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苦手な方はご注意ください。

やがて坂になる

作者: 長尾 卓真

 僕は現在大学3年生で、周りが就職活動を始めている中のほほんと生きているところです。「やがて坂になる」この作品は僕が高校1年生の時に人生で初めて書いた作品です。KADOKAWAが主催する電撃大賞に出品して最大3次選考まで行った作品です。本大賞を知り、試しに一週間で書いた作品が一時を通過したという通知が届いた時、もしかすると小説を書くことこそが僕の正しい生き方なのかもしれないと思いました。それからというもの、長編小説に挑みますがなかなか最後まで書き終えることが出来ませんでした。

 そこで、この文章を読んでくれたあなたには是非本文を読んでいただき、厳しい批評をいただきたいです。そして「あなたには残念ながら才能はない、就職活動にいそしみなさい」と叱ってください(笑)。


 本小説の主人公 お鮭さん は地元でラジオDJをする自由奔放な青年で、彼の生き方は執筆当時も今も変わらず私にとって憧れの生き方です。今まで物語を書く上でたくさんのキャラクターを生み出してきましたが、私自身このお鮭さんはとっても大好きなキャラクターです。きっと読んだあなたもお鮭さんに会いたくなる。

 

それでは本編でお会いしましょう!

耳を澄ませばさわさわと波の音。この傾斜の急な坂を上がりきれば、坂の途中に立つ電信柱や左際の森林、自分より低い住宅街、そしてその先には、何艘もの船を浮かばせ、日光を反射してきらきらと光の粒子をちらつかせる海が見えてくる。その景色の中で海は、圧倒的存在感があった。まあ、それ以外の景色と言えば、電柱には犬のおしっこのシミが消えずに後になっている。

 そんな海に面した錆びれた町にある、この坂。

 (しゃけ)鮭坂(おさけざか)

少々噛みそうになる名前の坂だが、そんな名前の坂がある。

正式名所は龍洛坂(たつらくざか)、もちろん本名はそんな熊が喜びそうなへんてこな名前じゃない。

しかし、今となってはこの坂を鮭お鮭坂、何て呼ぶ者は少ない。

この坂には鮭お鮭坂の名前が付いた伝話があるのだ。

 その話は、祖母に聞いたことがある。

 それは18年前、幼馴染の今亡きDJと漁師の二人が起こした奇跡の話だ。


    *


 何処からか聞こえる子供のはしゃぎ声、船が行きかう港では、船舶が出港する汽笛の低い音が町に良く響いている、カモメの鳴き声、近所のマダムは今日も立ち話、これは聞いていられるものではない。窓ガラスに潮風がぶつかり、がたがた言う。そして、耳を澄ませばかすかに聞こえるさわさわと波の音。晴れ晴れしい空のもと、海面には光の粒子がちらついている。

 いろんな音が混じりあう賑やかな町なのだが、この町にはもっと賑やかなものがあった。

 それは、この町のラジオだ。

 この町の住人の大半はこのラジオを聴いている。

 がさがさの雑音をまとった男の声が聞こえる。

『さあ今日も始まるよー。海が見えるラジオ局から私お鮭がお送りするよー』

 いつも通りの陽気なお鮭さん。毎日、昼と夜の二回生放送をしている。

『今日はね、昨日飲み屋で仲よくなった女の子連れてきたから紹介するよ。風俗嬢の愛子ちゃんでーす』

『愛子でーす。宜しくでーす』

 女にしては、低めの声であった。

 お鮭さんは、毎度ゲストを連れてきてトークを始めるのだが、そのだいたいが女であった。

 そう、お鮭という男は女遊びの過ぎる人、という印象を持たれている人物であった。

 ゲストいじりは勿論、最近のニュースやお便りに突っ込んだり、ある時は人をディスったりする、面白いという評価の反面批判も多い。

 今日のお鮭さんは酷かった。放送時間まるまるゲストの愛子さんと下ネタのフリートークで盛り上がっていた。放送の末尾に『夜のゲストは準レギュラーのあの方です』とだけ言って閉めた。

 だが、こんなどうでもいいような話を楽しみに小中学生は家に帰って、真っ先にラジオ機器のアンテナを立て、つまみをひねっている。なのでその母親方からは、子供に毒だとよく苦情の電話が入るのだ。

 お鮭は、放送を終えて愛子さんともお別れをした後、ラジオ局の一階にあるビールの自動販売機で缶ビールを買って建物から出た。そこのすぐ隣の浜辺にやってきた。

 砂浜の隅に腰を下ろして、缶ビールのプルトップを手前にひねって開けた。ぐびぐび飲む。

「もうじき、春だなあ」

 と海を眺めながら、ぽつんと呟いた。

 缶ビールを飲み干すと手で頭を支え枕代わりにして、横になった。昼寝をし始めた。

目を覚ましたら夕暮れ時だった。立ち上がり、ダメージジーンズについた砂を払って、砂浜を後にした。

 お鮭は十数年間愛用してきたバイクで町の商店街に向かった。

 煉瓦壁になっている古びた立ち飲み屋の前にバイクを停めて、その店に来店した。

 店内は薄暗くて、ほこりっぽい。その店の店主は頭の二分の一は綺麗な肌色で二分の一が髪の毛なのだが、上から見ると世界一綺麗なU字型の頭が見える。その上メタボ体系。

「おっさん、いつものアレちょうだい」

「鮭ちゃんまた飲酒運転かい?」

「ここらでは警官も俺の達ばかりだ。俺を捕まえる奴なんざいねぇよ」

 店主は、呆れた苦笑いで、ドイツ産の黒ビールをカウンターの上に出した。

「昼のラジオ聴いたよ。三十過ぎてまだ真面に女も作らんと、遊びまわっとるのか?」

「俺はまだ遊び足りねんだよ」

「ったく、いい加減真面な仕事に就いたらどうなんだ。船丸を見習え」

「彼奴は親の漁を継いだだけだ。大したことはない」

 すると横後ろから声が聞こえた。

「大したことなくて悪かったな、(さけ)(すけ)

横を振り向くとそこには、海老(えび) (ふな)(まる)がいた。相変わらず地味な服装をしている。

二人は従兄弟なのだが、幼いころからの仲で兄弟みたいな関係だ。お鮭さんの名前を本名で呼んでいる唯一の人間かもしれない。

「おう、船丸。今お前が金持ちだし絶対女いるよ、て話をしてたところだ」

「嘘つけ、完全に俺侮辱してたよな。女はいねえよ」

お鮭は、ニヤつきながら細めで船丸を疑うような目で見た。

何故か、店の店主も船丸の表情をうかがい、何かを期待していた。

「何だよマスターまで」

鮭鮭とマスターの態度に、言葉で反論した。

「ぷあー、おっさんもう一杯」

 鮭鮭は飲み干したガラスのビールジョッキを、店主の前のカウンターに置いた。

「おい、そんなもたもたしてられないんだぞ」

船丸はそう言って、二千円札を一枚カウンターの上にだし鮭鮭の腕をつかみ引っ張るようにして、店の外へ出た。店を出る寸前マスターの「また来てな」という声が店内を淋しく泳いだ。

あたりはもう薄暗かった。

「なんだよ、もっとゆっくりしてこうぜ」

「ダメだ、お前が飲み屋に行くと何時間も出てこない。ラジオ放送に間に合わなくなるぞ。お前が遅刻ばっかだってディレクターも困ってたぞ」

「まあいいや。船丸、おれの後ろ乗ってけよ」

 鮭鮭は自分のバイクに跨って、親指で後ろを指しながらそう言った。

 船丸は呆れながら、鮭鮭の耳をつまみバイクから引きずりおろした。

「おい飲酒運転野郎、酒くさいぞ。今日は駄目だ、おれのマイカーに乗ってけ」

 鮭鮭は、何世代使いまわしたらここまでボロボロになるんだと突っ込みたくなるような軽トラの助手席に放り込まれ、ラジオ放送局に連れてかれた。

 向かう道中、沿岸沿いに出た。海にはイカをとる漁船の明かりが見えた。

 放送局に着いたら、入り口でディレクターが待っていた。

「急いでください。あと数分で始まりますよ」

 ディレクターが手招きをして、二人を急かす。

 二人は、急いで階段を駆け上がり、スタジオ入りした。

 ディレクターが隣の調整室から、ガラス越しに指でカウントダウンを始めた。

 5 4 3 2 スタート 指の折が遅れていた。

『さあ始まりましたよー、夜の回。海が見えるラジオ局から私お鮭がお送りするよー』

 今この地域の学生が聞きながら勉強しているラジオは、お鮭さんのラジオだ。

『今宵のゲストはこの男、早朝三時起床、顔は洗わず、歯磨きもせず、ぼさぼさ頭のまま港へいき沖へ出ることかれこれ十年。その男の名は、最早レギュラー 海老 船丸。べべん』

『やめいよそれ。顔も洗ってるし、歯も磨いてるわ』

 この二人にはボケとツッコミが確立している。

『どうも、準レギュラーの船丸です。宜しくお願いします。お鮭さん知ってますか?日本で最近地震がちょこちょこ起きているの。最近自然災害が多いので気をつけてくださいね』

実際この頃、日本全国各地で地震だけでなく、季節外れの洪水が起きていた。

『まあ、私は地震が起きても飛べるんで大丈夫ですけどね』

 頭で何も考えていない人間のような発言をした。

『黙れよ、飛んで天井に頭ぶつけて死ねよ』

なんてお鮭の茶番を船丸はうまく処理していた。

蟹江(かにえ)Dが選んだお鮭の町お便りー。このコーナーではリスナーさんから寄せられた、お便りを読んでツッコんだり、ふざけたりするコーナーです。では船丸君から読んでいきましょうか』

