第3話 チラつく脅威の影
「ジンメイさん、そろそろ……」
ややあって、槍を持った青年が近づいてきた。
「おお、交代の時間か。アーシャ殿、申し訳ないが私はここで失礼します」
「あん? どうした? 交代って?」
「……ええ、実は……」
ジンメイは剣を納めたベルトを腰に巻きながら言葉を続ける。
「ああ? 盗賊!?」
「はい。数日前に「盗賊団がこの村を襲撃を計画している」という情報が入ったのです」
「そんな……セナ、知らなかった……」
セナも驚いている。
盗賊の襲撃計画はセナが村を出た後に入った情報なので当然だ。
「信憑性はそんなに高くない、我々は殆どデマだと思ってはいるのですが……」
でも念のためしばらくはこうして警戒を強めています、と腰に下げた剣に手を当てる。
門番やジンメイから感じる警戒心はそういうことだったのだ。
「……アアアーシャさん、盗賊ってもしかして……」
「この前の奴らとカンケーあるかもな。ちっ、やっぱ殺っときゃよかったか」
しかし魔獣だけでなく盗賊にも警戒しなくてはいけないとは。バイハド村の現状はなかなかハードだ。
せめて村人を元気づけてやろうと、アアアーシャは盛り上げ役に回るのだった。
夜が明ける。
「っしゃぁ! やるぞ!」
アアアーシャは今日も朝から元気だ。
「……はよう……ございます……」
健太郎は今日も朝から元気がない。
この世界に来てから睡眠にあてられる時間は増えたが長く続いた生活習慣の乱れのせいで熟睡できないのである。
質の悪い睡眠では何時間とってもスッキリしない。
「今日もひでぇツラしてんなぁ。だからアタシ様が添い寝してやるって言ってんのによぉ」
「結構です」
馬車旅で最初に野宿したあの夜はここ数年で一番ぐっすり眠れた。
翌朝、あまりの体の軽さに「今なら空も飛べる……!」と思わず口走りそうになったくらい気分爽快だった。
一晩中そばにいてくれたアアアーシャのおかげ、なのだろう。
しかし添い寝はとにかく気恥ずかしい。
「おはようございます!」
「おう! セナ!」
「……おはようございますセナさん」
ツノオオダコ討伐に向かうのはアアアーシャ、健太郎、そしてセナだ。
「本当なら私が魔獣の住処まで案内したいのですが……」
ジンメイは盗賊の襲撃に備えなければいけない。
指揮を執る村の長として、今は村を離れられないのだ。
代わりに案内すると名乗り出たのがセナ。
村長の妹として、アアアーシャに「お願い」した者として、着いて行くと主張する。
もっとも、状況に関係なく最初からセナも行くつもりだったのだが。
「セナ……しかし……」
「心配すんなよジンメイ。場所さえわかれば問題ねぇ。一発ドカンだ! 危険はねぇよ」
さすがにジンメイは難色を示したが、アアアーシャの言葉に頷く。
実際、一発で終わるだろう。
準備は昨日のうちに完了している。
といっても村から半日ほどの場所。
そんな大掛かりな用意は不要である。
一日分の食料を馬車に積む程度だ。
激励を贈るために集まった村人達の声援を背に、
アアアーシャ達は出発した。