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手がかりを求めて



ガチャ。扉を開けた人物は随分眠たそうな顔をしていた。


「もー誰こんな時間に……わっ! ク、クレイ! ななな、なんで!?」

「よお。夜遅く失礼とは思うが、ちょっと話を聞いてくれないか」

「全っ然問題なし! あ、でもちょっと待って! 部屋片付けるから!」


扉を閉めドタバタと忙しい音が漏れ出てくる。クレイは鬼王キングオーガとの戦闘を終えた後、アリシアの住んでいる部屋へと訪れていた。


もう時刻は深夜。こんな時間に女子1人が住む所に押し掛けるのはどうかと考えたが、明日まで待っていられず来てしまった。


「お、お待たせ」

「入っていいか?」

「どうぞどうぞ」


アリシアの部屋に入っていく。部屋は狭いが人ひとりが住むには十分な広さだ。そう言えばアリシアの部屋には初めて来た気がする。


「アリシア。さっそくで悪いんだが──」


そこで気づく。アリシアは自分のベッドに座り何やらもじもじと緊張していた。よく見れば最初に見た時とは寝巻の恰好が異なり、より可愛らしい服装へと変貌していた。


「うん……わかってるよクレイ。私はいつでも準備はできて」

「お前勘違いしてるだろ」

「へ? 私を夜這いしに来たんじゃなくて?」

「別件も別件」

「えええええええええ!! 私期待してたのに!」

「しなくていい。それより今は話を聞いてくれ」

「ぶぅ。せっかくクレイが初めて来たのになあ」


気を取り直し本題に入る。クレイはこれまであった出来事を細かくアリシアに説明した。信じてもらえない可能性があったが、意外にもあっさりアリシアは信じてくれた。


「クレイ勇者に遭ったの!? すごい! 残留思念なんて本当にあるんだね」

「俺も信じ難いけど、この目で見たらな。優しそうなツラだった」

「それで色々聞いたんだね」

「聞いちゃいないが、勝手に語ってた。そしたら妙なことばっか話やがった」

「魔王はまだ死んでない……秘密があった。凄く気になるワードばっかし」

「そしたら急にだ。鬼王キングオーガが現れて連戦する羽目になった。めんどくさいことこの上なかった」

「それを単独で、しかも5分もかからず倒しちゃうクレイもやばいね」

「それは今はどうでもいいんだ。で、今1番知りたいのが」

「謎の結晶体?」


それそれ、とクレイが本格的に語り始める。


「勇者が最後に青白い結晶体みたいな物を手の上に生成したんだ。そして少し触ったら急に俺の腕の中に入り込んできやがったんだ。どう思う?」

「うーん……まあ十中八九魔法じゃない? 固有の魔法を物質化することだって私にもできるから」

「やっぱか。ちなみに勇者ってどんな魔法使ってた?」

「クレイ知らないの? 勇者ヘラクレスは光魔法の使い手だった。しかも光魔法はとっても希少で、中々その魔法を持った人間は生まれてこないんだよ」

「へえー」


全く知らなかった。まあ勇者のことなんて特に耳にもしてなかったから当然だった。


「じゃあその勇者が光魔法でクレイに何かを渡したのかな? 何か体に違和感はないの?」

「ないな。だから魔法を使えるお前なら何かわかるんじゃないかと思って。何かわかる方法とかはないか?」

「一応、その人にある魔法の断片的な情報は読み取れるけど」

「よしやってくれ。何すればいい?」

「じゃあ……手出してくれる?」


クレイは言われた通り右手を差し出す。アリシアはその手を取ろうとする寸前、顔を赤面して躊躇する素振りを見せた。


「ん、どうした?」

「いやあ……なんか手を握るって初めてだなと思って……」

「お前散々体くっつけてきてよく言うな」

「乙女心は複雑なの!」

「よくわからんけど、とにかく早くやってくれ」

「もおぉ」


頬を膨らませながらもクレイの手を取る。


「……クレイの手おっきいね」

「普通だ」


なぜか笑みを浮かべた。そこからは真剣モードに入る。アリシアは目を瞑り、クレイの手を通して魔法の在りかを調べて始めた。


「……」

「どうだ? 何かありそうか?」

「うーん。何か気配を感じるような……」


アリシアは少し強くクレイの手を握る。


「うん……うん……なるほど。わかったよ」

「何がわかった?」

「断片的にしかわからないけど、やっぱり光エネルギーの力を感じる。クレイは光魔法を手に入れたんじゃない?」

「て言われても……そもそも魔力がないんだから。お前魔法どう使ってんの?」

「魔力流してどーんてやってる!」

「感覚派かよ」

「だって実際そうだし。後、もう1つわかったんだけど、一定の間隔でセンサーみたいなの発してた。発信機みたいなやつ?」

「発信機……まさかそれって──」