 船丸はスタジオのデスクに置いてあるプリントを一枚渡され読み始めた。

『ええ、ラジオネーム ウニに咲いたソメイヨシノさん、お鮭さんこんにちは。いつも聴いてます。私は前、この番組で紹介されていた龍洛坂の麓に住んでいるのですが、その坂の頂上にある小さい神社付近の森林にキツネの一家が住んでいます。最近ですがそのキツネが児を二頭出産していたことがわかりました。お鮭さん、是非この子たちに名前を付けてあげてください』

 お鮭と船丸は顔を見合わせた。

『船丸、これあれだね』

『うん、あれだね』

『僕らね、小さい時からの仲なんですけど、小学生低学年の時に僕らもまさにそこの森林に、探検に行ったことがあったんですけど』

お鮭が話している間、船丸がぽつり「志村けん」と相槌を打ちながらつぶやいた。

『その時に、児ずれのキツネを見つけたんですよ。でその子供が五頭いたんですよ。かわいいなあとか思いながら近づいて行ったら、親ギツネが、こっちに歯をむき出して威嚇してきたんですよ。でそれがいきなりだったので、子ギツネも、吃驚しちゃって五匹全員が転げ落ちていったんですよ。まあ、ついでに船丸君も一緒に落ちていたんですけど』

 このラジオを聴いている人々は、この話の脱線具合がいいのだろう。

『そうそう、それで、その画が、ザ・ドリフターズみたいだって言って、左から順に、いかりや長介、志村けん、加藤茶、高木ブー、仲本工事、て名前が付いたんだ。でも俺そんな転がってた?』

『お前が一番転がり落ちてっとったわ。だからお前一時期船丸じゃなくて、歌丸て呼ばれてたやん。そう、だから今回の親ギツネは、その五匹のどれかになるわけですよ』

『でもなんかいいね、受け継がれてる、て感じがあって』

『じゃあめでたいし、せっかくだし名前を付けさせてもらいましょうか』

『お、名付け親になるわけだな』

『歌丸師匠は、寿司ネタ何が好き?』

『そうですね私はサーモンが好きでしてね、でもしかしね、マグロのあか・・・』

『と言うことで、キツネの名前は、〝トロサーモン〟と〝炙りサーモン〟に決定でーす』

 船丸は、お鮭のフリに乗ってモノマネをしたが、お鮭に強制的に遮断された。

 ラジオ放送はまだまだ続いた。

 他にもいろいろなお便りを、処理していった。

 最近発売された電化製品、海外で見つかったUFO、海外の映画賞の話題が持ち上がった。

 ラジオも終盤に近づいてきた。

『お時間が近づいてきました。ここでイベント情報です。来週、隣町のHey浜地ホールにて、週刊海蛇マガジンが主催の海蛇フェスが、開催されます。是非足を運んでください』

 お鮭が閉めに入った。

『夜のお鮭ラジオ恒例、蟹江Dが選んだ閉めのニュースコーナー。このコーナーは、蟹江Dが好きそうなニュースを作って送ってもらうコーナーです。今回蟹江Dが、選んだニュースは、ラジオネーム テレビ大好きジャコさん、とある小学校にお絵かき大好き田中君がおりました。田中君は、絵を描くことが好きすぎるあまり学校の門が閉まっても、絵を描き続けていました。すると次の日、田中君は行方不明になってしまった。皆は血眼になって探しました。その後、田中君はすぐに発見された。田中君は、図工室に飾ってあった、絵の一部になってしまっていた。お鮭さん、どうして田中君は、絵の一部になってしまったのでしょうか』

お鮭は、人を笑わせるときに使うあほなしゃべり方で話す。

『どんな絵の一部になったんだろうね』

 船丸が、現実的に問う。

 蟹江Dがスタジオに入ってきて、机の上に、一枚紙を置いて出て行った。

 お鮭が其れをとって、見る。お鮭は、しゃくれながら笑い始めた。

 船丸は気になって、紙をお鮭から取り上げて、自分も見た。

 船丸も吹いた。

『これ皆さんにも見してあげたい。今田中君が絵の一部になっちゃった絵が来たので見たんですけど、それが、田中君が今にも泣きそうな顔でこっちを見ながら、モナリザに日傘を差してあげてるんですよ』

 お鮭は笑いながらスタジオの状況を説明している。

『これは笑うわ』

 船丸も笑いながら言った。

『田中君、可哀そうだわ』

『モナリザは、こんな嫌な奴だたんかい』

『田中君はなぜ、絵の一部に成ってしまったのでしょうか。真相はだれにもわかりません。はい、この辺で終わりまーす。郵便番号は、○○○‐☓☓☓☓です。それでは、歌丸師匠一言』

『そろそろお時間が来たようですね。それでではまた来週』

『それでは次回お会いしましょう』

 そして、ラジオの生放送が終わった。


 お鮭は、Hey浜地ホールに来ていた。

 前のラジオで話していた、海蛇フェスの司会進行を任されていたのだ。

 週刊海蛇マガジンとは、大人気漫画雑誌だ。

 会場内は、まだ準備中でお鮭は、楽屋にひっこんでいた。

 誰かが、楽屋のドアをノックした。

 楽屋挨拶だ。

「どうぞ」

 ドアが開いた。

「久しぶり海老君。いや、今はDJお鮭かな?」

 そこには、銀色の前髪を真ん中で分けた高身長の男が立っていた。

「ええと、高校の同級生?」

 この男に見覚えはない。

少し考えていたらその男がポケットから名刺を取り出して、手渡してきた。

 名刺には、田中 マンタと書いてあった。ますます誰だかわからない。

「無理もない。君とはたった二年の付き合いだったからね。小学五、六年生の時にクラスが一緒だったんだけど、小6の途中に転校しちゃってね、今は東京に住んでる」

 マンタは、少し残念そうな顔をしていた。

 お鮭はまだわからない。

「ちなみにこの前の田中君とモナリザの話は僕が送ったニュースだよ」

「そうだったんだ。じゃああの絵もそう?」

「僕だよ。名刺にも書いてある通り僕は、漫画家だからね」

お鮭は、名刺を見た。名前の下に、作品名が書いてあった。

その時お鮭は、はっとした。

「海中大陸。これって今大人気の漫画じゃないか。これをお前が?」

「そうだよ」

「じゃあお前俺のラジオ、出てくれよ。お前何時までここに居るんだよ」

 すると、マンタの表情がムッと変わった。

「一週間はここに居るよ。でも君のラジオには出たくないね」

「なんでだよ、みんな喜ぶぞ」

「いやだね」

お鮭は、なにで怒りのスイッチを押してしまったのか謎だった。

マンタは、そのまま怒って出てってしまった。

お鮭は、まったく何が何だかわからなかった。

海中大陸、とは、ざっくり言うと魚人たちが領土拡大を求めて、戦う話だ。今ようやく大西洋を出たところだ。

海蛇フェス一日目は、人の数がすごかったが、何もなく終わった。

お鮭は愛用バイクで、ラジオ局に向かった。

予定より早く着いたので、砂浜へ降りて時間をやり過ごすことにした。

船丸に電話をかけた。

「もしもし」

「えっ?」

「もしもし」

「だれ?」

向こうは波と風の音がすごかった。きっと今は、船の上だ。

「俺だけど」

「おう鮭鮭、どうした?」

「この前のラジオのことなんだけど」

「えっ?なんて?」

「だから」

「はいー?」

 全く話にならない。電話を切った。

そして夜のラジオの時間がやってきた。

今回は、ゲストにコロッケ屋のおばさんとおじさんを呼んでいた。

下ネタなどは今回あまり使えないので、お二人の出会いなど、お便りに対して、応援したり、おばさんが泣き出したりのラジオになった。

ラジオが終わったら船丸を居酒屋に呼んだ。

お鮭が居酒屋に着いた時には、もうすでに船丸はゲソ天に喰らいついていた。

お鮭はその前に座った。

「昼間の電話だろ」

「ああ、前のモナリザの絵なんだけどよ」

「田中君とモナリザ」

「あの絵を描いたのがどうやら小5、小6の同級生らしくてな、田中マンタてのなんだけど覚えてるか?」

それを聞いた船丸は口に含んだビールを噴出した。

「お前、エイ君知らないの?」

「エイ君?」

「あだ名だよ。絵を描くのが大好きなエイ君。将来漫画家になるって言ってたエイ君だよ」

「あっ、あいつか」

 お鮭は少し思い出した。その頃のエイ君の顔が浮かんできた。モナリザの田中君に似ている。

「でもそうか、エイ君漫画家になれたんだな。鮭鮭も目指してなかったか?」

「俺彼奴と何か約束した気がする。明日もう一回話してみるわ」

 そこからは、いつも通りの二人の会話に戻っていった。


 海蛇フェス二日目。最終日だ。

お鮭はエイ君を探した。自分の記憶からもエイ君を探した。

エイ君はお鮭にとって、ちゃんと話しておく必要のある人物だった。

だが会場内をそこら中探しても見当たらない。プロデューサーに聞くと今日はエイ君の出番は無いらしい。もっと早く思い出せばと後悔する。

昼のラジオで一度ラジオ局に戻るはずだったが、今日はやる気が出ないので蟹江Dに「歌流しといて」とだけ連絡をした。

フェスの司会進行にも力が入らない。

エイ君がフェス会場に戻ってくることを祈った。

だが結局エイ君は、現れずに海蛇フェスも終わってしまった。

お鮭はあまり疲れていないのに、脱力した気分になった。

フェスのギャラをもらって、夜のラジオ放送のためにラジオ局に向かおうとした。バイクにエンジンかけた。だがエンジンはかからない。何度やってもかからなかった。お鮭は困ったことになった。だがそれもそのはず、このバイクはお鮭が十代のころから愛用しているのだから。お鮭はこれは仕方なく、船丸に助けを求めた。

