第9話 ムネの谷間には二個くらい入るらしい
「まぁ気合もあるけどよ、魔人だからな。寒いとか暑いとか、人間に比べればつえーんだよな」
「寒さ暑さに強いのはちょっと羨ましいですね」
炎ビームとか特殊なスキルに比べれば分かりにくいが、こういう人体構造の違いも人間とは異なる点だ。
宙に浮いているのが何よりの違いだが。
話しながらもせっせと魔石をコンビニ袋に詰めていたが、いよいよ袋も限界に近い。
だが魔石はまだ残っている。
「運ぶ方法、なんかねーかなー」
腕を組んで考えるアアアーシャ。
傾げた小首が可愛い。
頭を左右に動かす度に髪もさらさらと流れるように揺れる。
「お、見ろよ健太郎!」
「はい?」
「これこれ! ムネの谷間に二個くらい入るぜ!」
魔石を運ぶ方法はないかとあれこれ考えていたアアアーシャは、とうとう気がついてしまった。
魔石を詰めた胸の谷間を面白そうに見せてくる。
「はぁ……ではその二個はお願いします」
「なぁなぁ、頑張ればこれ三個いけんじゃね? ムネ抑えてるからオマエ入れてみてくれよ!」
「いや、勝手にやってください」
ぶっちゃけアアアーシャは服装だけでなく言動も刺激が強い。
しかし仕事に忙殺されていた健太郎は性欲も鈍くなっていた。勿体ないことだ。
「ん?」
ふいにアアアーシャが遠くを見るように首をもちあげた。
三個目の魔石が地に転がる。
「どうしました?」
「魔力の乱れを感じるぜ。人間と魔獣の魔力だな……こいつはいけねぇ、誰か魔獣に襲われてるぞ!」
「……魔力の乱れ? そんなの分かるんですか?」
この世界の全ての生き物が持つという魔力。
それを感じることができるのも魔人の力なのだろうか。
さっきのヤンキー用語のどれだ?
「何やってんだ健太郎! 行くぞ!」
「えぇ!? は、はい!」
言い終わると同時にアアアーシャは地面を滑るように疾走する。早い。
追いかけるにはズボンのポケットに入れていた魔石が邪魔だ。
とりあえず石はその辺に放り出す健太郎。
なんとかアアアーシャの足についていくと、人が魔獣に襲われている場面に出くわした。
魔獣は四体。
襲われているのは一人の少女。
……いや違う、これは襲われているというより戦っている。
その少女は剣を抜いて四体の魔獣相手に戦っていた。
「あの魔獣はツノザルだな」
「……またツノですか。安易ですね」
先ほどまで健太郎たちが討伐していたのはツノウサギやツノタヌキ、ツノキツネといった魔獣だった。
今度はサルだ。
「つーか、あのお嬢ちゃん、なかなかやるじゃねーか」
ツノザルはかなりの素早さで少女の周囲を飛び回る。
ツノウサギも速かったが動きが単純なので対処しやすかった。しかしサルの動きは複雑だ。
だが少女は剣を器用に扱いサルの攻撃を防ぎ、また、時に斬りかかる。