表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/23

獣ノ人



余裕で見上げられる3メートルはある背丈。赤く腫れ上がった強靭な肉体。さっきから殺気を放ちまくる赤い眼光。特殊な金属で作られている強硬な金棒。


クレイは地下から現れた巨躯の名前を知っている。


鬼王(キングオーガ)


魔物の一種、(オーガ)の上位種にあたる存在。鬼の頂点に立ち、鬼を付き従える、まさに鬼の王に相応しい風格を放っている。クレイも鬼となら戦闘を交えたことはあるが、鬼王は目にしたことはあるが戦ったことはない。


初めてここまで近くで見た。恐怖は微塵もないが、やはり半端な力で敵う相手ではないとわかる。しかし、そんなことは全て現在重要なことではない。


「なんでここにいんだよ」


突然、本当に突然だ。地下から殺気を感じて飛び出してみれば、廃家は破壊され鬼王が現れた。わけがわからない。


「そして極めつけは」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


鬼王が右手で巨大な金棒を軽々とクレイに叩き落す。当たれば即死、しかし豪快さに反して速度はまだ遅い。クレイは横に飛び潰されるのを回避した。


「確実に俺狙ってんなおい」


鬼王が繰り出す攻撃を避け続けるクレイ。ある程度知能のある魔物でも、無差別に周囲の木々や建物を破壊することはあるが、その暴力は1点のクレイに集中して襲い掛かっている。


「めんどくせえ。連戦は勘弁してくれよ全く。それもこれも全部」


勇者のせいだ。


間違いなく原因は勇者が出したあの結晶体。あれを手に入れた途端にこれだ。じゃなきゃ魔物がこんな場所に来るわけがない。そしてもう1つ気になることがある。


「ゆう……しゃ…………ゆ……うしゃ……」


薄っすらだが聞こえる魔物の声。親の仇のように繰り返し呟いていた。


(待てよ、追われ続けてたとか言ってたな。魔物に追われてたのか? そもそもあの残留思念の存在が、こんな辺鄙へんぴな所にいる理由がまだわからなかった。逃げ続けてきた? 思念体になってさえ……魔王の脅威……クソ、なんで俺がこんなこと考えなくちゃいけないんだ)


欲しい答えを持っている人物は先ほど消えてしまった。このままでは埒が明かない。それに、目の前にいる障害の排除が最優先だ。


「部位でも売れば金になるかね」


ナイフを構え戦闘態勢に入る。その剛腕な筋肉を躍動させ、さらに力を上乗せさせた金棒をクレイに振り下ろす。地面が砕かれれるほどの一撃だが、クレイの姿はそこにはいなかった。


宙を舞ったクレイが金棒の上に降り立つ。金棒から腕を足の踏み場として、疾駆し鬼の首を跳ねようと刃を振るう。


「ちっ」


だが薄皮1枚で終わる。一旦鬼から離れる。想像した以上に鬼の皮膚は硬かった。


「これじゃ駄目か」


クレイがナイフを見つめているうちに、自分の体に飛び乗った獲物を殺そうと金棒を振り上げる。ぶつぶつと同じ言葉を繰り返しながら、クレイの脳天をかち割ろうとする。


「じゃもっと速くするか」


金棒がクレイにぶつかる寸前、クレイが消える。その次の瞬間、金棒が斬れた。見ればすぐ横にクレイの姿がそこにはある。今度は上に飛んだわけではない。


ただ単にクレイが先刻よりより速いスピードで瞬時に移動し、ナイフを振り抜いただけだ。あんな細い刃で筋骨隆々な肉体を持つ魔物が振り回す金棒を斬れるわけがない。例外であるクレイを除いて。


クレイはさらに駆けだす。あっという間に鬼王の股の間を潜り抜け、その去り際にももの裏側を2か所切り裂く。苦痛を嘆く鬼王。


鬼王の背後に来たクレイ。巨躯の背中に飛びつきナイフの刃を肉体に食い込ませ、それを軸に鬼の正面へと回転する。もう1本のナイフを取り出し、鋭く凶暴な眼光を飛ばしている赤い目に突き刺す。


「ああああああああああああああああああああっ!!」

「うるさ」


1発蹴りを入れまた距離を取る。鬼王は目玉に刺さったナイフを抜き放り投げる。視界を奪われた鬼はもがき苦しみ、周囲のボロ屋を無尽蔵に破壊し始める。


「暴れちゃって。今楽にしてやる」


鉈を手に取るクレイ(けもの)。獲物の命を刈り取ろうとその身は跳躍する。


狩る側が獲物になる。獣だと思い込んでいる奴は兎になる。クレイ──獣ノ人(ビースト)と呼ばれる彼の意味合いはそこから来ている。


誰かは、クレイの出生は野生やせいなんじゃないかと。そう呟いていた。



         ────



鬼の王、鬼王は跡形もなく鉈で両断された。クレイは散らばったナイフを拾い上げしばし落ち着く。


「ああ……疲れた。人がいなくてよかった。なんでこんなことに……ごちゃごちゃ考えても仕方ねえ。まずはどうすっかなあ」


障害は排除した。後はどうすればいいのかを考える。


「魔物に追われる……現状は仮説に過ぎないか。せめて体に入ったあの四角い物体が何かわかれば」


思考を巡らせる。最後に勇者が残した物。あれは仮にも魂の残留思念という稀にも稀な現象の存在だとしても、あんな芸当ができるなんて話を聞いたことはない。つまりあれは勇者ができた固有の能力。この世界であのようなできる力と言えば、


「魔法」


選択肢が1つ生まれた。そして次にやるべきことが決まった。



「…………あいつのとこ行くか」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