5.ふたりめの友達
――あの子が、自殺したんですか?
そっか、そうなんですか……。
……。
……。
やっぱりあのとき、声をかけるべきだったのかな。
……ああ、ごめんなさい。ただの独り言です。気にしないでください。
え? 「あのとき」っていつのことか、ですか?
はぁ……。
独り言、聞こえてたんですね。じゃあ、仕方ないです。
あれは、つい最近のことだったんですけれど――。
私たちの通っている高校って、けっこうな都会にあるんですよ。なので、通学路には頭上に高速道路が走っているようなところがあったり、結構複雑な交差点があったりして。
つい最近の下校時に、高架下にある複雑な交差点であの子を見かけたんです。ひとりぼっちで、信号待ちをしているところでした。
私は友人たちと一緒にいたのでそこまで近くには寄らなかったんですけれど、ふとあの子が周囲を見渡しはじめたんですよ。で、私たちのいる方を向いたとき……あの子が、焦点の合わない目でこちらを眺めていることに気付いて。
不安に駆られて、私、あの子に駆け寄ろうとしたんですよ。
けれど、やめちゃいました。
あまりに、怖くて。
……だって、あの子……急に甲高い声で、馬鹿みたいに笑いはじめたんですから!
狂ってる、と思いました。あの子はおかしい子なんだって、近づいちゃいけない子なんだって……本能的に、思っちゃったんです。意思とは関係なく、足が動かなくなっちゃったんです。
そのうちあの子は、赤信号のままの横断歩道を、駅のある方に軽やかに駆け抜けていったので、結局近寄ることはできなかったんですけど。
……そういえばそのとき、一緒にいた友人があの子のことを悪く言っていたんですよ。あの子は人の不幸を嘲笑える子だ、って。それも相まって、あの子のところに行けなかったんだと思います。
私、本当はあの子が狂っているなんて――身近に狂人がいるなんて、思いたくなくて。
だから、きっと楽しいことを思い出していたんだって、そう思うことにしていたんです。あの笑い声は、悩みのなさそうな、愉快そうな声でしたから。
けれど、あの子が自殺をしたというのなら、やっぱりあの子は……狂っていたのかもしれません。
あのときの友人の話も組み合わせて考えたら、独りぼっちの高架下で、人の不幸を思い出しながら愉快気に笑っていたんじゃないか、なんて、そんな恐ろしい想像だってできてしまうんです。
もしかしたら、死ぬその瞬間、あの子は自分の死によって不幸になる人々のことを思い浮かべて笑っていたんじゃないか、とか――。
――もう、やめましょうか。
あの子のことはもう、しばらく考えたくないです。