第6話 世界征服を勧めてくる魔人
アアアーシャはしゃがみこむと困ったぜ、と頭を掻いた。
指の動きに合わせてアアアーシャのサラッサラな髪からいい香りがする。
魔人は何を使って髪を洗うのだろうか。この世界にシャンプー的なものはあるのだろうか。
しかし今はどうでもいい事だ。
「……は? あなた魔人でしょう? どうとでもなるんじゃないんですか」
「あん? どういうことだよ」
アアアーシャが健太郎を見上げる。
上目遣いが可愛い。
「例えば……四次元的な謎の空間に丸ごと収納するとか」
「できねぇし」
「……念動力みたいなもので持ち上げるとか」
「そんなん使えねぇし」
「……瞬間移動……ワープとか?」
「ああ、便利だなそれ! 無理だけど」
魔人という存在ならおそらくできそうなこと。健太郎が思いつくだけ挙げてみたが全てダメだった。
しかし人の願いを叶える魔人がこんな『ありがちな能力』も使えないとは。
「さっきから何だよそれ。オマエ魔人を何か勘違いしてねーか?」
「いえ、人間の願いを叶えてくれるくらいですから、そういう凄い能力が使えるのかと思ったのですが……違うんですか?」
もしくは人間が願ったことは叶えられるが、それ以外のことには力が使えないとか。
そういう制約はありそうだ。
ところが返ってきた答えは予想外のものだった。
「アタシ様は魔剣の魔人だからな。基本的には魔剣の能力で出来る願いしか叶えられねーぞ」
「……はぁ?」
魔剣としての能力?
「……具体的には何が出来るんですか?」
「魔剣『エゲスヤチメ』の特性は炎と超攻撃力だ。だから出来ることは燃やす・焦がす・倒す・殺す・滅ぼす……とかだな!」
「ええ……」
やたら物騒な単語ばかりが並ぶ。
これで叶えられるとはどんな願いだ。
「アタシ様のオススメは世界征服だな」
「……それ、願って叶うんですか?」
「誰がこの世界の王かを認めさせるだけだぜ、楽勝だっつーの! 向かってくる奴は全員ブッコロ……」
「分かりました、結構です」
そういえば最初の方でも世界征服とか言われたな。
世界征服……この魔剣の力なら願えば確実に叶いそうな気がするのが恐ろしい。
「……僕がもし、ものすごい金持ちになりたいと願っていたらどうしました?」
「願いが決まったのか? もっと稼げる場所があるぜ! その分、魔獣も強ぇけどな!」
「いえ、例えばの話です」
金持ちになりたいと願えば山のような金銀財宝を出してくれるイメージだったが違った。
実際は今みたいに魔獣を狩って稼がなくてはいけないのか。
「……世界中の美味しいものを食べたいと願ったら?」
「お安い御用だ。アタシ様が用意してやるよ!」
「……恋人が欲しいと願っていたらどうでした?」
「任せな! アタシ様がオマエにピッタリな相手を連れて来てやるよ!」
「……不老不死になりたいとか、死んだ人を生き返らせて欲しいとか……」
「無理だ! 諦めろ!」