船丸は、一時間ほどできた。錆びれたボロボロの軽トラに乗ってきた。

バイクをトランクに乗せてラジオ局に戻った。

道のりはずっと海岸線を走っていた。

あたりは薄暗くなってきて、水平線が真っ赤に染まっていた。

 二人の乗る軽トラの車内では、ラジオが流れていた。いい年した男が、一人で喋っていた。

「お前、このDJに憧れてDJになったんだよな」

「ああ、凄いよなこの人、DJ電波シャーク。この人のボキャブラリーは異次元だ」

DJ電波シャークは、お鮭や船丸が子供のころからずっとDJをしている。今ではもう還暦まじかのおっさんだ。

数瞬間が置いてから、お鮭が再び口を開いた。

「俺も昔は漫画家を目指してた。授業中も先生の目を見計らってノートの片隅に描いてたくらいだ。俺はクラスの人気グループの奴らとつるんでたから、あまり気遣ってはやれなかったけど、俺はあいつを知ってた。彼奴は絵を描くのが好きだった。それから、あいつは俺と同じ夢を持っていた」

 お鮭は大事な記憶をすべて思い出していた。

「だけど俺、エイ君に謝らなきゃいけねんだ」

この意味を船丸は、何も言わずに悟った。

「あの時エイ君が怒ったのは、あの優しい、お人好しのエイ君だからこそだったんだ」

「うるさいぞ。ラジオが聞こえんだろ。でも、お前の言いたいことはわかる」

船丸の「うるさいぞ」は「お前らしくない」と言ってる様にも解釈できた。

それから二人は、何も話さなかった。

放送局に着いた。

入り口では、蟹江Dが自分の腕時計を指さして、急げとアピールしている。

お鮭はスタジオに入りスタンバイした。船丸も調整室から見ていた。

今回は、ゲストなしのお鮭ソロラジオだ。

蟹江Dが、調節室から指でカウントダウンを始めた。

5 4 3 2 スタート。指の折が遅れていた。

『さあ始まりましたよ、夜の回。海が見えるラジオ局から私お鮭がお送りするよ。みなさん今日は風が強くなかったですか?僕ね、昨日今日で隣町のHey浜地ホールのイベントに参加してたんですけど、入場待ちしてた女の子のスカートがめくれてパンツ見放題だったよね』

 いつもと違って、お鮭さん一人なので、喋り続けなきゃいけなかった。だが、出だしはいつも通りの陽気なお鮭さんだった。

 その後も、お便りを読んだり、お鮭の面白い話から妄想まで、何時も通り進んでいく。

順調に進んでいくラジオ。

だが、四つ目の飼い犬がトイレの場所を覚えないというお便りを、処理した後お鮭は何やら調整室にジェスチャーで合図を出した。手のひらを下に向けて、エアーでバスケットボールをドリブルするように、一定の位置から下げたり戻したりしていた。

後ろで流れているBGMを下げろということだ。

蟹江Dが、その通りに音を下げて頭の上でOKサインを出した。

『今日は私事ですが皆に聞いてほしい事があります。聞いてください』

 真面目な声のトーンになった。

『俺は小学生の時に漫画家になろうと思ってまして、時間があれば絵を描いていました。その夢を誰にも明かすことのできないままでいました。でもそんな時に同じ夢を追う人間に出会ったんです。その子はエイ君ていう子なんですけど、その子がまた絵が上手くてですね、賞などもいっぱい取っているような子だったんですよ。その子とは普段からいっしょにいる、てタイプじゃなくて、特別漫画の話をする時に話すぐらいだったんですよ。でもその子は俺のことを大事な友達だと思ってくれてたと思う』

 お鮭は小学校時代のエイ君との思い出を語り始めた。

『ある時ね、そのエイ君が、珍しく向こうから話しかけてきてくれたんですよ。エイ君が、カタカナで何かの名前らしきものを書いた一枚のA4の紙を見せてくれてこう言ったんですよ。「僕漫画家になったら海老君とこれ書きたい」て言ってくれたんですよ。その「これ」の内容までは覚えてないんですけど、俺と一緒に書きたいって言ってくれたことが本当に嬉しくて、俺その時に絶対漫画家になろうて決めたんですよ。でもその次の年にエイ君が転校しちゃうことが決まったんですよ。だからその時急いでエイ君のとこに向かったんですよ。その時にエイ君と約束したんです。「絶対漫画家になってまた会おう」て。それでね、昨日今日で隣町のフェスで司会進行をやってきたんだけど、その時に、10数年ぶりにそのエイ君と奇跡的に会ったんですよ』

 お鮭は小学生時代の話からフェスで出会った際の話に切り替えた。

『その時はもうエイ君ではなく、漫画家 田中マンタとしてでしたけどね。なのに約10年たった今の俺はどうですか。今エイ君は俺との約束を守って立派な漫画家になっています。それに比べて俺は、俺は何なんですか。約束を果たせなかったどころか、約束すら覚えてなかった。ましてはエイ君のことすらも忘れていた。どうですかこれ、俺最低でしょう?』

 お鮭の、話には熱があった。こうなってしまえば船丸も蟹江Dも止められない。

『久しぶりに会ってエイ君は俺のことを「海老君」て呼んでくれたのに対して俺なんて言ったと思います?「高校の同級生?」俺最低でしょ?俺をあんなにも大事に思ってくれてたのに』

 ラジオの終わりの時間が近づいてきた。しかしお鮭はお構いなくしゃべり続けた。

『彼奴は優しい奴だったんです。俺ガキの頃は悪さばっかりしてたんですよ。なのでよく廊下に水バケツをもって立たされてたんですよ。それを見てたエイ君が、一回内緒でバケツの底に穴を開けていた事があったんですよ。結局その穴は俺が開けたってことになって、さらに怒られたんですけど』

 調整室を見ると、蟹江Dが変顔をしていた。いや、変顔をしているわけではないが、時間が少しオーバーしそうな雰囲気になっていることに焦りが出ているのだ。

『そんな不器用で優しいエイ君との約束も果たせず、エイ君のことすらも忘れていた。エイ君、本当にすまなかった。ごめん。俺は今この通りDJだ。そしてエイ君はあの超人気漫画 海中大陸の漫画家。タイプは全然違うが人を楽しませる仕事をしていることには変わりはない。だからエイ君、約束通りにはいかなかったけど、これからも最高の漫画を作っていってください。これが海老鮭鮭からの最後のお願いです。みなさん御清聴ありがとうございました。今夜のお鮭ラジオは以上です。郵便番号は、○○○‐☓☓☓☓です。それでは次回お会いしましょう』         

ラジオは持ち時間ぴったりに終わった。

蟹江Dは、メガネの隙間からお鮭さん手拭いで涙を拭いて、号泣していた。それは、お鮭の言葉で泣いたのか、時間内に無事に終わったから泣いているのかは誰にもわからない。

スタジオのドアを開けて船丸が入ってきた。

「エイ君、聴いてるといいな」

「船丸、俺さあ・・・」

「ん?」

「つい力が入りすぎて、小便ちびっちまった」

 その後は船丸の軽トラで家まで送ってもらうことになった。バイクは、新しいのに変えろと言ってもお鮭は聞かないので、代わりに船丸が修理に出すことになった。

内陸方面に向かって走る。ルームミラーには夜の海が映っていた。

2人は、車の中で小学校の校歌を熱唱しながら家に向かった。途中どちらかが合いの手入れて盛り上がっていた。

お鮭の家は少し山になっている土地を超えた所にある。その途中には、お鮭や船丸そしてエイ君たちが通っていた小学校がある。隈之(くまの)()小学校だ。

隈之実小学校を横切る形になった。

グラウンドを通り過ぎようとした時、グラウンドの中に人影を発見した。

「おいおい、いまどき校内荒らしか?」

 お鮭はその人影を黙ってみていた。

「なんだ鮭鮭、知り合いか?」

「船丸、車停めろ」

 船丸は指示通り、学校のグラウンドとフェンスを頻りにつながっている土の空き地に車を止めた。

 お鮭は急いで車を降りたら、フェンスをよじのぼり乗り越え人影の方に近づいて行った。

「やっぱりお前か、エイ君」

グラウンドの人影の正体はエイ君だった。

「せっかくこの町に来たからちょっと寄って行こうと思ってね」

 小学校のことだ。

 エイ君はお鮭の方を向かずにそう言った。

「僕のこと思い出してくれたんだね」

「ラジオ聴いてくれたんだな」

「僕、君が毎日毎日僕に話しかけに来てくれて本当に嬉しかった。漫画家の約束ももちろん覚えてる。君のことはずっと忘れなかった。だから君がラジオのパーソナリティーになったこともすぐに知った。小学校のときの約束なんてそんなもんだろうて、その時はそう思えた」

 春だとはいえ夜はまだ寒い。エイ君の口元から白い息が風に流されて消えていった。

「でもいざ、君の楽屋のドアを前にしたら緊張しちゃて、向こうはどんな反応をしてくれるのだろうかって怖くなっちゃって、約束を果たせなかったことで、会ったら気まずくなっちゃわないか心配で、でも海老君なら大丈夫だって思って覚悟を決めてドアを開けたんだ」

