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銀色の凶星

作者: 虹彩霊音



快晴の下、とある館に棲む蒼い虎が館の前に咲く花園の中心で寝そべっていた。


「なぁ、聞きたいことがあるんだが」


隣に同じく寝そべる紅い虎が聞いた。


「それ……いつから持ってたんだ?」


紅い虎は蒼い虎の胸元を見る、不自然にそこだけ銀色だったのだ。


「友達からの肩身さ、教えていなかったか?」


「うん」


「それじゃあ、暇だし話すとしますか。『狼から産まれた銀色の凶星』の話を」









…………その節は冬だった。雪は積もり辺りは白に染まっている。群青 蒼冬はその身体を震わせながら、館へと向かっていた。


「はぁ……寒いのはどうしても無理だな。焔が弱まってしまう」


そうしてしばらく歩いていると、目の前に不自然な積雪の塊が見えた。あまりにも気になるので調べてみると、それは少女だった。身体が氷河のようにカチカチになっている。


「おっと……これは……」


蒼冬はその少女を抱え、館へと走る。


「…あ、姉さんおかえりなさーい。ってどうしたのその子!?」


「道端で倒れていた、私の部屋に連れ込むから音廻は救急箱を」


「わかった!」


まず蒼冬は彼の部屋に彼女を入れた。ベッドの中へ入れ、ふーっ、と大きく息を吐く。するとだんだんと部屋の中が暖かくなった。


「姉さん、救急箱」


「助かる。……あぁ、もうこんな時間なのか。今日の夕飯は鍋にしよう」


「わーい! それじゃあこの子の応急処置しておくね」


「ああ」






「…………………?」


その少女は目を覚ます。腕を見ると誰かに手当てされた痕跡が見受けられる。


「あ、起きたね」


「誰…………?」


「私は群青 音廻。私の姉さんが倒れていた貴方を見つけてここまでやってきたんだ。覚えてる?」


少女はただその冬のような冷たい蒼い瞳で音廻を見る。そこに蒼冬が合流した。


「あぁ、目覚めたんだな。音廻に応急処置を頼んでおいたんだが、痛むか?」


「……大丈夫」


「そうだ、これから夕飯なんだが腹は減ってるか? 鍋にしたんだが」


「いいの……?」


「もちろん」


音廻は少女の手を握り


「ひゃー、貴方の手ほんとに冷たいね! 雪みたいだ。そういえば、貴方の名前は?」


「………メツ」


「そっか、メツっていうんだ!」


「メツ、明日になったら一度亭に行こう。そこできちんと診てもらわないと」


「うん…」


「まぁとりあえず今はご飯たべちゃおー!」





…………次の日、メツは二人に連れられて亭で身体を診てもらっていた。幸いにも応急処置が適切だったのか、大事には至らなかったらしい。


さて、その頃。とある屋敷に住んでいた騒霊が、コーヒーをお供に本にふけっていた。


「…………!」


近くでくまのぬいぐるみで遊んでいた騒霊の妹がびくりと何かに反応する。


「…………どうした」


「…………近くに、居る。あの子が近くに……」


「……………早いな、今回は」





メツは二人が戻ってくるまで亭の待合室にて他の子ども達と共に居た。


「お姉ちゃん、本読んで!」


「私も!」


「わかったわかった……落ち着いて……」


短時間で子どもに魅入られたようだ。本を読んでいる最中一人の子どもが頭痛を訴えた。吉弔は慌てて


「大変だ、鎮痛剤を持ってこなければ」


「………………」


すると、メツはその子どもの頭に手を翳した。しばらくすると、その子どもから黒いドロドロとした『ナニか』が引っ張り出されるように出現し、たちまちメツによって握り潰され消滅した。


