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藪の中  作者: 秋本そら
灰と化した記憶
7/11

7.12月14日の日記

 また、やっちゃった。

 国語の解答用紙、びりびりにしちゃった。

 どうしよう。また再試験になっちゃうんだろうな。

 こんなんじゃ、採点できないことぐらい分かってる。先生のことを困らせたいわけでも、ストレスが溜まっているわけでもないのに、つい……。

 ……理由は分かってる。

 なにを問われているのかも、なにを答えるべきなのかも、分かっているけど言葉にできないんだ。

 なんて言ったらいいんだろう。ぼんやりとした形だけど、頭の中に書くべき内容はちゃんと思い浮かんでいる。けれど、こうかな、って言葉を当てはめてみるとなんかずれている気がして、ひとつずれるとそのあとぜんぶの言葉が矛盾していって、最終的には、思っていたこととは全然違う文章が出来上がっちゃってるんだ。だからつい、全部消しちゃう。それでまた別の言葉を当てはめて、また違うから消して、書いて、消して……ってやっていたらもうなにも分からなくなっちゃって、それで、つい解答用紙をぐちゃぐちゃにしちゃう。消し過ぎで破れちゃって、やけになって粉々にしちゃうこともある。

 今回のテストもびりびりにして紙屑の山にしちゃったから、提出なんてできるわけなくて。試験監督の先生に「解答用紙はどこですか」って訊かれたから紙屑を摑んで教卓の上に置いた。先生は絶句して、しばらく無言だった。そういえば、この先生がこのクラスで国語の試験監督をするのは初めてだっけ。申し訳ないことをしてしまった。

 追試では解答用紙を破らないように頑張らないと……。


 国語のテストで思い出したけれど、考えていることを言葉にできないのは、テストのときだけじゃない気がする。

 友達と話しているときも、考えていることを言葉に変えて話してみるんだけど、言った瞬間に違うような気がして、すぐに言葉を取り消しちゃう。それで別の言葉に言いかえるんだけど、それでもうまくいかなくて、また取り消して、そんなことをしているうちに相手が「もういいよ」って言っていなくなっちゃって。

 本当に、言葉って便利じゃない。

 だから最近は諦めて、休み時間はずっと歌詞のない音楽を聴いてひとりで過ごしている。歌詞があると、途中でなにを言っているのか分からなくなって、すっごく気持ち悪くなっちゃうから。


 そういえば、友達と口を利かなくなってから一か月たっちゃった。

 あの後、何回か謝ったんだけど、彼女はなにも言ってくれなかった。

 一体、どうしちゃったんだろう。

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