 エイ君の声が掠れてきた。

「そしたら、君は約束のこと以前に僕のことすらも忘れていた。あの瞬間僕はショックで今すぐにでも君をぶん殴って遣りたかった」

「ごめん」

 お鮭は、ごめん以外の言葉が思いつかなかった。

「いやでも良いんだ。君のラジオを聴いてわかった。君はラジオが好きでやっている。君はきっと何があってもラジオのパーソナリティーになっていただろうと思う。ならそれでいいじゃないかって思うようになったんだ。僕もよく考えてみれば、漫画が大好きで、漫画を描くのが好きだから書いていた。きっと僕も君がいなくても漫画家になっていたと思う」

エイ君はようやくお鮭の方を振り向き、大きく両腕を広げた。

「でもこれだけは確かだ。僕は君と出会っていなければここまで売れる漫画は描けなかったと思う。なんて言ったて海中大陸の主人公はエビモデルの魚人と鮭モデルの魚人なんだから」

 そう言って、エイ君は笑った。

「エイ君」

そう言いながらお鮭はエイ君に抱き着いた。

車にもたれながらそれを見ていた船丸。

「マンタ君漫画家になったんだね」

 何者かが声をかけてきた。船丸は急に誰かに話しかけられて即座に声のした方を振り向いた。

「よ」

 そこには、覘くように腰を曲げて左デコに手の裏を付けて敬礼ポーズをしている、小中の幼馴染、美波(みなみ) (あゆ)がいた。美波は、学年の隠れマドンナ的存在であった。

「美波、なんでここに」

 それを聞いたが、美波が答える前にわかった。美波は肩から黄色い紐をかけていた。紐にはネームカードが付いていた。

「私今ここで先生やってるから」

なるほどと思った。それよりも船丸は美波に対して気になったことがあった。

「美波お前、左手の薬指がさみしそうだな」 

 美波の薬指には結婚指輪が付いていなかった。この歳にもなるともう同級生の大半は結婚して子供も作っている。ちなみに、お鮭と船丸もまだ独身だ。

「あ、ちょっと船丸それセクハラだよ」

 美波は口を膨らませながら、左手を右手で覆うようにして隠した。 

その動作で、美波の巨乳が揺れた。船丸はとっさに美波から目をそらした。

恐る恐る視線を戻していくと、しっかり船丸を睨んでいた。

「べ、別にみてねえよ。別に」

「まだ何も言ってないじゃん」

 船丸はつい要らないことを口走しってしまった。

「それよりグラウンドのあの二人そろそろ帰らせてくれない。目の前で学校内に侵入されてたら私も帰れない」

グラウンドを指さしてそう言った。

船丸は、フェンスによじ登りフェンスを越えお鮭とエイ君の方に駆け寄った。


 その後お鮭と船丸はエイ君を連れて行き付けの居酒屋へ行って夜の三時まで飲みつくした。

「エイ君、俺のイメージキャラクターも出してくれよ」

「わかった。のちに出すよ」

「エイ君、船丸なんて仮面ライダーで言うショッカーみたいなキャラで十分だからな」

「なんでだよ」

 エイ君はお鮭と船丸のやり取りを見て笑っていた。

 それからエイ君がこの町に滞在している間は、毎日ラジオに出てもらった。絵を描くコツだったり、漫画出版までの道のりだったりを語った。それ以外にも海に遊びに行ったりとか釣りをしたりした。

 エイ君は、小学時代に育った町を満喫して東京に帰って行った。

 暑い季節になってきた。

お鮭にはいつも通りの毎日が戻ってきた。

ラジオ放送にもいろんなゲストが来ていた。今年で退職の中学校の校長先生やこの町の駅が終点になっている線路の車掌さんに来てもらったり、その駅前で歌の路上ライブをしていた青年まで、幅多くの人がゲストに来た。

お鮭のラジオに呼ばれるゲストには、ある法則があった。

月の始まりはいろんなゲストが来るのだが月末にかけて、どんどんゲストの職業柄が、一つに絞られていくのだ。そしてよくかぶる。たいてい、月末になるとお鮭の財布の中もスカスカになってくるので、商店街の八百屋やお肉屋のおじさんおばさんを招いて、食べ物を少し分けてもらっている。たまにそんな生活を送っているお鮭を叱ってくれる、おばちゃんもいるが、お鮭の生活純度は悪化する一方だった。

船丸と飲みに行く時もほとんど船丸のおごりだった。

「お前このままDJ続けてくつもりか」

「あたりまえだ。この何もない町には俺のラジオが必要だ。きっとこのラジオがこの町からなくなったら、この町の住人達は暇死するだろうな」

「死ぬまでやる気か」

「そのつもりだぜ、俺は」

船丸は、ここまでラジオを愛している人間をこれ以上否定することはできなかった。

「そう言えばお前が最近連絡取ってる女あれ誰だよ」

 お鮭が口にご飯を含みながら聞いた。

「ああ、あれ美波だよ、美波 鮎」

 船丸はこの前会って以来連絡を取り合うようになっていた。

「あの巨乳ちゃんか」

「お前のラジオも聴けるときは毎日聴いてるらしいぞ」

「そりゃそうだろうな、中学二年の時にあいつ俺に告ってきたんだからな」

 船丸は驚いた顔をしていた。

「え、そうだったの」

「お前知らんかったっけ?まあ、アピールがくどくて俺は引いてたんだけどな」

「そうだったのか」

 船丸はなぜか落ち込んでしまった。

「でもあれは意外だったね。俺はてっきり船丸のことが好きだと思ってたんだけどな」

船丸はお鮭がそう思っていたことが逆に意外だった。

お鮭、船丸、美波は小中の同級生だった。高校は美波だけは賢かったので偏差値の高い場所に行った。お鮭と船丸はバカだったので一般高校に行った。

「俺のラジオあいつ出んかな」

「聞いてみよか」

「頼む」

 船丸は携帯を取り出して美波にメールを打った。その場では返答が返ってこなかった。


ある日、一日ラジオが休みだった時お鮭はパチンコに行っていた。

右手でハンドルをひねりながら、右手で灰皿にカスを落としていた。

だが顔の表情は一向に変わらない。

お鮭は一つため息をついて姿勢を倒した。

右側のパチンコ台を覗いてみた。かなり勝っている様子だ。

パチンコの打ち手はさぞかし嬉しい顔をしているのだろうと、横を見た。女だった。しかし、顔は全く笑っていない。涙をぽろぽろ流していた。もっと見ると、見覚えのある顔だった。

お鮭は驚いた。その女は紛れもなく美波だった。

「え、おい、美波」

横に座っていた美波はお鮭の声に振り向き涙をぬぐった。

「鮭君、こんな不細工な子見ないでよ」

 美波は両手で目をこすりながらそう言った。声が掠れていた。

 二人はパチンコ店を出て町をぶらついた。

 お鮭がズボンのポケットに手を突っ込んで少し前を歩き、その後ろから距離をとって美波が後ろで手を組み黙って下を向いて付いていく。

「お前公務員だろ。あんなパチンコ台に金つぎ込んでたらまずいんじゃないのか」

「うん。」

 美波は自ら何かを話そうとはしなかった。

 少し歩いていくと商店街に入っていった。この商店街を抜けると海沿いの道に出る。

 商店街を歩いていくと、八百屋のおっちゃんや魚屋のおじちゃん、コロッケ屋のおじさんおばさん、酒屋の兄ちゃん、和菓子店のおばあちゃんたちが、お鮭をみつけると「お鮭ちゃんよってき」「いつも連れてるタイプの姉ちゃんじゃねえなあ」と皆そういって笑顔を見せている。それに対してお鮭も笑顔で、「おっちゃんまた顔だすよ」と言って明るく振舞っていた。商店街のみんなは、お鮭にも他のお客さんにもみんなに温かい。

 商店街を抜けて海沿いの道に出た。

「砂浜降りるぞ」

 とお鮭が言うが、美波は何も言わずについてきた。

 お鮭は左右を確認して道路を横断した。

 砂浜に降りて水辺を歩いた。

「なあ、いい加減なんか話したらどうなんだ」

美波はずっと黙り込んでいた。何かを言いたげそうにはしている。その証拠にさっきから、左手の薬指を右手で気にしていた。でも言わない。

お鮭はだんだんイライラして後頭部を掻きむしった。

「なあ」

 美波はびくっとした。

「私このままどうなっちゃうんだろうな、て思っちゃって」

 美波がようやく話し始めた。「私は一人でも大丈夫、一人でも生きて行けるんだって思ってた。でも、去年の年末に高校の同窓会に出たんだけどね、つい一昨年まで一緒にお酒飲んで、ワイらは一生独身なのだ、なんてふざけて言ってた友達もその次の年には皆パートナーがいて、二次会でカラオケに行く時も結婚してる子たちは、子供がいるからさきかえるわ、とか言って先に帰っていくの。私は羨ましかった。何か私だけ置いてきぼりにされているみたいで、最近一人で悲しくなってる。だからあの時、船丸君に結婚指輪がないことを指摘されたときはドキってした。その気持ちを紛らわらせようと、パチンコに手を出したの」

 美波は今、自分の結婚したいを、受け入れてしまっていいものか、そうではないのかわからないでいるのだ。アマミホシゾラフグで言うと、オスが求愛行動で海底にミステリーサークルを描く。それを見て、メスはオスのもとへ寄ってくる。ただそれを見て羨ましく思うだけでそれ以降何も起ころうとしないのが、美波である。

