第5話 地獄を見せる、その意味は
アアアーシャのスキルで乗り物酔いの症状は軽くなったが
そのかわりダメージを負った健太郎。
「生ぬるいコト言ってるトキじゃねぇんだよ! オラ、立て!」
アアアーシャが健太郎の胸倉を掴んで強引に起こす。
「……ちょ、揺らさな……」
「よっしゃ! セナ、馬車を止めてくれ!」
「えええ!? は、はぃぃ!」
セナが頑張って馬車を止めた。
ここぞとばかりに盗賊は前の道をふさいでしまう。
もう馬車での突破は無理だろう。
「どうした? 遊んでくれる気になったか? ひゃーははは!」
距離を詰めてくる盗賊達。
「おう、待たせたなぁ盗賊ども! 遊んでやるよ!」
アアアーシャは御者台に立ち上がると腕まくりをするようなポーズを取った。
ちなみにアアアーシャの着衣にまくるような袖はない。
「ひゅー! すっっげっいいカラダしてんじゃねぇか!
「オラ、ネェちゃん降りて来いよ!!」
立ち上がったことでアアアーシャの魅惑的なボディが大きく晒された。
盗賊達の目の色が変わる。
「ははっ! オマエらにはもっと良いモン見せてやるぜ!」
「へぇ? そりゃ何だよネェちゃん?」
「……地獄だよ!」
アアアーシャの身体が宙に浮かぶ。
そして一回転すると、人の身が魔剣に変わる。
刃も鍔も柄も黒い、魔を秘めた破壊の剣。
剣身から放つ魔力は炎となって、周囲に息苦しいほどの熱をまき散らす。
「なんだぁ!?」
「女が宙に浮いて? え? 姿が剣になった!?」
「い、意味わかんねぇ!」
「……あの剣はまさか……! いや、間違いねぇ!」
突然の事態に盗賊達の反応は様々だが場は混乱している。
チャンスだ。この隙に健太郎に魔剣を持たせればいい。
「よし、今のうちだぜ健太郎っ!」
「はいは……あ、すみませんやっぱ立てな……」
「何やってんだ!」
魔剣の柄を握ろうと上体を起こした瞬間、強い酔いを感じて再び崩れ落ちる健太郎。
右手は空振りしてしまい、魔剣を掴み損ねる。
「ケンタローさん! しっかり剣を握ってくださいっ……!」
代わりにセナが魔剣の柄を持つと、伏している健太郎の右手に握らせた。
「……セナさん、ありがとうござい……ます」
「健太郎! 今度は行けるな!」
「……はい……」
まだフラフラするが何とか体を起こすことに成功。
「……アアアーシャさん、加減はしてくださいよ。人殺しなんて嫌ですからね」
炎ビームは魔剣の力であり健太郎は実際には何もしていない。剣を持っているだけだ。
しかしただ持っているだけとはいえ、その武器が放ったビームで人が死ねばきっと目覚めが悪い。
「大丈夫だ! ムカついているがアタシ様も殺しはしたくねぇ」
それを聞いてひとまずは安心。
現実世界なら『地獄を見せる』は比喩表現だが、この魔人が言うとシャレにならない。
本当に地獄に叩き落とす、その通りの意味にしか思えないのだ。




