第1話 魔人のテンションが高い
「よーし! 道案内頼むぜ、セナ!」
「任せてください……! と言っても道沿いに進むだけですけどね」
「この食料も喜んでもらえるといいよなぁ」
「はいっ!」
「セナは好き嫌いとかあんのか?」
「セナは……リンゴが好きです! 嫌いな食べ物はありません!」
「おう、アタシ様も嫌いな食いモンはねぇぜ! なんつっても獄炎の魔人だからな!」
嫌いな食べ物がない事とその異名にどんな関係があるのか。
それは分からないがアアアーシャのテンションの高さは伝わってくる。
何がそんなに楽しいのだろうと思いはするが、二人が笑い合う姿は微笑ましい。
「あの、改めて……お二人共ありがとうございます。魔人さまもケンタローさんも来てくれて、セナ嬉しいです!」
「おうよ!」
「いえ」
「つーか、その魔人さまってのは堅苦しいな。アタシ様は偉大な魔人だが、人間からはもっと親しみをもって接して欲しいんだよな!」
何を持って偉大と言うのかは意見は様々だろう。
しかし超攻撃力や剣から人の姿への変身、宙に浮く力、魔力を察知する力、さらには圧倒的美貌などアアアーシャが人間を超越した存在であることは間違いない。
それでいてその言動には人を見下したようなものはない。乱暴だし強引ではあるが対等だ(過保護な面はあるが)。
友人との関係、マキのアアアーシャへの接し方を見てもそれは感じる。
彼女にあるのはただの自信だ。
自分にしかできないことがある。その事実のみで、誰かと比べての優劣などではない。
「ダチからはアーシャって呼ばれてっからよ、セナもそう呼んでくれよ!」
「わ、わかりました! アーシャさんっ!」
「健太郎もそう呼んでくれて構わないぜ?」
「分かりました、アーさん」
「いや省略しろって話じゃねぇからな?」
「……せっかく親しみを込めているのに。いい愛称じゃないですか。文字数も少なくて呼ぶの楽だし」
「最後のが本音だろ! 何が親しみを込めているだこの野郎!」
風は冷たいが、日差しは暖かい。
現実世界は何時だろう。
こっちに来てからそれなりに時間が経っているはずだが、とにかく朝が早かったので……おそらく午後13~14時くらいだろうか。
馬車の揺れは眠気を誘う。
終電で帰宅し始発で出社する程度の睡眠に加え、馬車を修理するような労働をこなせば健太郎の疲労も相当である。
おまけにここは会社ではない。眠気に抗う必要もない。
「ところでセナ、どうしてオマエ一人で助っ人を探してたんだ?」
「それは……」
眠りに落ちそうな健太郎だったが、それは気になっていた。