表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
藪の中  作者: 秋本そら
灰と化した記憶
8/11

8.12月18日の日記

 先生、余計なことをしないでよ。

 どうして私が解答用紙をびりびりにしたこと、親に言っちゃったのかな。

 お父さんに、怒られちゃった。

 自然と視線は下を向く。顔を上げてなんかいられない。けれどお父さんの顔は見なくちゃいけないから、目線を一生懸命上げようと頑張ってみる。人と話す時はちゃんとお互いに顔を合わせなくちゃいけないから。でも、怒っている人の顔なんて、まともに見られるわけがないじゃん……。

 お父さんは「なにか文句があるなら言え」って怒鳴る。でもそんなこと、出来るわけがないんだよ。だって、お父さんが言っていることが正論で、反対しようもなければ文句も言いようがないって分かっているんだから。……それに、なにか言ったら絶対に「そんなのはただの言い訳だ」って返されるから。いままで、ずっとそうだったから。私が小さかったころから、ずっと。

 だから、もう諦めたんだ。親に自分の気持ちを伝えることは。どうせ聞いてくれないんだから。「言い訳だ」ってその一言でなかったことにされるくらいなら、自分の気持ちを認めてもらえないなら、言わない方がましだ。本当は私の言葉も聞いてほしいけど……でも、仕方ないじゃん。伝わらないんだから。

 そのくせお母さんは「言葉にしなきゃお母さんはなにもあなたのことが分からないんだよ」「なにか言いたいことがあるなら言って。困っていることや辛いことがあるなら相談して。そうしてくれないと力にはなれないんだから」って……馬鹿にしないでよ。私のことを理解しようとしなかったのはそっちの方でしょ。私は一生懸命伝えようとしてきたよ。けれど、そのたびに私の言葉を否定して、へし折って、理解しようともしなかったでしょ。そんなことも忘れたの?


 日記を書いていたら、リビングから「あいつは生意気で反抗的だ」って声が聞こえた。

 お父さんの、こえだ。

 お母さんが、「よく分からない子」「かわいげのない子」って、わたしのことを言っている。


 ……ちがう、ちがう。

 わたしは、はんこうしたいわけでもないし、かわいげのない子になりたかったわけでもない。

 なのに、どうして。

 どうして、そんなことをいうの?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