第5話 バイハド村の攻防
「何で村に魔獣が……!」
敵襲との報告を受けたジンメイ達が村の入り口へと向かう途中、魔獣ツノツノザルの群れに遭遇した。
サル系の中型魔獣ツノツノザルは体の大きさの割に動きは早く、
木に壁に屋根にと縦横に飛び回るので出現場所によっては非常に厄介な相手だ。
仲間達はツノツノザルのスピードを捉えきれず混乱、乱戦状態になっていた。
「ジンメイ、このままだとまずいぞ!」
「みんなに合図してくれ! 俺たちも中央まで下がるんだ!」
村の中央広場の中心に位置する黄色い屋根の建物は村の象徴でもあり、この村で一番堅固な建築物でもある。
普段は村役場として使っている場所だ。
ジンメイはここを起点に戦力を立て直す算段だったが、たどり着いた剣士はわずか四名。
役場を警備する剣士が合流しても五名だった。
「残ったのはこれだけか!?」
「なんだと…!」
「む、村のみんなはどこだ?」
続いて一人、仲間がやってきた。
村人の避難誘導を担当していたキシュートだ。
彼を中心とした剣士達が村人を護衛し、ここまで連れてくるはずだった。
「キシュート! みんなはどうした!?」
「……すまない……連れ去らてしまった……」
「……な……! くそっ盗賊どもめ!!」
「いや……襲ってきたのは中型の魔獣だ……ツノツノガエルとツノツノトンビだと思う……」
「その二種が同時に!?」
「ああ。どういうことなんだ……魔獣が村人を連れさるなんて……」
「こ、殺された者は!?」
「いなかったと……思いたい」
一体どうなっている?
見張りからの報告では攻めてきたのは盗賊団だったはずだ。
しかしどこからか現れた魔獣に翻弄され、村は壊滅寸前だ。
「そういえばダルはここに来ていないか?」
「ダル? いや……」
「あいつの話では大型魔獣の姿も見たらしい。村の入り口付近は大型魔獣に破壊されてしまったと」
「お、大型……!?」
複数の種類の魔獣が群れとなって行動しているなど聞いたことがない。
分からない事が多すぎる。
「本当に大型もいるのか!?」
「分からないが……今はこの六人で連携を取るぞ!」
「他に村人が残っていないか捜索を……」
六人が作戦を立てようとしたそのとき。
周囲の家々を貫き、壁を破壊して魔獣が数匹、現れた。
「なにっ!?」
「ツノツノウマ!」
中型魔獣ツノツノウマは気性が荒く、剛脚による突撃が強力な魔獣だ。
壁を破壊した勢いのまま駆け回ると剣士達を吹き飛ばす。
「ぐおおおおおっ!」
複数のツノツノウマによる連続体当たりをくらい地面に叩きつけられた剣士達はダメージで身動きがとれない。
「くっ……!」
仲間達は武器を構える間もなく倒されてしまったが、ジンメイだけは何とか立ち上がる。
長として村人たちを率いていくという責任がジンメイの体を支えていた。
しかし次の瞬間、体から最後の力が抜けていくのを感じた。
ここにきてついに盗賊たちが姿を見せたからだ。
「クフーッククク!」
「ゲッゲゲゲェ!」
盗賊団は大柄な体躯に重量級の武器を持った男たちばかりだ。
ダメージを負った状態で戦える相手ではない。
盗賊たちの謎の奇声も精神力を削る。なんだあれは。笑い声なのだろうか。
「ゲラゲラ! あいつで最後かぁ?」
「もうボロボロじゃねぇか! ウヒャヒャ!」
「さすがツノツノウマちゃん、強いぜぇ! ウケケ!」
盗賊たちが姿を見せるとツノツノウマは急に大人しくなった。
まさか盗賊たちが魔獣を操っているとでもいうのか?
もっとも、それが分かった所でどうしようもない。
魔獣だけでも大打撃を受けてしまったというのに、さらに数十人からなる盗賊団までいる。
もはや勝ち目はなかった。