第2話 破壊と殺戮はダメ。獄炎はOK
剣が人の姿に変身したことで美少女は盛大に驚く。
「はわ! はわわわ! 剣が女の人になった!?」
「あああ、わりい! 大丈夫だ、そんなにビビんなよ。アタシ様は魔人! 魔剣の魔人だ!」
「……はぁ……」
「んだよ健太郎、そのため息はよ」
「アアアーシャさん、剣がしゃべったらビビるかもと考えるのなら、剣が人間の姿になったら驚くかもという思考には至らないのですか」
「うっせーな! 至らねーし!」
「あとそのバカ笑い、失礼、バカみたいな笑いは何ですか。バカみたいですよ」
「言い直せてねーからなオイ! オマエのせいで萎縮しちまってる嬢ちゃんを和ませてやろうとだな!」
失敗をごまかすように健太郎を小突くアアアーシャ。
普通に痛い。
「魔剣の魔人……さま……?」
ただでさえ健太郎に対して引き気味だったのに突然剣が人間の姿になったことで警戒心がMAXの少女だったが、アアアーシャの言葉に反応を示した。
「おう! アタシ様の名は獄炎のアアアーシャ! 強くて美しい! そしてかわいい魔人様さ!」
腰に手を当て胸を張り、ここぞとばかりにふんぞりかえるアアアーシャ。
魔人様と呼ばれたのが嬉しかったらしい。
少女はおそるおそるといった感じだが、アアアーシャの姿をきちんと見ようと視線を向けた。
アアアーシャの言った「かわいい魔人」が気になったようだ。
「わぁ……」
魔剣の魔人はものすごく美人でやたらと露出の高い格好をしていて、しかもあぐらをかいたまま宙に浮いていた。
真紅の瞳は闇より深く、赤く長い髪は激しく燃える炎のように輝きながら、澄んだ川のように清らかだ。
頬も唇も甘く色づき、這えば雪のように滑り押せば刃も跳ね返しそうな弾力のある肌。
その存在はどこを取っても圧倒的で、見るものの目を離さない魅力にあふれていた。
「魔人さま……きれい……」
「おおっ! だろうそうだろう? 嬢ちゃん、見る目あるなぁ!」
目を輝かせ、羨望の眼差しをアアアーシャに送る少女。
この一言で魔人は有頂天に。「どうだいこれが世間の反応だよチミィ」と言わんばかりに健太郎の肩に手を乗せてきた。
健太郎もアアアーシャのことを美人だとは思っているが、この絡まれ方は正直ウザい。
最小限の動きでアアアーシャの手を振り払う。
「ていうか、獄炎ってなんですか獄炎って」
「オマエが言ったんだろ? カッコよかったからアタシ様の二つ名に採用してやったぜ!」
どうやら『獄炎』、マジで気に入ったようである。
「……破壊と殺戮はダメでしたか」
「ダメだ! かわいくねぇ!」
ということは『獄炎』はかわいいのか?
ヤンキーなら『破壊』とか『殺戮』とかのフレーズも好きそうだが、それらはダメで『獄炎』はオッケーとは。
うーん、ヤンキーの好みも難しいんだな……などと考える健太郎。
彼の中で魔剣の魔人はすっかりヤンキー扱いであった。