第3話 盗賊はいちいち笑う
「ちっ、とばすぜ! しっかり掴まってろセナ!」
「はいっ……!」
アアアーシャは馬車の速度を上げるが、スピードの差は明白だった。
馬に乗った男達はあっという間に距離を詰めてきた。
男達はやはり盗賊のようだ。それぞれが斧や剣などの武器を持ち、顔や腕には入れ墨のような模様を入れている。
この男がリーダーだろうか。頭に赤い布を巻いた男が軽く手を挙げる。
それを合図に馬が左右に展開したかと思うと、馬車はすぐに囲まれてしまった。
「おう、女子供で馬車旅かい? いいねぇいいねぇ!」
「俺らも混ぜてくれねぇか? うひゃひゃひゃ!」
「つーか! どっちもすっげぇかわい子ちゃんだぜぇ! ぎゃはは!」
業者台に座るのが女だと分かると嫌な笑いを浮かべて声をかけてくる男達。
馬車に乗っているのが女二人ということでナメているのだろう。
「ちっ、下衆どもがうぜぇんだよ! 痛い目に合いたくはねぇだろ! さっさと消えな!」
眼光鋭く睨みつけるアアアーシャだがこの状況で効果があるはずもない。
会話は逆効果だ。
「威勢のいいネェちゃんだぜ! ケケケ!」
「つーかすげぇカッコしてんな! 旅芸人か? ガハハハ!」
「なぁ、俺と遊んでくれよぉ! 身ぐるみ全部剥いでからな! うひゃひゃひゃ!」
からかうような挑発するような笑い声が神経に障わる。
「クソが! こいつら何でいちいち笑うんだ? 何がそんなに面白いのか知らねーが楽しそうな人生で何よりだぜ!」
「ど、どうしましょうアーシャさん!」
「当然、全殺しだ!」
「えぇ!? 相手はたくさんいます……!」
アアアーシャは愛用の黒い木刀を取り出す。
「こういうのは気合だぜ、セナ!」
「おぉ……! そ、それも魔剣なのですか?」
「ちげぇ! ただの木刀だ!」
「ええ……?」
魔人が取り出したら何か凄い武器だと思うのも当然だが、これは本当にただの木刀である。
とはいえ剣の達人が持てば木刀だろうが竹刀だろうが関係ないのだろう。
「オラぁ! かかってこ……」
立ち上がろうとした瞬間、右手に持った木刀が吹き飛ばされた。
頭に赤い布を巻いた男が弓で木刀を射たのだ。
ちなみに魔人アアアーシャは別段、剣の達人でも何でもない。
「ちょ! アタシ様の愛刀! 『黒炎稲妻猛吹雪』がぁぁぁ!」
走る馬車から落ちた木刀はすでに遥か後方。回収するのは無理だ。
「うおおおお! さすが赤布サン! すげぇ弓の腕だぜぇ!」
「あぶねーぜぇねーちゃん! そんなモン持っちゃよぉ」
「うけけけけけ! そうそう! 女はおとなしくしてなよ!」
愛刀を失って半分涙目の魔人に対して、大盛り上がりの盗賊達。
走る馬車の振動で揺れる木刀に馬上から矢を当てるとは、赤布の男はかなりの手練れだ。
というか赤布の男、「赤布サン」と呼ばれているのか。そのまんまである。