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藪の中  作者: 秋本そら
人々の記憶
3/11

3.担任の国語教諭

 ――あの子が亡くなったんですか。

 そうですか……。

 ……えっ?

 あの子がどんな子だったか、ですか。

 そうですね。一言で表現するなら……手のかかる子、ではあったと思います。


 例えば、国語教諭としてあの子のことを見るなら、の話になりますけれど――。

 あの子は、あまり頭のいい子ではありませんでした。特に、私の担当していた国語が苦手で。テストは毎回赤点でしたし、模試でも順位を見るときは下から数えたほうが早いような、そんな子ですね。

 ……実は、あの子の国語の試験は、採点不能のことが多いんです。

 どうしてか分かりますか?

 解答用紙が、文字を判読できないほどにぼろぼろであることが多いからです。

 何度も握りつぶされてぐしゃぐしゃになっているのはまだいい方です。まだ読むことができますから。けれど、びりびりに破かれてしまっては採点などできません。

 真っ二つに破かれてしまい、そのうちの一つがなにかの拍子に落ちて捨てられて、結果的に読めなかったこともあります。散り散りに破かれたあの子の解答用紙が、粉吹雪のように試験中の教室の中で舞ったこともあります。本人が粉々に破いて投げ捨てたところを見たと、試験監督の先生はおっしゃっていました。

 もちろん、こんな状態では成績もつけられませんから、再試験を行いました。本人も単位を落としたくないという気持ちはあるのか、再試のときは解答用紙をぐちゃぐちゃにしたいという欲求を一生懸命に抑えて解答する様子が見られるんです。けれど、文章を書く問題が毎回解答できないんです。選択問題の正答率はまずまずなんですけれどね。なんとか記述問題もなにかしらを書いて提出できるようになってほしかったので、なにが分からないかを訊いてみるんですが、本人も分からないのか答えてくれないんです。そこで基本的なことから押さえてもらおうと思って補習を行ったんですが、最初の一回に出席しただけで、そのあとは一度も来てくれませんでした。やる気があるのかないのか、よく分からない子です。

 これは余談ですけれど、他の教科でも、記述問題を苦手としているという話を他の先生から聞きました。国語ほどではないようですけれど、書き途中で終わってしまったり無回答であったりすることがたまにあったようで。

 とにかく、国語に関しては再試験があるからなんとか「2」を取ることをできる、というような、そんな子です。


 ――担任としてあの子を見るなら、ですか?

 そうですね。あの子は……一人が好きな子なんだと思います。

 休み時間はいつも、自分の席で音楽をイヤホンで聞いているような子だったので。

 少し前までは積極的に人と話して、行事にも自分から参加していくような子だと思っていたんですけれど。でも、本当は人と一緒にいるとストレスを感じる質で、だから疲れてしまったのかな、と思っています。それで、一人でいるようになったのかな、と。


 どうして、あの子は死んでしまったのでしょうね。

 やはり成績のことで、将来の進路に不安を感じていたんでしょうか。それとも、自分を繕うことに疲れてしまったんでしょうか。

 あの子にも、笑顔で高校を卒業してほしかったのですけれど……。

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