「俺には全く結婚願望が無いからお前の気持ちはわからんが、結婚してえなら結婚しちまえばいいじゃねえか」

「結婚に興味のない鮭君にわかるはずがないよ。いざ結婚相手を探そうとしたら実際そう簡単にいい相手はいなくて、こんなことも気にしてなかった頃は自然と男が寄ってきてたのに、だんだん歳を重ねていくごとにそれも減って行ってて、気づいた時には私は、道を歩くただの通行人になってて、きっと私はもう手遅れなんだよ」

 すると次の瞬間、お鮭が、美波の身体を持ち上げ、海の方へ、強引に突き飛ばした。

 美波は海に水しぶきを上げて落ちた。

 浅瀬でしりもちをついて、肘で身体を支えている形になった。

 ずぶ濡れになっていた。

「なにすんのよ」

 美波は叫んだが、その声は全く響いていなかった。

「お前さあ、さっきから「私」のことしか言ってねえぞ」

美波は今までの話の中で「私」のことしか言っていなかった。

「お前が結婚できないのは、いつまでも「私」で周りに気づけてないからだ」

 美波はそれが内心、図星で言い返す正当な言葉を思いつかなかった。

「でも、もう私を気にかけてくれる人なんていない」

「いるだろ、自分でもわかってんだろ。お前を一番に思ってくれてる奴がいるだろ」

 船丸のことだ。お鮭は知っていた。船丸が美波の心情を心配してちょくちょく連絡をしていたことを。一緒に食事をとっているときも、たまに携帯をいじっていた。

「船丸はお前のことずっと気にしてくれてたぞ。彼奴は今沖へ出て潮風に打たれて、波に流されながらも、お前のことも思いながら頑張ってると思うぜ」

 今度こそ何も言い返せずに、美波はうつむいた。

「もうお前もわかってるんだろ。船丸の何が不満なんだよ」

「違うの」

 美波はお鮭の方を向いていった。

「違うの。私船丸が同じ屋根の下に居ることを想像すると怖くなるの。私が悲しんでる時もそばにいてくれて、クラスで私が自己中心的行動をとってクラスのみんなから無視されてた時期も船丸だけは絶対に話してくれた」

 お鮭は黙って聞いていた。

「でも、その関係が友達以外の何かに変わってしまったら、もうこの関係が崩れるんじゃないかって思うと怖くて、微妙に避けるようにしてた」

お鮭はふと気づいた。

「それが俺に告って来た理由か」

 美波は軽くうなずいた。

 美波が中学生時代にお鮭に告白したのは、好意的にではなく船丸との今の関係を保ちたいがためにお鮭を好きになろうとしていた。今思えば、美波がお鮭にあからさまにアピールしていた時はだいたい近くには、船丸が居た。

「大丈夫だと思うぞ。彼奴は人の期待を絶対に裏切らない。俺の相棒だ間違いない」

 美波は顔にかかった髪を手でどかしながら立ち上がった。

「そうかな」

 昼下がりの、地平線に向かって落ちていく太陽を見ながら美波はそう言った。

 お鮭を見直すとお鮭は真顔で美波を見ていた。美波はお鮭も真剣に自分のことを考えていてくれていたと思って嬉しくなった。その瞬間だけは。

「そんなに見ないでよ、恥ずかしいでしょ」

 と言い始めると同時に、美波に怒りの感情が湧き上がってきた。

 美波はお鮭のサンダルを履いた足を力強く踏み、お鮭の「痛っ」の声に続いて今度は、勢いよくお鮭の身体を押して突き飛ばした。

 お鮭は水しぶきを上げて落ちた。

「鮭君のバカ、また私の胸ばっか見て」

 美波は手を胸の上で罰点を作るようにして、海水で透けた胸を隠して言った。

 そのまま美波は、大股で怒ったように前だけを見て海沿いの道に上がるコンクリートの階段の方に歩いていく。

 お鮭は水の中で、あぐらをかいて美波の方に一つ叫んだ。

「足は踏まなくてよかっただろ」

「あれは落とす時にどさくさに紛れて触った分」

 一瞬後ろを向いてそう言い返すと、また前を向いて歩いた。

「でもありがと」

 怒った勢いのまま、最後にそう言って見えなくなった。

 最後のその声は、最初の悲しそうな掠れた声ではなく、すっきりとした美波らしい声だった。

 きっとその時の美波の顔は笑顔だっただろう。

 お鮭はあぐらをかいたまま浜辺の砂を握りながら、ぼんやり町を見眺めていた。

「ほんとにこの町の奴らは退屈しないぜ」

 そう呟いて、握っていた砂を手の甲にかけた。その絵図らは、背景のうみがキラキラしていて、さわさわと音を立てていたがそれ以外は、たまに海沿いを通る車が通り過ぎる音が聞こえるだけで、他に何もなかった。とても静かにささやかであった。

「うあああああああああああああああ」

 手を頭上で四方八方に振り回して叫んだ。手の甲に乗った砂が宙を舞う。

 お鮭はそのまま砂浜に背を付けて真上の空を見た。空は真っ青だった。

「さあ、俺もどうなるかな」


『はいはい、みんな静かに静かに、ちゃんと体拭いてから入ってくるんだよ』

 今日のお昼のお鮭ラジオは何やら賑やかだった。

 夏はもうとっくに終わっているのに、まだ太陽はギンギンに照っていて、ラジオスタジオの隣のビーチには多数の遊泳客が遊びに来ていた。

 夏になると、昼のお鮭ラジオには、その日の遊泳客がゲストに登場するのが恒例なのだ。

 お鮭の遊び相手に女が多いのはこういった場で連絡先を交換しているからということもある。

 今回は多数の友達と遊びに来ていた青年たちを招いていた。

 ゲストたちには、どこから来たか、どこ大学か、今日はどんな友達と来たのかなどを聴けるだけ聞いていった。

 夜のゲストには、この夏ゲットした連絡先の女の子を呼んでいた。

 また、下ネタトークが始まった。

 今日のラジオを終えた後、蟹江Dから大事な話があると聞かされていて、夜のラジオを終えて蟹江Dとお鮭は二人で見渡す限り夜の海が広がるベランダに出た。

 この海には現実感がなかった。まるでそこだけ宇宙だった。海の音だけが現実の海岸に打ち上げ戻してくれる。

 お鮭は手すりにもたれて、たばこを取り出した。

「吸うか?」

「遠慮しておきます」

 お鮭もどんな話かはだいたいわかっていた。

「お鮭さん、大事な話です聴いてください」

 クリップファイルを抱くように持ちながら、いつにも珍しく蟹江Dが凛々しい表情でいた。

「わかってるよ、早く言っちまえよ」

「わかりました。」

 そう言って、蟹江Dは一つ息をのんで口を開いた。

「このラジオ番組は、来月いっぱいで打ち切りになります」

 何となくわかっていても、やはりこの通告はお鮭にとって相当きつかった。

 お鮭はもう笑うことしかできなかった。その笑顔は残酷なぐらいに引きつっていた。

「そうか、もう会社がダメってか」

「それもありますが、すいません、僕のせいなんです。僕の方に限界が来てしまいました。このままでは家族を養えない状況になってしまい・・・」

 蟹江Dはお鮭の二個下で、子供が二人いる大黒柱だ。奥さんは大学で知り合った子らしく、気弱な蟹江Dには対象的な気の強いシェフだ。どちらが、大黒柱かもわからないくらいだ。

「本当にすいません」

蟹江Dは深く頭を下げた。

「ディレクター、顔をあげてくれよ」

 お鮭がそう言うと、蟹江Dは姿勢をそのままに顔だけお鮭に向けた。

「ディレクターにそんなこと言わすなんて俺は情けないな。ディレクターが稼げるか稼げないかは俺次第だもんな、ごめん」

 お鮭は蟹江Dの置かされている状況を見て、番組が終わることに対して清々しい気持ちになってきた。自分の努力不足ならしょうがない、お鮭はそう思った。

「でもありがとな、こんなやりたい放題の俺なんかに今まで付いてきてくれて、お前のおかげで楽しくラジオができたよ。俺が遅刻してきたときはいつもいつも、外で待っててくれて、雨の日も、風の日も、本当に何時もありがとな。それにお前の奥さんは、俺の遊び相手のどんな女よりも美人だ」

 事実、奥さんは超が付くほどの度不細工だ。

 この時点で蟹江Dは、鼻を赤くし、法令線のしわを何重にもして泣いていた。蟹江Dもまだこの仕事を続けたかった、お鮭と仕事をしたかったのだ。

「まあ、取り敢えず来月までは一緒だろ?それまで一緒に頑張ろう」

「はい・いい」

 泣きすぎで言葉にビブラートが付いていた。

 そうして、お鮭は蟹江Dの肩をポンとたたいて中に引っ込んでいった。

 蟹江Dはまだ泣いていた。お鮭が帰ってからも、膝をついて泣いていた。

 蟹江Dはお鮭の番組が始まった当初からお鮭とずっと一緒にやってきた仲だ。

 お鮭と蟹江Dが出会った日、お鮭が蟹江Dに初めて話した第一声はこうだ。

「君真面目子だな」

 会って数分でその言葉が飛んできた。たしかにその時の蟹江Dの身なり服装はいかにも真面目だった。黒淵メガネにビジネスオールバック、カッターシャツの上に黄土色のベストに赤いネクタイ。体も小柄で肌も白い。まさに文系選抜コースといった容姿だった。

