第8話 服は好きなものを着るもんだ!
抜いた物の願いを叶えてくれる魔剣の魔人。
しかしどんな願いでも良いわけではない。
叶う願いは魔剣の能力で出来る事に限られる。
こんな条件があっては健太郎の願いを見つけるのは当分先になりそうだ。
叶うより叶わない願いが多すぎる。
いっそ金が欲しいとかでよいか、もう。
「というかこんなに条件あるのに何で先に言わないんですか」
「言おうとしたぞ! オマエがちっとも話を聞かないからだろが!」
「……それは……すみませんでした」
そう。健太郎はちゃんと話を聞いていなかったのだ。
アアアーシャの話を適当に聞き流していた結果である。
「……とりあえず魔石は持てるだけ持っていきますか……」
「あー、そうすっかな」
健太郎のカバンにコンビニの袋があったので、とりあえず詰められるだけ詰める。
ズボンやジャケットのポケットにも何個か入りそうだ。
「……アアアーシャさんは……入れるところないですね」
「ちっ、ポケットつけときゃよかったぜ」
「……その服のどこにポケットを付けるんですか」
実際、アアアーシャの服は機能性皆無である。
肩も腹も足もめっちゃ出ているし、必要最低限のところしか隠れていない。
布地がもっともあるのはスカートだが、仮にここにポケットが付いていたら魔石の重みで脱げてしまいそうだ。
「表にはつけねーよ? デザイン崩れるだろ」
「裏側にですか。それなら……」
いや、表だろうが裏だろうが重みで脱げるのは変わらないだろう。
服の話になったので、健太郎はちょっと気になっていたことを聞いてみた。
「アアアーシャさんは何でそんな格好をしているんですか?」
「何でだぁ? 変なコト聞くなオマエ。ファッションなんだぜ? アタシ様がこういう格好が好きだからに決まってんだろ」
両手を広げ全身を見せるアアアーシャ。
その表情はお気に入りを披露するような誇らしさに溢れている。
「好きでそんな格好しているんですか!?」
「はぁ? 当たり前だろ! 服は好きなものを着るもんだ!」
ここ数年、家と会社の往復しかしていないためスーツしか着ていなかった健太郎に「好きだから着る」という考えは衝撃だった。
「どうよ、いいだろ? 可愛いだろ?」
アアアーシャが右手の親指と人差し指でスカートの端をつまんで軽くめくる。
確かに可愛い。その仕草が、ポーズが可愛い。
「うーん……ていうか今さらですが寒くないんですか?」
「はっ、これだからシャバ僧はいけねーぜ。こういうのは気合だよ気合!」
「寒さとシャバ僧は関係なくないですか……」
会話にもヤンキー用語がでてきた。
この魔人、いよいよヤンキーである。