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俺以外全員脳筋なパーティーで戦士な俺はサポート役

作者: @novel

「どうしてだよぉおおおおおおおおおおおお!?」

「せ、戦士殿!? ご乱心なされたか!?」


 戦士、そう言われた青年は周りからの心配の声を余所に一人頭を抱えながら叫んでいた。彼を戦士と呼んだ老年の男もとい彼を含めた数人を呼び出したこの国の王はオロオロとしつつも心配をしていた。

 周りの兵士もぎょっとした様子で彼の動向を見守っており、その場にいた誰もが彼の様子に少なからず心配の念を抱いていた。


 ――三人を除いては


「えっと……その……ごめんね?」

「ふぇええ……この人怖いです……」

「草」


 端正な顔立ちを持つ優男は申し訳なさそうにしているが、後の一見臆病そうに見える少女と明らかに人を小ばかにしている様子の長髪の美女は反省しているような様子も無く、中央で崩れ落ちている青年を嘲笑っていた。

 そんな中、青年は三人を指さしながらとある事実を突きつける。


「俺がこんなになってるのわよぉ……お前らが全ステータスを【筋力】に振りやがったからだ!! どうすんだよ! サポート役は最低でも一人は必要だって言っただろがよ!!」


「うーん……僕以外の人がやると思って……それに僕、勇者らしいから……攻撃のステータスに振りたいなって……」

「私は、魔法何て不可解な物に頼るよりも物理で殴ればいいかなと……」

「ヒーラーなんてめんどくせぇから全ステを【筋力】に振っただけだ」

「よーし、てめぇら全員後でぶっ飛ばしてやっからな!」


 ビシッと音がでそうなほどに指を指す青年の気迫は、その場に居合わせた歴戦の兵士のそれに近しいと後に兵士は語ったという。



 時は数分前にさかのぼる。


「こ……ここは一体……?」

「どこだろう……僕以外にも……?」

「ふえぇええ……もう、不幸だらけですぅ……目を覚ましたら変な所にいるしぃ……」

「あ? どこだここ? スマホ使えないじゃねぇか」


 突如自分たちの知らない場所、或いは元居た世界とは異なる世界で目覚めた四人はそれぞれ起き上がると周りの状況を把握し始めた。どうやら自分以外にもこの事態に巻き込まれた人間がいることを確認すると同時に目の前の玉座に腰かけた王らしき人物から声がかかる。


「お目覚めか! 勇者たちよ!」


 どうやら巷で噂の異世界転移をしたようだと、四人の頭に浮かんだ。そんな四人を尻目に王は四人を呼んだ訳を話し始めた。


 簡潔に言えば、最近蘇った魔王が謎の力を手に入れてこの世界の人間では殺せないという力を手に入れたため、やむなく別世界の人間を召喚して倒してもらおう、ということだった。それを聞いた優男は


「な……何で僕達なんですか!?」

「ううむ……こればっかりは……本当に申し訳ないとしか……この術式は、異世界から無作為に選ばれた者を呼び出すという術式故……」

「そ……そんな」


 落胆した様子の優男を余所眼にどこかだらしない雰囲気を醸し出す長髪の女性が


「んー、まずさぁ、互いに名前を言おうや。“おい”とか“お前”とか言われるのも嫌だからさ。あっちなみにアタシは神楽坂咲良(かぐらざかさくら)な。それで? その優男は?」

「あっ、はい……僕は九条満(くじょうみちる)です」

「ふーん、じゃあそこの……見ているだけでうっとおしくなりそうな弱虫女は?」


 そう言って咲良は僅かに顔を顰めながら小柄の女子を指さした。


「酷い言われようですぅ……」

「速くしな」

「うぅ……白崎優(しらさきゆう)ですぅ……」

「あっそ、それで……その地味男。あんたは?」


 地味男、そう言われた男は内心「コイツ……」と思いつつも自らの名を告げる。


「俺は結城(ゆうき)レンです」

「ふーん、まっ、時折名前忘れるかもだけど宜しくな」

(じゃあ聞くなよ……)


 そう思っても決して口には出さないレンだった。目の前の横暴な態度を取る咲良を危険人物とみなしながらもそれぞれの自己紹介を終えた一行。それを見計らって王が口を開く。


「ふむ、それで全員の自己紹介が終わりましたかな?」

「それで……アタシたちは何をしたらいいんだい? このまま魔王とやらの下へ向かえばいいのかい?」

「いえ、今の勇者様たちだけでは魔王を倒すことは不可能でございます」

「じゃあ、どうすればいいんだ?」


 そう問いかけたレンに対し、王は部下に指示を出して四人の下に地図のような物を差し出した。地図を広げると、幾つかの地点に赤い丸のような物が記されていた。


 これは一体なんだと問いかける咲良。すると王は魔王を倒すための伝説の武具が眠っている地点であると告げた。何でも、勇者が召喚されるその時まで各国でそれぞれ伝説の武具を隠すという誓いを立てていたらしく、今がその時の為こうして四人の下に引き渡されることになったという。


