第3話 漫画のヤンキーみたいだ
「ところで嬢ちゃん、オマエ一人か? ここらは魔獣が出るのに子供を一人にするなんて親は何やって……あ、もしかして迷子か? 迷子なのか?」
「いえ、あの……」
「し、心配すんな。アタシ様たちが家まで連れて行ってやっから! な!」
急に慌てる魔剣の魔人。本気で心配しているようだ。
サルと戦っていた少女を「助ける」と言い出したことといい先ほどの気遣いといい、
乱暴で粗暴な魔人だと思っていたが根はやさしく面倒見が良いのだろう。ますます漫画のヤンキーみたいだ。
「アアアーシャさん、まずはご本人の話を聞いてあげないと……」
「なんだオマエ? 不安なこの嬢ちゃんの気持ちを察してあげられないのか? 迷子ってのはなぁ、なかなか言い出せねーもんなんだよ!」
「はぁ……というか、キミはホントに迷子なんですか?」
視線を少女に向ける。
「いえ、私は迷子というわけでは……」
「は? なんだそれ、オマエ迷子だって言わなかったか?」
「い、言っていません……」
「ほら」
「なにぃ!?」
どうも空回りというか、この魔人は思い込みが強い面もある。
言ってもいないことを勝手に読み取って判断する人は仕事で多く接してきたので、健太郎には慣れたものであったが。
「迷子じゃないなら一人で何やってんだよ」
「あの……探している人が……」
「おう! 人探しか! いいぜ、手伝ってやるよ! ここらはアタシ様の地元だしな!」
アアアーシャは自分の顔に向けて右手の親指を立てる。
というか魔人に地元なんてあったのか。
健太郎は周囲を見渡す。
最初にいた草原と違って、ここはごつごつした岩と痩せた木。乾いた大地。
非常に殺風景な場所だった。
こんな所で人を探して、誰が見つかるのだろうか。
「あ、ありがとうございます魔人さま! でも、もう見つけたんです、探している人……」
「早! マジかよ! 良かったな! アタシ様の知ってる奴かな」
喜んでくれるアアアーシャを見て少女もうっすらと笑顔を見せる。
しかしすぐに笑みを消すと、少女は控えめに健太郎を見た。
「あ、あの、そちらのお兄さんです……」
「え? 僕ですか?」
意外な展開に驚く健太郎。
「健太郎ぉ!? オマエ何やったんだ? 早く謝れよ!」
「……なんでやらかした前提なんですか」
この世界に来てからずっとアアアーシャと一緒だったのに、一体いつどうやって何をやらかすというのか。
「アタシ様も一緒に謝ってやるから! な!」
「……あなたは僕のどういう立ち位置なんですか。お母さんポジションですか」
「い、いえ、魔人さま! そういうのではないんです。あの、私の話を聞いてくださいますか……」
「お? おう?」
やはりこの少女はお礼を言うためだけにここに来たわけではなかった。
その態度からは必死さを感じる。
この流れで少女が「木の上から猫ちゃんが降りれなくなっちゃってるの。助けてあげて!」みたいな事を言い出すとも思えない。
おそらく厄介事だ。面倒なことになるかもしれない。
しかし健太郎は話を聞く事にした。
「……わかりました。聞かせてください」