「……あれ、痛くない?」


「………悪いものは、私が『滅する』。それが、お姉ちゃんとの約束だから」


そう呟くように喋った数秒後、メツは気を失うように眠りについた。







メツを保護して一週間は経っただろうか。蒼冬と音廻との生活にもだいぶ慣れたようだ。


「朝ごはんだよー」


「…………眠い」


音廻が眠っていたメツを起こす。


「もう少し寝たい……」


「ご飯冷めちゃうよー」


「起きる……」


音廻はメツをおんぶして食卓へと向かう。


「おいしい?」


「うん」


「お、本当か。それは嬉しいな」


「不要な嘘吐いちゃだめ、お姉ちゃんから言われた」


「そうなんだー」




「おーい、遊びに来たぞー」




魔法使いのアビスだ。


「………アビス、毒キノコだめ……」


「ちゃんと食えるって!?」


「アビス殿か、丁度良い。アビス殿も雪かき手伝ってくれないか、羊羹を後で出すから」


「ほんとか! よっしゃ!」


アビスはるんるんとスコップを取りに向かう。


「そういえば姉さん」


「ん?」


「メツって、『あの人』に似てるよね」


「ああ………そうだな……」


「やっぱり『あの人』と同じ種族なのかな」


「……………」


「姉さん?」


「ああ、きっとそうなんじゃないかな………」






ある日。音廻、蒼冬、メツは光幻城当主である、エニグマに招待された。妹達との交流のためである。


「……ようこそ、我が城へ。さっそく妹達を呼びに……ん?」


「どうした?」


「…………その者がメツだよな? 寝てるが?」


「あー、この子一日の半分は寝てるから」


「我が城の者達でもそんなに寝ないぞ!?」


エニグマは少し動揺したが、すぐに冷静さを取り戻し


「………ゴホン、妹達を呼ぼう。ライト、ファントム」


エニグマの声がして刹那




         ドゴーーーン




三人の背後の壁が崩れたのだ。


「えっ?えっ??」


「わっほーーい!! 久しぶりの来客だーー!!」


「こらファントム、興奮しすぎだ。ちゃんとドアを使えと言っているだろう。誰が直すと思ってるんだ」


「ごめんなさーい」


「…………ふあーあ、よく寝た」


「おはよう」


先程の衝撃でメツが起きたようだ。


「………ここどこ?」


「光幻城。目の前に居るのはここの主であるエニグマ―――」


「君がメツかー! 早速遊ぼー!!」


「ちょ、え」


嵐のように現れ、嵐のようにメツを連れて消えた。


「……あれ、ファントムどこに行ったの?」


「向こう」






この時、『ワルイモノ』が蔓延り始めていたことには誰も気が付いてはいなかった。たった一人を除いて……






場面は変わりて人里。そこでは原因不明の病が流行していた。それ故に、人間達はみな外出を控えていた。


「…………客がだいぶ減ってしまったな」


玉響は店のカウンターから外を見ていた。


「入ってもいいかしら」


「君は……」


魔法使い、ジェネシスであった。魔法使いといえばアビスであるが、彼女とはまた違う路線の魔法を扱うらしい。


「この時期だと魔法の研究に使う素材が見つかりにくいというのに、さらには変な病気が流行って大変よ……どこも閉まっていてね」


「そうなのか………さて、君の探し物が終わったら今日はもう閉めようかな。今日は君だけだし」


「………………くっ!?」


ジェネシスはその身を震わせたかと思えば、外に出て上空を見上げる。


「あれは………!!」



雲の切れ間から見えたのは『銀色の凶星』。それは瞬く間に人里の中で話題になった。



しばらくして、人里の中心部上空で暗黒物質(ダークマター)が現れた。







「何? 人里で異変?」


「異変って………原因不明の病のことでしょ? それは私達にはわからないよ」


「妖怪が仕掛けたとは考えないのですか?」


朝霧 神居は蒼冬達に言う。


「神居殿、貴殿も知っておるだろう。人里を襲うメリットは妖怪にはないと。なぜなら人間が畏怖することによって妖怪はその存在を保つことができるから。どうしてその根本を潰す? 自殺するようなものじゃないか。冥界には病は流行してないのだろう? 貴殿が気にする必要はないんじゃないか?」


「しかし……」


そこにアビスが合流。慌てているようだ。


「おい、大変だぜ!」


「どうした…………!?」


蒼冬はアビスに背負われたメツを見て驚愕する、傷だらけで血まみれだったのだ。


「おい、メツ!! 何があった!!?」


「と、とにかく亭に連れて行かないと!!」




「その必要はない」




唐突に吹いた風と共に現れたのは、二人の少女。


「叡智殿に……幻殿!?」


「メツのその身体の傷は『仕事』によってできたいわば必然の(ダメージ)。気にすることはない」


「どういうことだ!?」


「まぁ落ち着けよ」


叡智はポケットからコーヒー味のガムをひとつ取り出し、口の中に放った。


「まず………メツは何者か知ってるか?」


「知らないが……」


「ふむ、質問を変えよう。メツを見て『誰を思い出した』?」


「え………」


「寂滅………さん?」


音廻がそう答えると叡智は


「だろうな」


ガムを包み紙にぺっ、と吐き出した。


「当たり前だよ叡智姉。メツは寂滅姉の『複製体(クローン)』なんだから」


「は!!!?」


蒼冬と音廻はその言葉に驚く。


「ちょちょ、待ってよ!! メツが寂滅さんのクローンってどういうこと!!?」


「だから落ち着けって。順に話すからさ」



叡智が言うに、寂滅は生前重い病を患い彼女を救うにはクローンを生み出し臓器移植をするしかなかったという。もちろん二人は、さらにはクローンがそれを望んだ。しかし寂滅は望まなかった。クローンの命を奪いたくなかったのだ。そして叡智は約束する、そのクローン『メツ』を家族として扱うと。