 プライベートで会うことはなかったが、二人には暗黙の信頼関係があった。


 お鮭と船丸は立ち飲み屋に来ていた。時刻は朝の八時だった。他に客はいない。

「マスター、もうちょっとここ明るくしたらどうなんだ」

「俺の店はうまい酒を提供するそれだけだ」

「おっさんも変わらないね」

 そんな話をしながら、お鮭と船丸はジョッキに入ったビールを飲んだ。

「ラジオ来月いっぱいなんだってな」

マスターが洗い終わったジョッキを拭きながら言った。

船丸もお鮭の方を見ていた。

「お前はよく頑張ったよホントに、鮭ちゃん」

 と言った後、マスターはうんうんと一人でうなずいて奥に引っ込んでいった。

「お前それで本当によかったのか」

 船丸はマスターが引っ込むのを見計らって言った。

「そんなわけないだろ、もう酒で自分を保つので精いっぱいだ」

 お鮭は目の前の酒が並んだ棚から視線をずらさずに言った。

「でも、ラジオは俺だけで作ってるものじゃない、こればっかりはしょうがない」

「ラジオが終わった後はお前行くあてあるのか」

 船丸の質問に、お鮭はなんの返答を返さず黙っていた。

 二人は少し気まずくなってしまった。

 それもそのはず、ラジオのDJという仕事が終了した後のことなんて、お鮭は一番考えたくない。行くあてなんてない。

 少しの間、二人は沈黙の時間が空いた。その末、船丸が口を開いた。

「美波の件ありがとうな、あいつ最近俺の目を見て話すようになってくれた」

 お鮭は船丸の方を振り向いた。

 船丸は自分のくせ毛をいじりながら話を続けた。

「今日の夜美波を食事に誘ったんだ」

 と言って、カウンターに紺色の一握りぐらいの箱を出した。

「今日、美波にプロポーズするよ」

 箱の正体はリングケースだった。

「そうか、頑張れよ」

 それは良いことだと心から思ったが、お鮭の心情は複雑だった。

 お鮭はリングケースを開いて素手で指輪をつまんで眺め始めた。

「おいおいおいおい、お前何してんだよ」

 当然のように突っ込まれた。船丸は指輪とケースを取り上げてポケットにしまった。

 船丸のツッコミにお鮭は薄く笑っていた。

「じゃあ、俺そろそろ行くわ」

 船丸は二千円札を二枚カウンターに置いて店から出て行った。

お鮭はもう船丸に会えるのはこれで最後な気がして、泣けてきた。

 昼のお鮭ラジオの時間だ。

 今日、船丸は美波にプロポーズをする。

 お鮭はどうしても流したい曲があった。

 その曲は洋楽で、彼女との結婚を認めてほしいと彼女の親に何度も説得しに行くが何度も追い返されるという曲だ。レゲエのリラックスしたサウンドが実にいいのだ。歌詞はあまり二人にマッチしていないが、リズム感が二人の関係図を催す。

 今頃船丸は沖へ出て漁をしているのだろう。

 今までは、山ほどいる漁師の中の一人としてみていたが、今は確実に違った。これから家を支えていく、家族を持つ、誰かの旦那になる、お鮭の友達で、漁職人だった。

 美波は今、右手にチョークを持って30数人の子供の前に出て勉強を教えているのだろう。

 つい数か月前に結婚願望に苦しんでいた女が、自分の友達にプロポーズをされて、これから友達の妻になる。そんなはちゃめちゃな事が現実になっていく。

 お鮭はそんなことを考えながら、その曲を流した。

 お鮭は二人が幸せになることを願った。

 夜、船丸と美波は月光が照らす海の防波堤の上に来ていた。


 それから、日は流れラジオ放送終了まで残り二週間を切っていた。

 それまでに何人ものゲストを呼んできた。

 このラジオ番組が終了することに涙を流してくれたゲストさんもいた。

 船丸とお鮭はあれ以来会う機会がなかった。プロポーズの結果もまだ聞いていない。

 

 ある日、お昼のラジオ前に蟹江Dと一緒に最高ランクのお肉を食べに行っていた。

「ディレクター、今日は遠慮なく食えよ」

「はい」

 蟹江Dは喜んで返事をした。

 自分もお金がないのに、もうじきお別れになる蟹江Dに肉をごちそうしてやった。

肉が、ジュワーという音を立てて、やってきた。蟹江Dは「おー」と言いながらお肉を眺めていた。

お肉をおいしく食べていた。

蟹江Dの方に置いてあった伝票さしが、勝手に転がり落ちた。

蟹江Dはなぜ落ちたのか不思議で、落ちた伝票さしを拾わず眺めていた。

「なにぼけっとしてんだよ、早く拾えよ」

「不思議です、僕あたってないのに」

「肘かどっかが当たったんだよ。多分」

 確かに蟹江Dは伝票さしには触れていなかった。そんなことお鮭もわかっていた。だからと言ってこれを怪奇現象と言ってしまうのは、ガキ過ぎて嫌だった。

 蟹江Dが伝票さしを手を伸ばして拾おうとした瞬間だった。


ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ!


 建物が今までに味わったこともないくらい揺れた。大きな音を立てて揺れた。

 地震だ。

 店の台所の方から、いろんなものが落ちている音が聞こえる。

「机の下に潜れ」

 お鮭が店内で大声を出して、人に怒鳴るように叫んだ。

 蟹江Dのビビりは、机の下にもぐり頭を抱えて身を守っていた。

「終わりだ終わりだ終わりだ」

 蟹江Dはメガティブナ言葉を反復していた。

 他の来店客も、机の下に隠れて「きゃー」と悲鳴を上げたり、「嘘でしょ、嘘でしょ」とこの大きな地震が今起きていることをまだ、呑み込めていない人もいた。

 地震は一瞬止まったかに思えた。

 蟹江Dの方を見ると、蟹江Dはまだ蹲ってぶつぶつ言っていた。

「おい、しっかりしろディレクター」

 お鮭は蟹江Dの身体を揺すぶり、正気に戻そうとする。

「お前には家族がいるんだろ」

 蟹江Dは大べそをかいてお鮭の方を向いた。

 他にも泣いている人がいた。

 調理場から料理人の男が走って出てきた。頭を布で押さえていた。布には血が滲んでいた。

「お客様、お怪我はごさいませんか」

 来店客にけがの心配を呼びかけた。


ドカン、ガタガタゴトゴトガタガタゴトゴトガタガタゴトゴト!


 もう一つ大きな地震が来た。さっきのよりもでかい。

 立っていた料理人はグラッとふらついた。耐震形住宅のCMを見ているようだった。料理人は瞬時に体勢を低くした。

 店内では客の悲鳴と、物と物のぶつかり合う音がさらに恐怖を与えていた。

 蟹江Dも女のように悲鳴を上げてうずくまっていた。

「もう無理だ、死ぬ、死ぬ」

「おい落ち着け、こんなんじゃ死なない」

 お鮭も必死に机の脚を支えていた。

 そしてようやくいったん地震おさまった。かなり長い地震だった。

 だが、この町は海に面している。津波の心配があった。

「みなさん落ち着いて下さい。私の指示に従って行動して下さい」

 料理人が冷静に、恐怖で混乱しているお客をまとめていた。

「もう大丈夫だディレクター落ち着け」

 蟹江Dの身体は震えていた。蟹江Dは恐怖の最上級に居た。

「本当に大丈夫ですか」

「ああ本当さあ、顔あげてごらん」

 蟹江Dは震えながらそっと泣き顔を上げた。

 その顔をお鮭は両手で、ペチンとサンドウィッチをした。

「ほら、大丈夫」

 強い言い方で、蟹江Dの恐怖心を圧倒する。

「よしいくぞ」

 そう言ってお鮭は建物から飛び出していった。それを追うようにして、蟹江Dが建物から出て行った。

 外は外でひどかった。瓦礫が落ちていたり、ブロック塀があちこちで崩れていて、ある処では家が潰れていたりする。建物が道の方まで倒れてきて、進行の妨げになることもあった。それを飛び越えてお鮭は走る。後ろから蟹江Dが追う。

「行くってどこに行くんですか」

 蟹江Dは体力がない。この時点でへとへとだった。

「決まってんだろ、放送局だよ。もうすぐ昼のラジオの時間だ」

「え?何言ってるんですか、そんなの・・・いえ、わかりました」

蟹江Dはお鮭の真剣な顔を見て、お鮭の思考に賛同した。

『津波の恐れがあります。高いところに避難してください』

町内放送では大きなサイレンを鳴らして、住人に避難を呼びかけていた。

ラジオ放送局に着いた。ラジオ局の中も荒れていた。

お鮭はスタジオに入って、マイクとヘッドホンの電源をONにした。

蟹江Dも調整室に入って、マイクとヘッドホンの電源をONにした。

「お鮭さん、今の揺れは相当です。津波は来ます、時間はありません」

 蟹江Dの言葉が調整室のマイクからお鮭のヘッドホンに届く。

「タイムリミットは、3分です。それ以降は無理です」

「わかった。なんとかする」

 お鮭は自分の街を救おうとしていた。

 この町は大分古びた町だ。年寄りも昔からずいぶん増えた。この町の避難所は高台にある、隈之実小学校ただ一つだった。足の悪い老人や学校がかなり離れている人は、とてもではないが津波からの避難は間に合わない。その事をお鮭は立飲み屋のマスターに聞いて知っていた。その確実に逃げ切れない人を救いたかった。お鮭は何とかしようとした。

