第8話 ゼシィの願い
「とはいえアンタの力は俺の魔剣と比べても威力が桁違いだ。大型魔獣も一撃とは恐れいったぜ。なぁルルルシア」
「そうね、私の力ではカエルちゃんを一撃ってわけにはいかないわねぇ」
「へっ、そっちの魔剣はパワー不足かい」
やはり盗賊団における魔剣の攻撃力は『エーツファレオ』のが基準になっているようだ。
もっとも、魔剣『エゲスヤチメ』の特性は圧倒的攻撃力。
炎の魔剣と比べて『エーツファレオ』が弱いというわけではないだろう。
「……アアアーシャさんは破壊と殺戮がウリの魔剣ですからね」
「その言い方やめろ!」
アアアーシャが裏拳を放ち健太郎の頭を小突いた。痛い。結構痛い。
魔人の姿でも強いのではないかと思わせる痛みだ。
「で、アタシ様の力が想像以上だったからどうすんだ? セナ達を解放してさっさと逃げるなら見逃してやるぜ」
「逃げる? まさかだろ。今の俺の望みはオマエを手に入れることなんだぜ?」
「なんだと!?」
「魔獣を操る力に炎の攻撃力! これだけあれば俺の願いは全て叶う、全て満たされる!」
ボスは両手を広げると全身で喜びを表す。
「クワワー! マジっすかボス!」
「ゲッゲゲゲ! やりましたね! ボス!」
「サイコーっすよボス! ゲラゲラ!」
盗賊達も口々にボスを称えはじめた。
相変わらず癇に障る笑い声だ。
「……ボスの人、今、魔獣を操る力って言いましたね」
「やっぱな。思った通りだ」
能力の概要は予想した通りだったが、その力の効果範囲や操れる数、魔獣の種類などの条件や制限は不明だ。
ツノオオガマが出てきたことから大型魔獣をも操れることは分かっている。あれを同時に二体、三体と操れるなら厄介だ。
「なぁ聞けよ。俺は人間が大好きなんだ」
「あ? 人様の村をこんなにしておいてか?」
「なんだよ、こんな村どうだっていいじゃないか。もっと素晴らしい王国に住めるんだぞ?」
「……王国……?」
「俺は全ての人間を俺の友達に、仲間に、恋人にしたい! そして俺だけのパーティを、チームを、組織を、街を、国を、世界を作りたいんだ!」
高らかに叫ぶボス。称賛を贈る盗賊達。
「生きる場所も理由も全て俺が決めてやる! 何も心配することのない王国だ! 死ぬまで安心しろ!」
「……死ぬまで安心……」
「健太郎? オマエちょっといいなとか思ってないだろな?」
ぼそっと呟いた一言にアアアーシャが突っ込んだ。
「この国の全てを壊して一つにまとめる! そのために炎の魔剣、お前の力を俺にくれ!!」
「やっちゃう? ゼシィ」
「ああ。来いルルルシア!」
「はーい」
ボスが右手を突き出す。
そこに魔剣の姿に戻ったルルルシアが飛び込んだ。
魔剣の柄を両手で持つと、己の欲する力を込めるように強く握り込む。
「……あぁぁぁ! いいわゼシィ、すっごくイイ! すごいパワーがあふれてくるぅ!」
漆黒の剣身は濡れたように艷やかさを増し、魔力も膨れ上がっていく。