瞬間、肌を貫くような鋭利な殺気を感じる。


「クレイ。なんか殺気感じない?」


どうやらアリシアも気づいたようだ。クレイは既視感を感じた。


「アリシア。ちょっと体借りるぞ」

「え、わっ!」


クレイはアリシアを担ぎ部屋の扉を蹴り開ける。外に出て振り向くと、骸骨が巨大な鎌を自分とアリシアがいた部屋に振り下ろそうとしているのが見えた。


三日月の刃が建物を断絶させる。盛大な破壊音。真夜中と言えどクレイが勇者と会った過疎地帯とは異なり、人がまあまあいる今の場所では騒がしさが目立っていた。


「またかよ。鎌骸骨スカルシクルか」

「あわわわわわ♡ クレイ、私今人生で1番幸せかも♡」

「言ってる場合か! てか降りろ!」

「いやーもう少し」



場をわきまえず骸骨は大鎌をクレイたちに容赦なく振りかざす。


「おっと」

「ほっ」


ようやくアリシアも離れ、二手に飛んで攻撃を躱す。改めて襲撃者の骸骨を見据える。


ボロ布のみを纏った骸骨だ。頭蓋骨のみの顔で表情はわからないが、鬼王キングオーガ同様溢れんばかりの殺気を放っていることはわかる。そして鬼と同じ赤い目をしていた。


「クレイ! 急に襲われたってこういうこと?」

「そうだ。鬼の次は骨らしい」


鎌骸骨スカルシクル。文字通り巨大な鎌を持った骸骨がいこつ。魔物では骸骨スケルトンに分類され、巨大な鎌は自身の骨で作られている。その凶刃には呪いがかけられていると噂され、一撃でも喰らえば呪殺されるとされている。


余談だが、この魔物とは2人は相対したことがある。王国の衛兵でさえも手を焼くほどの上位の魔物。


「とりあえずこいつ潰すぞ」

「はいはーい」


しかし全くひるまない両者。クレイとアリシアにとってこの鎌骸骨(まもの)への意見は一致している。


((負ける方が難しい))


「勇者、抹殺」


カラカラと骨を鳴らして喋る骸骨は、同じ人物の名前を呟きながら空気を切り裂く。狙いを定めるはクレイ。


「やっぱ俺か」


ナイフを逆手に大鎌と衝突。金属音が轟き場を圧迫させる。確実に致命傷を与える攻撃を見事なナイフ捌きで回避するクレイ。時には見て、時には野生的勘を頼りに刃を防ぎ続ける。


「そーれ!」


そこでアリシアが動く。魔力を消費して水魔法を発動。水の縄を作り出し投げる。狙いは定まっていないが、自身の魔法で作った縄は頭で考えるだけで自由自在に動かせることが可能。見事に鎌骸骨スカルシクルの首根っこに絡まる。


「ふんっ!」


アリシアが引っ張ると、クレイに夢中で気づけなかった骸骨は後方に倒れてしまう。その隙をクレイが見逃すはずもなし。跳躍し鋭利なナイフを模型と何ら変わらない頭蓋骨へと突き立てるが、


ギィイン!


「おっし」


すんでの所で鎌で防がれる。前戦った個体よりも素早かった。


「勇者……抹殺。抹殺!」

「骨のくせによく喋る」


骸骨は立ち上がりより速く鎌を振るう。上段からの鎌の攻撃が来る。タイミングを見極めナイフで軌道をずらし足を使い、鎌の刃を地面にめり込ませた。


「ぐうぅ……勇者……お前を殺す。殺す!」

「俺は勇者じゃねえよ」


さて、動きは止めたがどうするか。鬼王キングオーガよりも素早い動き。しかし耐久力はそこまでではなさそうだ。連続で攻撃を叩きこめば問題ない。しかし今日は疲れていた。1撃で仕留めたい。


「アリシア。火矢ひや貸せ」

「オッケー」

「抹、殺!」


骸骨が鎌を地面から引き抜く。そのまま体の回転を利用しクレイに連続の斬撃を繰り出す。士気が上がったのか威力が増し、防いでいたナイフの刃が欠けた。クレイは一瞬の隙を見つけ2本のナイフで鎌骸骨スカルシクルを押しのける。相手との距離を空けナイフをしまう。


手に握るのは、鉈と同じく背中に装着してあるおの


「喰らえ!」


アリシアの声。やはりクレイにばかり意識を向けている骸骨は背後の攻撃に気づかない。アリシアの火魔法の火球が激突、爆散。クレイの方向へ吹き飛ばされる。


クレイは避けようとせず、そのまま骸骨へ猪突猛進。黒煙の中での邂逅。目も合わせず右腕を振るう。


「けむっ」

「クレイ来たー」


煙を通り抜けアリシアの近くに来る。


「はいこれ」

「サンキュ」


アリシアから1本の火の矢をもらう。文字通り炎で作られた矢、アリシアの魔法で作られたものだ。


「骨は火葬が1番」


地面を蹴る。黒煙が晴れた先には火の球にやられた鎌骸骨スカルシクルがいた。クレイの気配を察し、振り向きざまに自慢の大鎌を──


「ねえよ」


なかった。持ち手以外の部分は、あの黒煙の中でクレイの斧によって切断されていた。ただの棒と化したそれは大気を撫でるのみ。クレイは脳天にアリシアからもらった火矢を突き刺す。