「それから……」


 と王は更に部下に指示を出し、四人の前に新たに手のひらサイズのプレートを差し出す。四人がそれぞれ手に取ると――光を放ち始めたのだ。

 思わず目を覆い隠す四人、やがて光が収まりプレートに目を向けるとそこには幾つかの数字と文字が記されたプレートがあったのだ。四人が混乱していると、王が


「それはステータスプレートで御座います。これから貴方方にはそれぞれ初めから保有していたポイントを振り分けていただきます」


 よく見るとステータスプレートに【体力】や【筋力】などの項目もあり、一番下には【残ポイント】と記されていた。それぞれには確かにポイントがあるのは間違いないようだった。

 さらに言えば、それぞれの名前の横に【職業】と記された項目もあり、それぞれの職業に応じてある程度最初から基礎ステータスにばらつきがあるようだった。


「僕は、【勇者】か」

「私は……【魔法使い】ぃいいい!?」

「アタシが……【僧侶】? ヒーラーってことかい?」

「んで、俺が【戦士】か……」


 レンの職業は【戦士】。初めから【筋力】のステータスが高く、他の三人が平均して“7”であるのに対して最初から初期値が“10”もあるのだ。それ以外にも【体力】の初期値も勇者の“10”よりも高い“15”であるなどとにかく物理に特化した職業と言えるだろう。


(そうなると……下手に【魔力】とか【信仰】とかに振らずに【体力】【筋力】……【技術】に振る方が正解か……)


 レンはゲーマーとしての考えの下、己の役割に準じたステータスを振り分けようとしてふと隣を見た。


「あれ……もう振り分けたんですか?」

「うん、僕は振り分け終わって……」

「わ、私も……振り分け終わりましたぁ……」

「アタシはもうとっくに振り分けたさ」


(早いな……まぁ、無難に魔法使いなら【魔力】とか【僧侶】なら【信仰】……だろうな。【勇者】は……)


 三人のステ振りに考えを巡らしていたレンは一応の確認も込めて三人にどこにステータスを振ったのかを確認することにした。そして耳を疑った。


「僕は【筋力】に全振りしたよ」

「あっ、私も……」

「ま、アタシもだね」


「……は? 今、何て……?」


「「「【筋力】に全振りした」」」


 そして冒頭にさかのぼるのだった。



「いや、アンタら分かってんのか!? 一番【筋力】を上げるべきなのは! 俺! 【戦士】な俺!!」

「だって……序盤で火力が足りなくなって困るから……」

「……まぁ、満に関しては、まぁ良いとしよう。問題は……」


「「?」」

「アンタらだ畜生! 揃いも揃って自分は無関係ですよって面しやがって!」


 レンが再び声を荒げる。それに対して二人は各々の言い分を始めた。


「ふえぇぇ……だって魔法なんて科学的じゃあ無い物……信じるのも無理なもんですよぉ……」

「え? ダメージを受ける前に相手をぶっ殺せばいいだろ?」

「クッソ……あっ、そうだ! 今ならステータスを振り直せば……」


 微かな希望を見出そうとしたレンに王から残酷な宣言を告げられた。


「その……誠に申し訳ない……一度振ったステータスは……ふり直すことが出来ないのだ……」

「なん……だと……?」

「さらに言えば……」


 王によると、ステータスの振り直しは出来ないことと、レベルアップの際には振ったステータスを中心にして数値が上がるため――要するに【筋力】を上げれば【筋力】にレベルアップの恩恵が集中するということ。それを聞いてレンは、その場に崩れ落ちた。


「馬鹿な……そんなことが……」

「うーむ……他の三人が既にステータスを振っている状況……サポートする役が無いというのも心許ない……」

「「「と、いうことは?」」」


「……」


 レンは、無言で【魔力】と【信仰】にそれぞれステータスを振り分けた。この男、戦士の恩恵である初期値の高さを捨ててサポート役に徹するしかなくなったのである。ステータスプレートに映し出される三人よりも高い【魔力】と【信仰】の数値と習得したスキルについての情報が無慈悲にも表示された。


 その後、責任感が人一倍強かったレンがこの脳筋パーティーのバックアップで過労死寸前に追い込まれたり、レンの活躍を知った魔王軍がレンを魔王軍に引き込もうとしてひと悶着あったのは別の話し。

閲覧ありがとうございました。




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