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Life ~一つ隣の物語~  作者: るなるな
Life『月と紅茶と幸福を』
14/77

二日目 朝

 目覚めは案外のんびりとしていて、頭の中は冷静だった。

「何年ぶりだろ……」

夢を前に見たのは。思い出せないくらいに久しぶりだ。

 そもそも夢なんて、全く見たことすらない気がする。

 それほどまでに奇妙な……あれ?

「どんな夢……見ていたっけ?」

「知らないよ、そんなこと」

「うわあっ⁉」

あまりに驚きすぎて、ベッドから転げ落ちかけるかと思った。

 当たり前だ。寝起きのタイミングですぐ隣にいつの間にか人がいたらどんな人間も驚くに決まっている。

 たとえそれが怪物だろうと、美少女だろうと反応は同じに決まっている。

「せ、セッカさん⁉どうしてここに……昨日の夜に荷物を持って来たので用事終わってなかったんですか⁉」

「うるさい。大声で喋らないで」

いや、無理があるでしょうよ。

「はい。これ。忘れてた」

そう言ってメイド長は一冊のノートを僕の目の前に差し出した。

なるほど。ぼくの主張は無視ですか、そうですか。

 手に取ると、それはむちゃくちゃ綺麗な字で『ぎょーむないよーと困ったときのやつ』というタイトルが書かれたノートだった。

 いや……もうちょっとしっかりしたタイトルにしましょうよ。

「雰囲気がほわほわした方が、緊張感無くなるでしょ」

「……こっちの思考はもうほわほわですよ」

とりあえずぱらぱらとページを捲ってみると、びっしりいろいろ書いてある。

 タイトルとのギャップありすぎでしょ……

「私、仕事に妥協は許さないから」

「ならタイトルをまじめに書きましょうよ……」

「わかった、検討しとく。あともう一つ報告がある」

「何ですか?」

「入り口を出て右にある図書館。司書様が帰ってきたから自由に使っていいよ」

そのままセッカは、用件だけ言って、さっさと帰ってしまった。

 本当に、何というか……メイド長を例えるならつむじ風と呼ぶんだろうな。

 気まぐれに突然現れたと思ったら、強引に話すだけ話してさっさと帰る。あとは自分で考えてというスタンスで丸投げ。

 多分僕はキレる権利はあるだろうし、マトモな国とかなら訴えても勝てると思う。

 顔がいいし、なんだかんだ分からなかったら面倒くさそうにアドバイスしてくれるから許すけど。


 ノートをある程度読み進めると、フィリア様を起こす時間は9時頃と書いてあった。

 現在時間は七時半頃。一時間程前に起きていたから、陽の光が当たらない地下室でもしっかり日の出頃に起きているわけか。

 むふー。嬉しいな。

 ただ、問題の一つもこの早起きのせいではある。

 暇なのだ。朝食を作るには早いしね、うん。

 服はもう着替え終わっているし、鏡の前の僕はそのままの姿だった。

 今日の業務も頭に入れておいたし、朝食のメニューの作り方も大丈夫……だと思う。

 この上で時間が余ってしまった。

 それもそうか。一週間前までは、覚えることだらけで時間を気にする余裕なんて無かったわけだから、それがなくなった瞬間に時間が空く。

 いや……待てよ。それなら朝のルーティンができる時間が出来たことになるのか。時間的にもちょうどいい。

 一週間ぶりに習慣へと戻していこう。


 僕は忘れっぽいからちゃんと覚えていればいいのだが……

 最初は……そうだ、柔軟体操だ。

 手順は……いつも適当だったな。

 朝だし、肩回りを重点的にしておくか。

とりあえず深呼吸で身体全体に空気を入れ込んでから、両腕を前に出し、手の甲が見えるように指をもう片方の指の間に入れ込む。

そのまま肩の角度が変わらないように、手が常に自分方向に向くように気を付けながら、頭の頂点まで円を描くように上げる。

その体制を維持したまま、右、左、後に腰を曲げて……前に倒してそのまま地面に手を付けて……

よし。柔軟性はあんまり変わってないな。

 あとは適当に肩でも回しておけば柔軟になるだろう。

 効果があるかは知らん。

 

 跳躍力も変わってないか調べておこう。

 さっと思いつく方法で調べるために上を向いてみるが……

「割と高いな……」

 あまり意識していなかったが、僕の伸長の三倍以上の高さだ。

「この高さは、普通にやっても無理だな」

 一応垂直に飛んでみるが、箪笥の上が見える程度の高さまでしか飛べなかった。

 あ、埃被ってるじゃん。あとで掃除しておこ。

丁度いい。魔術も一週間使えなかったし、衰えていないかチェックできるな。

軽く目を瞑る。

身体機能を強化する魔術は複数あるが、今回は……というか今回もいつもの魔術でいいか。

前の『覗き見』とは違う感覚で、息を深く吸わないで、浅く、鋭く。

巡らせるように吸って。一言。

「『加圧(ブースト)』」

 ゆっくりと目を開けて、四肢を確認する。

 うん。成功してる。

 手足の先から、重みが無くなり、身体全体が浮くような感覚だ。

 改めて天井を見てみる。

 この状態で見ると、むしろ低いくらいだな。

高鳴る心臓を抑え、部屋の端へと移った後、踏みしめるように床を、一歩。二歩。

「さんっ!」

強く蹴り、地面へと別れを告げるように押し飛ばす。

自分の頭で思い描く通りに、勢い良く体が宙へと浮いていき、天井が少しずつ近づいて……

近づいて……近……

「あ」


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