第2話 ヤンキーと木刀で魔獣を狩ろう
「そういや健太郎、オマエどう見てもこの世界の人間じゃねーよな」
「この世界? どこなんですか、ここは」
「オマエから見れば……異世界ってやつか?」
空に浮かぶ女性は魔人だし、周囲はまったく見覚えのない景色。
健太郎の知識や思考の範囲だと、なるほど異世界に迷い込んだというのが一番しっくりきた。
「どうやってここに来たんだよ?」
「さぁ……気づいたらここに居た、って感じです」
「へぇ、さっき『引かれあう』って言ったけどさ。オマエが弱すぎて一方的に引っ張られたんじゃねーの?」
魔人は笑う。
何がおかしいのか健太郎は分からない。
異世界……。
心が躍る言葉なのだろうが、今の健太郎には全く魅力に感じない。
しかし目の前にひらすら広がる草原は多少ではあるが爽快感を覚える。
この世界も冬なのか寒さは元の世界と大差ないが、風に乗ってかすかに草の匂いがした。
そういえば座っていたはずのベンチはいつの間にか岩に変わっていた。
傷のような斬り込みのような跡がある。ここに魔剣が刺さっていたのだろう。
「さて、と。まずはアレだな」
魔剣の魔人アアアーシャが取り出したのは、真っ黒な一本の木刀。
それを片手で軽く振ると「アタシ様愛用の木刀だぜ」とか言ってくる。
オリエンタルな格好に木刀は似合わない……と思いきや、何故かしっくりくるのは持ち主がヤンキーだからか。
ていうか何に愛用してるんだ。
「こいつを使えよ健太郎。ここいらは魔獣が出るぜ」
「……」
「………」
「…………」
「………いや持てよ武器を!」
「ええ……意味わからないんですけど。なんで僕がそんなものを持たないといけないんですか。ていうか武器をエモノって呼ばないでくださいよ」
「ほら、言ってるそばからもうそこまで来てるぞ! ツノウサギだ!」
アアアーシャが指をさす方向に健太郎は首だけ動かすと、白いウサギのような獣が視界に入った。
ウサギと違うのは頭に二本のツノがあることだ。
あと目つきが悪い。
そのツノウサギがこちらに向かって走ってくる。
「魔獣ってあれですか……」
「そうだ! この世界には強い魔力をもった獣、魔獣が生息してんだよ! 人間を見ると襲ってくるぞ!」
どうして魔獣は人間を襲ってくるんだろう。
疑問に思う健太郎だったが面倒なので聞かない。
「早くこいつを持って構えろって!」
「嫌ですよ、どうして僕が」
「この状況で逆に凄いなオイ! 魔獣が襲ってくるからに決まってんだろ!」
「でも、こっちに来るとは限らないし……」
「来てんだろどう見ても!」
「途中で曲がるかもしれないし?」
「あぁあ! 仕方ねぇなクソっ!」
アアアーシが突然ふわっと浮かび上がった。
そして空中でクルリと一回転すると、その姿が剣に変わる。
「……おお?」
剣身も柄も黒く、どこか禍々しさを感じるその剣は燃えるような熱を放っていた。
そして健太郎の右手に強引に入り込む。
「え、ちょ、なんですか!?」
黒い剣の柄を右手で握らされる格好になった健太郎。
鈍く光る刃はオモチャでも何でもない。正真正銘の、触れれば切れる剣だ。
武器というものから感じる嫌悪感だろうか、振り払うように思わず腕を振る。
すると次の瞬間、その剣の先からビームのような炎が放たれて、向かってきた魔獣を一瞬で吹き飛ばした。