第3話 キモくて怖い
「さーて! おしゃべりはここまでだ! ルルルシア!」
「いいわよゼシィ」
再びボスが魔人の名を呼ぶ。魔人は泳ぐように空で跳ね、その姿を剣に変えた。
黒く禍々しほどに輝く、闇色の剣が出現する。
魔剣の美しさにアアアーシャも健太郎も一瞬、意識を奪われる程だった。
「は……っ、やべっ!」
アアアーシャが我に返るよりもボスの動きの方が早かった。
魔剣を手に取ると、天を突くように刃をかざす。
「見せてやるぜ、魔剣『エーツファレオ』の力!」
「うげっ、なんだよこの魔力は!!」
村の入り口に来た時から感じていた得体のしれない魔力が溢れあたりに広がる。
そうか。これは魔剣の魔力……!
さらに、その魔力に呼応するかのように空を黒い影が覆った。
「……あれ、急に影が……?」
「上に何か……げっ! 魔獣!?」
空を見上げる二人の視界には大型の魔獣。
影の正体は上空へ飛び上がった大型魔獣ツノオオガマだった。
落ちてくる。これはどう見てもアアアーシャと健太郎のいる場所をめがけて落ちてくる。
「避けろ健太郎っ!」
「え? うわっ!」
状況を理解できず固まっていた健太郎の首根っこをアアアーシャが掴んで引っ張った。
カエルの着地の衝撃で地面が揺れる。
間一髪。もう少しで潰される所だったが何とか避けることができた。
とはいえカエルはこちらへの敵意を剥き出しにしている。これはまだ安心はできない。
「あっぶな……大型魔獣ってこれ!? ちょっ、大型すぎなんですが……!」
「ぼけっとすんな! こいつの押しつぶし攻撃食らったら死ぬぞ!」
目の前のカエルはニ階建ての一軒家くらいはある。
こんなのに潰されたら体だけではない。精神的ダメージも凄そうだ。
健太郎は別にカエルが苦手というわけではない。
とはいえこのサイズは流石にキモい。キモくて怖い。
アアアーシャが注意を促したそばから再び空へ飛び上がるツノオオガマ。
先ほどのジャンプに比べると低い。
滞空時間を短くして確実に二人を潰すつもりだ。
「飛んだ!? え、ちょ、マジでキモい……!」
「キモがってる場合かコラ!」
「あ! はい……っ!」
アアアーシャは素早く魔剣の姿に戻ると健太郎の右手に滑り込む。
すかさず健太郎が剣先をカエルに向けた。
直後、魔剣から炎ビームが飛び出る。
「ゲローーーッ!」
ビームがカエルに直撃し上空で爆発。
跡形もなく消える大型魔獣。
カエルの変わりにバカでかい魔石がアアアーシャたちの目の前に落ちてきた。
「ふーー、あっっっぶねぇ!」
「いや、ちょ、怖すぎでしょう大型魔獣……」
力なくその場に座り込む健太郎。
ウサギやサルは現実世界の動物と同じようなサイズだったが大型魔獣は違う。容赦なくデカい。