「ディレクター、準備は良いぜ」

「ではいきます」

今度は、マイクを通して自声でカウントダウンをした。指のカウントダウンはずれていた。

「5 4 3 2 1 スタート」蟹江Dはラジオの電波を流すスイッチをONにした。

 皆が混乱している中ラジオ放送が始まった。

『今このラジオを聴いている皆さん。先ずは落ち着いてください。皆の気持ちはわかります。でも皆が混乱しているとき一番大事なことは落ち着くことです。今は恐怖でいっぱいかもしれません。ですが、恐怖はこれからです。もうあと数分で誰にも計り知れないことが起きます。行動をしなければ災厄な結果を生むかもしれない。だから、まずは皆さん落ち着いて』

 今起きている現実に対応しきれていない人たちに、宥める様に言った。

 このラジオを、何処で誰が何人聴いているかはわからない。

 お鮭は考えた。小学校まで、たどり着けない人たちがどうすれば生き残れるかを。

 この町の高いところ、この町の人が避難できる高いところ、自分の頭の中を隅々まで探した。

 お鮭は幼いころを思い出した。

 夕暮れ時、お鮭と船丸そして美波の三人で、町や海を一望できる場所に来ていた。

『皆さん、落ち着いて聞いてください。南西方面には急な坂があります。その坂はこの町のどの場所よりも高い、そこに駆け上がれば必ずその坂は皆さんを救ってくれます』

 まさにその坂が、龍洛坂、鮭お鮭坂だった。その坂はありえないほど急で長い。龍洛坂は、ちょっとした子供の遊び場になっていた。お鮭もそこで遊んでいた子供の一人だった。この急な坂を走って転ぶことはしょっちゅうだった。そんな子供のころの遊び相手をしてくれたこの坂なら、町の人々を生に導いてくれると思った。

『あとは皆さんの、根性です。みんな、無事を祈ってる』

 熱の入ったラジオ放送になった。

 しかし、お鮭は茫然状態で椅子に座ったまま動かなかった。

 蟹江Dが「よかったと思います」といってドアを開けようとした。が、ドアノブが上にも下にも捻らなかった。中から何かで固定されている。蟹江Dがドアを叩いてお鮭の方に何か言っているがお鮭は茫然としていた。蟹江Dは調整室に戻りマイクでお鮭に呼びかけた。

「お鮭さん?お鮭さん、何やってるんですか、時間がありません、逃げましょう」

 スタジオで茫然と座っているお鮭を見ながら言った。

「お鮭さん反応してください、僕たちもその坂に行きましょう。今なら間に合う」

反応はない。

「お鮭さん」

 蟹江Dがまた泣き始めた。

「ディレクター、先に逃げてくれ」

 やっとお鮭が口を開いた。蟹江Dは駄々を捏ねるようにマイクに言葉を吹き込んでいた。

「俺な、まだやり残したことがあるんだ。それをしなきゃ俺はここから出られない。でもな、そこにお前がいちゃダメなんだ。これは俺一人でしかできないことなんだ。だから頼む、先に逃げてくれ」

 蟹江Dは説得をあきらめた。

「わかりました、どうせお鮭さんは僕の言うことなんて、ちっとも聞かないんだからこんなに言ってもしょうがありません」

「わかってくれるな、すまん」

「でも僕にだって、帰りを待つ権利がある。約束してください、絶対に生きていて下さい」

 お鮭は少し考えて、間を置いてから「わかった」と返事した。

 蟹江Dは涙ぐみながら、調整室から出て建物を後にした。

 泣きながら蟹江Dは坂へ走る。蟹江Dの言葉に返事をしたお鮭は椅子に深く腰掛けた。

「ディレクター、ちょっとその約束は守れないかな」

 と誰もいないラジオ局で、一人寂しく呟いた。お鮭は死ぬ気だ。

 お鮭は煙草を取り出し一服した。

海の方を見た。海面がさっきより高くなっていた。いよいよ津波が来る。

津波が来たらこの建物は丸ごと流されるだろう。

 かすかに建物の外から聞こえてくる「津波が来るぞ」「ここは危ないぞ」という声がお鮭には苦しくて耳障りだった。

 お鮭は覚悟を決めて、吸いかけの煙草をポイ捨てた。

 そしてマイクに口を近づけた。

『いま、俺のラジオを聞いてくれてる人たち、ありがとう。もうじき誰にも止められることのできない大津波が来る。きっと大津波はこの町をこうも簡単に呑み込んでしまうだろう、だからお願いだ。今このラジオを聴いている人たちだけでもいい、死なないでくれ』

 スタジオの中は、煙草の臭いが充満していた。

『俺の大好きなこの町のみんなが生きていれば俺はそれでいい、まだ避難ができていない人、頼む、生きてくれ。今でもまだ間に合うかもしれない、逃げてくれ、南西の急な坂、龍洛坂なら必ず、津波を回避できる』

 何とか避難を訴える。これが皆の耳に届いているかはわからない。

 だが、お鮭は信じていた。このラジオを聞いてなくてもこの町の人間は生き延びてくれると。

『たとえ今このラジオを聞いているのがあなただけならあなただけに伝いたい、生きろ』

ラジオの最中でも、少し余震が来ていた。

『俺は今日でみんなとお別れだ。俺はここで死ぬ。誰かが一人でも多くの人を助けようとするには、それなりに大きな代償が伴われる。それが、俺の死だったて訳だ。何も気にしなくていい。ただ、俺のこのくそ人生の最後ぐらい、偉大な死に方をさしてくれ』

 お鮭の手が自然と、震え始めた。死の恐怖が近づいてきた。

『だからみんな、今まで俺を支えてくれてありがとう、このラジオを支えてくれてありがとう』

 もうすぐ自分が死ぬんだと思うと、普段恥ずかしくて言えないことも簡単に言える気がした。

『コロッケ屋のおじさんおばさん、俺がコロッケを買いに行くと毎日、おばさんがないしょで、必ず一個おまけにくれたコロッケは一番おいしかった。おばさんは「内緒ね」て言って渡してくれたけど、おじさんそれ気付いてたよ、知ってて黙ってるおじさんも大好きだ』

 もう思い残すことは全て拍ことにした。

『酒屋の兄ちゃん、留学中の彼女さんはきっと帰ってくるよ、彼女を信じて待っていてあげて』

 酒屋の兄ちゃんは、彼女が外国に行ったっきり未だに帰ってこないらしい。

『八百屋のおっちゃん、息子さん無事東大合格おめでとう。お鮭賞を賞する』

 この家庭は、親子二代で高学歴。

『魚屋のおじちゃん、赤身があるのはマグロだぞ、俺はサーモン、オレンジだ』

 マグロの赤身をずっと進めてきて、お鮭をマグロと勘違いしている。正直うっとうしいが、そこが可愛らしい。

『和菓子店のおばあちゃん、昔から色々お世話になりました、ありがとう。でも、一つ言わせてください、パスじゃなくてバスです』

 子供の頃、家出をしたら必ずここへきてしまった。面倒見のいい夫婦が出迎えてくれた。

『寿司屋の甚平(じんべい)さん、いつも面白がって注文もしていないサーモンづくしを宅配してくれるけど、そちらのサーモンだけは格別にまずかった。クリーニング屋のお姉ちゃん、一度ぐらい俺と目を合わせてくれてもよかったと思います。貝類鉄道鰒打線の蛤さん、笑顔が素敵、大好き。そして、駅前のバンドマン、ごめん名前忘れた、取り敢えず少年よ大志を抱け』

 一人一人にお鮭なりの思いを込めて伝えた。

 すると、突然スタジオの固定電話が鳴り響いた。お鮭はそれに出なかった。

 少し時間がたつと、留守番電話が流れた。電話先は町内会長だった。

「鮭君、聞こえているだろ、もういいわかった、お前の町を愛する気持ちはよくわかった。お前の気持ちはちゃんと伝わっている。でももういい、頼む、今なら間に合う、逃げてくれ」

 町内会長はこのラジオを聴いていた。涙ながらの声だった。

『会長さん、と言うことは今このラジオも聴いていらっしゃいますよね。俺はここから動きませんよ。今から来ようとしている大津波からこの小さな、小さな大電波でこの町を救うんです』

「もう十分だ」と言う町内会長の声はこれ以上は届かなかった。

 津波はまさに今陸に上がろうとしていた。

『カジキ先輩、あんたのファッションセンスには驚いた。狂ってるよ、くそダサい。見つけやすくて助かったよ。高校の同級生だった宝来(ほうらい)、今でも陸上部の彼女とは上手くやってるか?中学の真平校長、お勤めご苦労ございます。バーコード頭ともそろそろお別れですね』

 お鮭は頭に浮かんだことから、感謝の言葉を伝えていく。

 その頃、蟹江Dが龍洛坂に着いた。そこにあった光景に蟹江Dは息をのんだ。

 そこには数十人の人が避難していて、みんな何故かラジオを聴いている。よく聞くとそれは、お鮭のラジオだった。お鮭の思いはみんなに伝わっていた。お鮭の言葉で泣く人もいた。蟹江Dはお鮭の偉大さを沁沁感じた。

 突然誰かが大声で叫んだ。

「津波だ」

 海の方を見ると、波が堤防にぶつかって数十メートルの水しぶきを上げていた。

「お鮭さん」

 蟹江Dは無意識に叫んだ。

『皆本当にありがとう、立飲み屋のおっさん、そろそろ認めてくれ、あんたは何時も何時も俺と船丸の我儘や愚痴を黙って聞いてくれて、俺のもう一つの居場所でもあった。でも、奥さんが出て行ったのは、あんたの酒癖のせいだ』

