第5話 どちらの名前が可愛いか
「おい! おいそこの! 魔剣のオマエ!」
ボスの持つ魔剣に話しかけるアアアーシャ。
「え? 私?」
「オマエ、ルルルシアだっけか? 何なんだオマエらは。アイツの願いってなんだ!」
「そんなのゼシィに聞いてよ。私はただ彼の願いを叶えるだけよ」
「そのボス野郎が話になんねぇからオマエに聞いてんだよ!」
「……確かに、ゼシィがこうなっちゃうと、ちょっと長いのよねぇ」
そう言うと、ルルルシアは魔人の姿に変化した。
剣の姿に戻る前と同じく、空中に腰掛けて足を組む。
「魔人の姿になりましたよ……!」
「ちっっっっ、余裕かよ! 気に食わねぇな!」
表情の見えない魔剣の姿でもアアアーシャの感情が伝わってくる。
今のセリフもさぞイライラした顔で言ったんだろうなぁと想像すると、こんな場面でだが健太郎はちょっと可笑しかった。
「炎の魔剣さん、アナタも魔人の姿になってお話しない?」
「いきなり魔獣をけしかけてきてよくそんな事を言えるな! アタシ様は油断しねぇぞ!」
「大丈夫よ。 私のマホルは今こんなだしさ」
ボスはまだ一人でブツブツ言っていた。
心ここにあらずといった感じだ。
これは罠の可能性もあるが、しかしボスや魔剣の目的は聞き出したい。
アアアーシャは誘いに乗る事にした。
「……ふん、いいぜ」
炎の魔剣が健太郎の右手から離れ、ふわっと宙に浮くと魔人の姿になった。
想像以上にイライラした顔をしていて健太郎も一瞬ビビる。
全身からも苛立ちが感じられた。これは怖い。
「そんな怖い顔しないでよ。そうだ、炎の魔剣さん。アナタのお名前は?」
「アアアーシャだ!」
「……随分と素直に教えるんですね」
苛立っているのでその素直さが意外に感じたが、彼女は口も態度も悪いが意地が悪いわけではない。
質問にはきちんと答えてくれるタイプではある。
「アタシ様の名前の方が可愛いって思い知らせてやろうと思ってな!」
「……何ですかそれ」
「アアアーシャちゃんかぁ。可愛いお名前ね」
「っしゃぁ! 勝った!」
「……勝ったんですか?」
しかしこうして改めて向き合ってみると、ルルルシアからは異様な魔力を感じる。
人間とも魔獣とも違う、漆黒の魔力。
「ちっ、てめぇ……なんて魔力してやがる……」
「ふふふ、ゼシィのおかげよ」
「なに?」
「私は元々、大して等級の高い魔剣じゃなかったのよね」
ルルルシアは銀色の髪を右手で弄びながら言う。
「へぇ、その魔力でんなこと言われても、にわかに信じられねーな」
実際、ルルルシアの魔力はその辺の有象無象とはレベルが違う。
アアアーシャも自分が負けているとは思ってもいないが、単純な強さとは質の異なる異質さを感じていた。