言われましても、貧乏貴族である私は働かないと飢え死んでしまいます」
「だから我が公爵家で雇うと何度も伝えているのに、頷かないどころか他で働くだなんて」
だんだん雲行きが怪しくなっていくのをセレナは肌で感じる、最初は野次馬だったはずの貴族たちは仕方がないと言わんばかりに頷いているし傍観者であったはずの王子たちも同情的な視線をリリアに送っていた。
セレナが公爵家に誘われていたのは事実だが教師や侍女は新しい人材は不要なほど居る、それに常に側にいたがるリリアと一定の距離を保っていたいという考えから断り続けていたがそれが裏目に出るとは考えもしなかった。
裏切り者の顔は見たくないのか俯き続けるリリアにセレナは降参するしかなかった。
セレナに与えられた選択肢は一つしかない諦めて公爵家に雇われるしかない。
「分かりました、本日付けで伯爵家の家庭教師は辞めさせていただきリリア様に雇っていただくことにします」
セレナは心の中で泣いていたこれから失われる一人の時間を思って。
「セレナ、本当ね。また同じようなことがあったら許さないから。もう私から離れていかないで」
涙で濡れた顔を見せるつもりはないのか低姿勢のまま飛び込んでくる、当然だがほぼ同じ体格の女性が加速して突っ込んでくるのを支えれるはずはなく後ろへと押し倒される。
強く打った頭をさすり、余った手でリリアを頭を撫でる。周りでは貴族たちが湧き、王子たちは目に涙を拍手をしていた。
セレナはここで気がついた、もしかしてとんだ茶番に付き合わされていたのではないかと。そもそも伯爵令嬢に関して主要なお茶会やパーティーで見覚えのない告発者たち、悪事をばらしたにも関わらずさして糾弾する事のない貴族たち、全てが仕組まれた茶番劇だ。
「うわーん、嵌められた」
セレナはついに泣いた。
冷静に考えれば回避できる事態を見逃していた。社交界に居ながら噂にすらなっていないことを混乱のあまり事実だと捉えてしまった落ち度に自身の自由を手放した事実に涙が止まらない。
「嵌めるだなんて人聞きが悪いわ、実際やろうとしたのだけどあなたに言われたことを思い出して諦めただけ」
今までの教育は無駄ではなかったことを知れたのは良いことだが抱きしめている腕が鎖のように重く感じていた。