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Life ~一つ隣の物語~  作者: るなるな
Life『月と紅茶と幸福を』
46/77

4日目 オムライス

ご飯時に見ないでください。

 ──パキ

 フィリア様の夕食を作る為に、ドアノブを開いたとき、またこの音が鳴った。

 はぁ……今日はオムライスでも作ってみようかと思ったのだが、また別の状況に変わるのか。

 流石に何度も受けると慣れてくるが、ここまでの頻度で毎日起こってしまうとこちらの頭も疲れて……

 と思っていたが、特に異常もなく調理室に向かうことが出来た。

 なんだ、こういうパターンもあるのか。

 記憶が飛んだりするのは困るが、フェイントをもらうのはそれはそれとしてなのだが……

 まぁ……いいか。お嬢様の感想を新鮮な気持ちで聞けるのは楽しみだ。


「……?」

 フライパンを加熱している時、ふと右手に視線が移った。

 さっきまでドアノブを握っていた手だ。

 静電気のような痛みが一瞬流れた為に何となく見たが、手のひらに異物がみえたきがしたのだ。

 掌を近づけてみる。

「……なんだ、これ」

 黒い糸のようなものが、まるで手相の一つのように線を描いていた。視線を横に動かしたり、縦に動かしてみるが、線の位置は変わらない。どうやら()蚊症(ぶんしょう)ではなさそうだ。

 ……そもそも、糸なのか?これは。糸にしてはあまりにも鋭角に曲がっている。

 まるで、『割れ目』だ。

 とりあえず、料理に混入させるのはいただけないし、取り除いておこう。

 僕は、左の人差し指と親指で糸くずを……

 ぼと。

 おかしいな。


 じゅうううううううう。


 ゆびが、すりぬけた。


 じゅうううううううう。

 かたいとげが、にほん、ひっかかった。


「ぁ……は?ははは」


 おかしいな。

 右腕が……こんなに震えているのに……


 なんで、僕の、四本の指は、動かないんだ?

 疑問に答えるものはもちろんいない。

 返答は、涙でにじむ視界と、肉の焼ける香ばしい匂いだけで、十分だった。


「お待たせしました」

「……オムレツ?」

「いえ、オムライスです」

「……おむらいす」

「はい、チキンライスに、オムレツを乗せた料理です」

「こんなのがあるんだ」

「たしか、東の方で作られたアレンジ料理が元ですからね。足し算が織りなす芸術と言うやつです。一応隣にデミグラスソースも置いてあるので、味に飽きたら使ってみてくださいね」

「……いただきます」


「……ごちそうさま」

「どうでしたか?」

「……悪くなかった」

「でしょう?『僕の』渾身の料理ですからね」

「ただ……」

「ただ?」

 少し不思議そうな顔をしながら、手を後ろに組む僕を、料理を出してから初めて見てこう言った。

「『チキンライス』なのに、鶏肉の味はしなかったし……ひき肉を入れていたけど、どんなお肉を使ったの?『普通』はぶつ切りにしていれるものだけど」

 無垢な少女の目線に、僕は少し意地悪な笑顔を見せながら、『右手の人差し指』を唇に当て、一言で返した。

「秘密の、隠し味です♪」


大学で絵本の話を書いた後、疲れ切った脳を休めるために、大学内に併設されているコンビニで『オムライス』を二年ぶりに食べました。

ちょっとお高い値段ですが、デミグラスソースのかかった、卵がふんだんに使われたオムライスで、食べた瞬間脳の疲労が吹き飛ぶような一品でした。

そして、気が付いた時にはこの話を書き上げていました。

俺はこの作品を冷静になってから見た時の恐怖と涙を忘れることは無いでしょう。


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