「まぁこんな感じだぁね」


「……………」


「ところで、みんなは『名前がその物質の性質を縛る』ってことは知ってるかな?」


「…というと?」


「たとえばなんの変哲もない布っきれに『雑巾』と名づける。するとその『布っきれ』は途端に『雑巾』になる。こういうこと。だから、クローンに『(メツ)』と名づけることによってあの子は『破壊』の能力を手に入れたみたいでね。あの子に壊せないものは無いよ、たとえ実態のない『概念』であっても」


「……………!」


音廻は思い出した、メツが子どもの頭痛を治した時のことを。


「あの時は……そういうことだったのか」


「メツも寂滅の性格を受け継いだのか、その能力を他人のために使うことにした。他人に害なすものは全て『滅ぼす』。それが彼女の使命、しかしそれには代償があった」


「代償?」


「『自己犠牲』。滅ぼすというその行動は威力が凄まじく、己が身さえも滅ぼしかねないんだ。だからメツが現れるのは決まって疫病が流行る時が多いんだが……あ、そうそう」


叡智は思い出したような素振りをして


「今、人里ヤバイぞ。暗黒物質が人里に病を振り撒いてるんだったっけ?」


「何!?」


「…………………」


「このままじゃ、『生物災害(バイオハザード)』による

世界的大流行(パンデミック)』が起こるかも………と、ここまで長々と話したけれど、メツはそこに居ないけど大丈夫?」


「へ?」


皆が辺りを見回す、メツがいつのまにかいなくなっていた。


「どこに行った!?」


「人里だろうね」


それを聞いた蒼冬と音廻はすぐさま人里へ。


「おい叡智!! どうしてお前はそこまで冷静でいられる!?」


「そうやって興奮することによるメリットが無いから」


「メツのことはなんとも思わないのか!? 死ぬかもしれないんだぞ!!」


「…………………」


アビスの言葉にうーんとうなる叡智であった。







人里にて、既にエニグマ達が暗黒物質の対処をしていた。


「城の奴らの異変はアレのせいか?」


「壊しちゃおうよ」


エニグマとライトがそれぞれ野獣(ベヒーモス)と猫魈に変化し、高く跳んだかと思えば暗黒物質をその爪で深く深く引っ掻いた。


暗黒物質は欠けた、と同時に再生を始めた。


「再生するの!?」


「…………!」


エニグマがその手を確認すると、じわじわと音を立てながら黒い液状のモノが蝕んでいた。


「汚ねぇ」


ぱっぱとそれを振り払う。


「……これが病の元なのか? 迂闊に触れればこちらがやられるぞ」


「なら遠くからやればいいんだよ!」


ファントムが持っていた楽器は『形態変化(トランスフォーム)』を開始し、一種の兵器となる。


「星の彼方までぶっ飛べ!!」


ファントムの一声と共に放たれた一線は、暗黒物質を貫くと一気に軌道に大穴を開けた。が、すぐさま再生してしまう。


「嘘でしょ!?」


そこに蒼冬と音廻が合流。


「お前達は……」


「うわなんだあのクソデカボール!!」


「メツを見かけなかったか?」


「メツ? いや知らないが……」



その時、ひび割れる音がした。



「なんだ!?」


暗黒物質がひびを入れていたのだ、先程あの三人が攻撃しても再生したというのに、暗黒物質は何故か再生しなかった。


何故だ、という疑問はすぐに払拭された。暗黒物質のすぐ近くに銀色の星が浮かんでいたのだ。


「あれは……メツか!?」


メツが暗黒物質に拳を入れていた。たったその一撃で暗黒物質は跡形もなく粉砕し、その姿を消した。





「………疲れた」


メツは地上に降りるや否や倒れる。


「大丈夫か!!」


蒼冬達が駆け寄る。


「『ワルイモノ』……消えた。人里はもう大丈夫……」


メツは二、三回大きく呼吸をすると、安定したのか立ち上がり…


「それじゃあ……私の仕事は終わり。疲れたから寝る」


「……どれくらい?」


「………わかんない、でもまた会えるよ」


「……わかった」


メツはああ、と言うと『もふもふ』を取り出し蒼冬達に渡した。


「これは?」


「私のもふもふ、いつも一緒」


「………そうか、ありがとう」


「うん」


メツは朗らかに笑うと高く、高く高く跳んだ。しばらくして上空を見ると、銀色に輝く星が青空に浮かんでいた。















「………そんなことが我の知らないうちに起きていたのか」


「まぁな。実は………この話には続きがあるんだ」


「続き?」


「ああ。……おっと、タイミングが良いな」


二人が空を見ると、銀色の彗星が見えたのであった。





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