小噺
これが夢であると自覚する事に、そう時間はかからなかった。
僕は眼を瞑っている感覚があるが、その先に景色が見えるからだ。
屋敷に入った時の村ではない。石造りののどかな村だ。
素朴な服を着た、老若男女が各々仕事をする、普通の村だ。
瞬きをしても別に風景が変わることはない。
ただ、この村が妙に懐かしい。郷愁の念に駆られるのだ。
どこかで長期滞在した村だろうか?それともよほど印象に残った思い出でもあるのか?
どうも思い出せない。
明晰夢のようで、身体は自由に動かせるというのに、その村の思い出を全く思い出せない。
「どうしたんだ?そんな所でボーっとしてよ。また考え事かい?」
背中を大きな手で叩かれて、驚いて後ろを向くと、
「あはは……ここに住んでからもうかなり経ったなぁ……って思って」
それは、居候させてもらっている家のお父さんだった。
あれ?覚えて無いのに普通に喋れた。
一瞬疑問に思ったが、夢なのでそんなこともあるか。納得しておこう。
ふと自分の左肩に重みがかかり、見てみると、大量の荷物を背負っていた。
布で包まれているが、中身は魔力を蓄えた宝石の原石であることを、僕は知っているようだ。
「はは、流石は元旅人さんだな、『ざざっ』君は。リヤカー無しで四時間足らずでこんなにあつめるなんてね」
おそらく僕のなまえであることは理解できる。だが、その言葉を認識できない。ノイズのように聞き取ることができない。
だが、周囲の雑談も同じ様なノイズ音として聞こえてくるので、曖昧な部分、記憶にない部分。その程度なのだろう。
「いえ、『俺』は力仕事が苦手なので。むしろこの程度しか持って来られなくて申し訳ないくらいですからね」
それに、どうせそんなことを考えても、今の僕の口は勝手に喋りだす。
「そう謙遜することはない。大事なのは量より質だ。今まで原石はいくつも見てきたが、『ざざっ』君の採掘品は高純度のものばかりだからね。玉も石を分けなくていいだけで仕事が減るってもんよ。」
「時間が増えるのはいいことですからね」
「ははっ。違いないな」
僕らはお互い口角を上げて笑いあった。
あれ?……僕こんなに思いっきり笑えたっけ?
一通り笑った後、目の前の男の黒い瞳をじっと見てみる。
映ったのは確かに僕だ。髪が今より長いこと以外は変わっていない。
「どうした?そんなじっと見て。何か顔に付いていたか?」
しまった。自発的にした行為だから普通に違和感は持たれてしまうのか。
やけに凝った作りの夢なもんだ。
「いや、やけに上機嫌だなぁって思って」
「お?やっぱり気づかれちまうか。流石に勘が鋭いね」
適当に言い訳してみたが、どうやら問題なかったようだ。
「実はな……」
何か聞き出せるのだろうか、耳を傾けた時。
「 ! !」
『あれ?』
後ろから の声が聞こえた。
の声はいつも通り、 のように元気で快活な声だ。
『待って』
「 ちゃん。元気にしてた?」
「 ! ? ?」
「ごめんね。もう少し残ってるかな」
は、 に を と、また 翡翠の眼で僕を 、
『彼女は、だレだ?』
「 、 ?」
「えぇ、約束ですよ」
『思い出せない』
「」
「」
『だメだ。まださメるな』
『おもいださないと』
『ゴメンナサイ?ナンデ?アあああオモイダサナイト思い出サナイト』
『ワラッテルミエナイケドワラッテルタノシソウ死ねばいいイッパいタノシイネ助けてこ せ』
「早く目を覚まして!」