 マスターは妻に逃げられていた。

 そのラジオを小学校のグラウンドで聴いていたマスターは、泣いていた。

 津波の影響で、堤防が海に埋まっているのが見える。

『美波、ごめん、お前のお胸通算113回触った。これからは船丸に揉んでもらって下さい』

 美波もこれを聴いていた。唇を中にしまって、涙ぐんでいた。

 こんな時に限って、ほんとに言いたいことが言葉に浮上してこない。

『とにかく皆、今まで俺のラジオを、いい目でも悪い目でも厳しくも緩くも、あたたかく見守ってくれてありがとう。今日を持ってお鮭ラジオは終了します』

 その時、津波が陸上に上陸し始めてきた。車や地震で落ちた瓦礫などが流されていた。

 迫り狂う津波に、逃げる車が飲み込まれていく光景もあった。

 避難所の人の中にはそれを撮影する人もいた。

『それから船丸、お前に言いたいことはただ一つ、俺が生まれ変わってここに現れた時、お前と美波が世界一幸せな家族になっている事を願う』

 その時、ラジオ局の建物に大きな高波がぶつかった。それで建物が大きく揺れてお鮭は倒れこんだ。建物の中に水が浸水してきた。お鮭はよたよたと立ち上がって体制を整えると、一つ違和感を感じた。建物が船に乗っているように何かに浮いているような感覚がした。

 龍洛坂からは家や他の建物が流されているのがよく見える。

 人が流されるところも見えた。

 海の向こうからは別の波頭が立っていた。もう一段来る。

 蟹江Dは目をつぶって願うように手を組んでいた。お鮭の死ぬ気は薄々わかっていた。

 津波は大きな音を立てて町を飲み込んで行く。ビルの4、5、6階まで津波は来ていた。

 町はみるみるうちに海と化す。

『もうそろそろ皆とお別れの時間だ』

 お鮭のいるラジオ局もまた、津波に流されている。中は大きく揺れる。

『俺は三十一年前にこの町に生まれてから今日までずっとこの町で暮らしてきた。人は優しいし、面倒見がいい、ダメなことをしたら叱ってくれる、運動会で一等賞をとったら、近所のみんなで祝ってくれる、中高で暴走族に入って暴れてた時も優しく見守っててくれて、親とけんかをして家出をした時も心配して家に入れてくれたり、でもそれは、今でも変わらなくて、本当にこの町の人間が俺は大好きだ。ありがとう皆、ありがとうこの町。皆愛してる』

電波が悪くて聴きづらいが、町の人たちは皆このラジオを聴いていた。

避難所は涙でいっぱいだった。

家や車、船が流されている。まるで別世界だった。水の流れるゴーという音が響き渡る。

お鮭は自分の死を受け入れていた。だが、いざ死に突き進もうとしても進まないものだ。

お鮭を乗せた建物が「ガシャーン」と大きな音を立てて、何かにぶつかった。その衝撃で建物がさらに傷み砕け、二つに分裂してした。そこからさらに浸水してくる。ここまで来るともう建物と言うよりは、ただの残骸だ。これですべては終わりだとお鮭は目をつぶった。すると、先ほど沖合に見えた二段目の津波が押し寄せてきた。その津波は、自分の死に無抵抗であったお鮭の身体をさらい、建物の外の海に投げ出した。お鮭ははっとしてもがいた。一瞬何を考えているのかわからなくなった。ただ、お鮭の身体はもがいていた。必死にもがくが後から来る余波に体力を奪われる。身体が流れに持っていかれる。

お鮭もとうとう体力の限界で、体が自然と動かなくなって行き、呼吸もしづらくなってきた。お鮭の身体は海に沈んでいく。

お鮭は沈んでいく間に、自分は少しでも偉大になれただろうかと念じた。

体の穴と言う穴から、空気が上に上がっていく。

「ああ、俺もう死ぬんだな、まだ早い気もするけどまあ良いかな、あ、小便出る。まあいいか。船丸の子供みたかったな・・・・・・」

 お鮭は、そう思いながら沈んでいった。

 呼吸ができないことを死に近づいてる証拠とした。手足の感覚も無くなっていった。もう自分が今何処にいるのかも分からなくなっていた。もう少しだ、もう少しで死ぬ。

 その時だった。身体をクロスロープのような肌触りのものに覆われた。

何が起きているのかわからなかったが、上に引き上げられる感覚がした。

ザブンという音と同時にお鮭の身体が海上に上がった。お鮭は大きく息を吸った。

何事かと、周りを見わたして状況を飲み込んだ。

先ず、今お鮭は漁業用の網の中にいた。そして町はまだ海の底だった。時間はまだそんなに経っていない。もう一つ、お鮭の入った網が吊るされていたのは、漁業船だった。海から流されてきた船だろうか。お鮭は状況を飲み込んだところで、気持ちを落ち着かせた。

船の上から地味な漁業服を着た男がこっちを見ていた。

「大物が釣れたぞ」

 その漁業服男の正体は、船丸だった。

「お前にそんなかっこいい死に方は似合わねえし、許さねえ」

 お鮭は甲板に下された。お鮭は今生を感じている。床が自分を支えている、垂直抗力を感じていた。船丸は悲しい顔ではなく、嬉しい顔でもなく、どの顔にも属さない表情をしていた。

「お前に似合う死に方は食べ過ぎぐらいだよ、だから頼む死ぬな」

 と言い放った後、船丸は良い笑顔で笑った。

 二人は熱い心で抱き合った。

 この二人の友情は、今後、この町で語り継がれていく事となった。

 その後は津波も引いていき、船も沖に流し戻されていった。水が引いて行った、町は津波が来る前の町とは思えないくらいの荒れ果てた姿に凶変していた。この町はまた、ゼロからやり直しである。

 この時代に起きた史上最大級規模の大災害、〝全日本大震災〟 巨大地震 マグニチュード9震度7 これによる土砂崩れ及び液状化現象による被害、計二千と百件 大津波 その波の高さ最高遡上高実に60メートル、海岸から津波が押し寄せた距離 10キロメートル これによる、発電所及び数多くの工場が被害を受けた。

 死者 六十四万と百二十二人 及び 行方不明者 五千と八百三十人

 そして全国被害総額 実に 八百兆八千億円にも上る。

 当時の総理大臣は、この結果に対応が回らず、自殺を図ったという。

 まさに歴史に残る、大災害となった。

 それでも、お鮭の決死のラジオで救われた命は少なくなかった。

 

   *


 この大きな出来事は、僕が生まれる5年前に起きた出来事だ。

 凄いとは思わないかい?何処にでもいない、この町にしかいない、名も無き二人の残した奇跡。

この奇跡はどの教科書にも載っていない。

 そんな伝説となった二人が育った町で僕も成長していく。

この坂に、鮭お鮭坂の名が付いたのはそのラジオがきっかけだという。

 僕の父も、その時のラジオを聴いていたらしくて、あればっかりは泣いたとよく連呼ている。

 え?僕の父親はだって?

 僕の父親は現在酒屋を営んでいる。ちなみに母さんはと言うと、空港に務めている。

 今日も太陽は町をぎんぎらぎんと照らしている。昼過ぎの太陽は汗をにじませる。

 坂を上っていく。この坂には今、三匹の子ギツネが住んでいる。メス、オス、オスだ。メスはナマコ、大柄の方のオスはツヨヒコ、小柄なオスはマサヒコ。

 立飲み屋のマスターは現在、再婚し、今もなお店を営んでいる。

 蟹江Dは都会に引っ越し、まったく別の職種に転職したらしい。

 エイ君こと田中マンタは、今もなお、漫画を描き続けている。海中大陸もいまだに終わる気配はない。今ようやく、陸上人と戦うところだ。いまだに大人気の作品だ。ちなみに、陸上人のボスの隣にいるヘボキャラは、船丸がモデルだ。

 やっぱりこの町の住人は、いろんな意味で面白い。

 坂のてっぺんが近づいてきた。僕は後ろを振り返り、町を一望した。錆びれた屋根や車、標識、そういったものが町の個性を出している。海の方を見るといくつかの船が見えた。一つの船の上では癖毛の船丸が作業をしているのが見えた。彼は様になっている。

 船丸の後ろから誰かがやってきたのが見えた。そのまま船丸を蹴りつけて海に落とした。そこには漁業服を着たお鮭の姿があった。彼はお腹を抱えて笑っている。船丸は差し伸べたお鮭の手を引っ張って海に引き釣り落した。二人は今も本当に仲が良い。

 坂の上では友達が待っていた。

(ひら)(まさ)君、早くいくよ」

彼女は、八百屋の娘だ。名前はシイラ、漢字で書くと魚に暑。頭脳派だ。

「遅いぞ平正、走れ」

 バッグを掛けている彼は、僕の大親友の船生(ふなき)だ。此奴とならずっと一緒にやっていける気がする。お気づきの通り、船丸と美波の息子だ。僕らの夢は・・・・・

ラジオDJ。

「おう、今行く」

 僕は、そう言って二人の元に駆け上っていった。



読んでいただきありがとうございました。お鮭さんも喜んでいると思いますよ。


この作品は続編を書いても良いかなと思っています!

まだ何も予定はないんですけどね(笑)。

とりあえず、今は就職活動に専念しようか、現在執筆最中の「(仮題)昔々あるところから」という都会に憧れる田舎少年の話を書こうか迷っているので、お鮭さんに相談しながらゆっくり考えていきたいと思います。


それでは次作でお会いしましょう!


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