第13話 絶望のツノオオダコ
この状態でツノオオダコ三匹を相手にできるわけがない。
バイハド村の剣士達にはもう立ち上がる力はなかった。
「アアアーシャさん……!」
「くっっそぉ!!」
アアアーシャの体力も限界に近い。
黒い剣身の輝きは消え、いつも息苦しいほどに熱く盛る魔力も絶え絶えだ。
最後に撃てる一発で三匹を倒すには大型魔獣が一列に重なるタイミングを狙うしかない。
ボスもそれを分かっているのだろう。
呼び出した位置がバラバラだ。
さらにツノオオダコは足を伸ばして攻撃や捕獲ができる。
動き回る必要がない。
タコがこのまま動かなければ、健太郎がどこに移動しても三匹が重なる位置は存在しなかった。
「……あ、あのツノオオダコ……!」
セナがある事に気が付いた。
「……?」
「お兄ちゃん、あのタコ目の傷!」
「何?」
セナが指さす方を見る。
左目の上に大きな傷をもつタコが一匹いた。
「あの傷は! まさか奴なのか……!」
呼び出されたうちの一匹はバイハド村の水源に住み着いた魔獣だった。
村の剣士達では太刀打ちできなかったが、唯一ジンメイだけが傷を負わせることができた相手だ。
「くっ……こいつにやられるのか……最悪だ!」
ツノオオダコには散々苦しめられたが、まさか引導を渡されることになるとは。
悔しさと怒りがないまぜになる。
「お? なんだその反応は。単なる恐怖や絶望ではないら。お前達、ツノオオダコに因縁でもあるのか?」
どうやら呼び出した三匹はこの戦いの幕引きに相応しい魔獣だったようだ。
そう察したボスは少し気分が良くなった。
「あいつが……そうなのかセナ……オマエ達が倒したかった……魔獣ってのは」
「アーシャさん……はい……!」
やはりか。よし……それなら……!
「……聞いてくれバイハド村のみんな! あのキズがあるタコが今までオマエらを苦しめた魔獣だ!」
アアアーシャが村人達に向かって叫ぶ。
ほとんどの村人はツノオオダコの姿を知らないのだ。
「え……!」
「あれが……!」
村人の意識がタコに向かう。
しかし、それが分かったところでどうなるというのだ?
ジンメイと同じく、悔しさが増すだけではないのか。
ボスもアアアーシャの行動に疑問を感じた。
「……まさか!」
だがすぐにその狙いに気がついた。
「よし……! 健太郎! アタシ様をあのキズタコに向けな! 最後の一発をぶっ放す!」
「はい……!!」
「おらぁぁぁぁ!」
アアアーシャは残された力の全てを込めた炎ビームをツノオオダコに放った。
ビームに頭を貫ぬかれタコは霧散。見た事もない巨大な魔石が残った。