ぼっ、火矢が発火し炎が骸骨の全身を巡る。焼かれる身のない骨のみの体から断末魔の悲鳴が聞こえる。


「ああああ……光の……勇者…………お前…………を……」


か細くなっていく声を聞きながら、魔物の死を見届けた。


「なんでこう藪から棒に。散々だ」


だがこれでわかったことがある。クレイは魔物に追われている。よく見れば2体の魔物共々目が赤かった。これはそれぞれの特徴とした部位ではない。


(そいや似たようなのに使役魔法があった。群れで動く魔物の頭領が持ってる時がある、操られてた配下は目が赤くなってた。さっきから勇者勇者って馬鹿の一つ覚えみたいに言ってるのも明らか。仮に魔王が生きてるとして、遠隔で魔法を使ってるのか。俺の中にある勇者の物体を感知して。冗談も大概にしてほしいもんだ)


もしこのまま勇者の残した物が体の中に残り続ければ、クレイはこの先ずっとこんな目に合うことを想像した。絶望だった。


「マジであの勇者呪ってやる」


とはいえ何も状況は解決しない。何とかしてこのクソみたいな展開をどうにかしなくてはならなかった。


「何か……何かないか」

「ねえクレイ」

「ちょっと待ってろ! 今考えてっから」


魔王を引き寄せる勇者の魔法。魔王はどうにもならないとして、この勇者の残した魔法とやらの物体を何とかできないのか。



【エリスも僕を笑うだろう】



そこで勇者の言葉を思い出した。そう言えば、1人だけ知らない人物の名前を言っていた。


「おいアリシア。勇者一行にエリスって名前の奴はいたか?」

「え? うーんと、いやいないね。戦士のエラルドと僧侶のラウン、後は魔法使いのエレーナ、で、勇者ヘラクレス。エリス……エリス? なんか聞いたことあるような……あっ!」

「なんだ? 思い出したか?」

「そうだエリス! 勇者一行にはいないけど、その人も関係深い人間だよ。だって彼女は──」


アリシアからそのエリスという人物の詳細を聞く。聞き終えたクレイは一筋の活路を見出した。


「なるほどな。そいつなら何か知ってるかもか」

「ねえクレイ」

「なんださっきから」

「あれ……」

「ん? ……あ」


アリシアがどこかを指さしていた。クレイはその方向を見ると、無残にも破壊されたアリシアの部屋があった。もう部屋とは呼べないくらい損害が激しいが。


元はと言えば、クレイがここに来たことによってこうなってしまった。大元は勇者の副産物であり、クレイも被害者ではあるのだが、何とも悲しそうな表情を浮かべる彼女を見て、「俺のせいじゃない」とはとてもじゃないが言えなかった。


「……すまん。弁償する」

「あそうだ! こうすればいいんだ! 私がクレイの家に住めばいいんだ!」

「えっ!?」

「そうしようそうしよう! やったー! 前からいつそう言おうかと思ってたんだよ! 一石二鳥どころか五鳥くらい得した気分だあ、あの骨に感謝しないとね」

「待て待て待て! 本気かそれ!」

「え、まさかクレイ私を外に放置するの? か弱い乙女を1人残して? ひどい! 私は悲しいよクレイ! 私はそんな人を好きになったんじゃないのに! えーんえーん」

「お前のどこがか弱いんだ。後嘘泣きやめろ」


駄々をこねるアリシアに疲れ果てる。


「あーわかったわかった。俺が帰るまでいていいよ。その後はまた別の探してやるから」

「帰るまで? どゆこと?」

「少し仮眠を取ったら、俺はこの町出てそのエリスって奴の所に行く。それで何とかなるかはわからねえけど、ここに止まってたら迷惑がかかるしな」

「ふーん。そっか。じゃあ一緒にいこ」

「は?」

「え?」

「なんでそっちが疑問形なんだよ。来る意味ねえだろ」

「なんでって……クレイが行くから?」

「理由って言葉知ってる?」


会話が成立しない。


「いいじゃんいいいじゃん。細かいことは気にせず、それに私がいれば強力な戦力になるし。絶対クレイを助けられるよ」

「俺1人で十分だ」

「よーし! クレイを助けちゃうぞー!」

「たくっ……」



クレイは1秒でも早く元の生活に戻れるよう願った。


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